ローカル&サステナブル、全米で一番住みたい町、ポートランドの魅力とは!?
世界でもっともローカル&サステナブルな都市といえばポートランド、と言われるほどこの都市で進むオーガニックカルチャーが熱い注目を浴びています。ここ数年、日本のメディアでもポートランドについての記事をよく目にするようになりました。オーガニック指向のライフスタイルで日々過ごしたい人やオーガニックという文化を大切にしたいと願う人々がこの街に住むことでこのムーブメントが定着し、今や都市のブランディングにさえなっています。’ポートランドスタイル’に時代が追いついたと言えるのかも知れません。
環境に優しい都市とされ、その評価はアメリカ合衆国で第1位、国際的に見てもアイスランドのレイキャヴィークに次いで第2位と言われるポートランド。その人気の高さは「毎週400人が移住してきている」という驚くべき数字からも証明されています。さてポートランドには一体どんな魅力があるのでしょうか。
オレゴン州は「太平洋のワンダーランド」である
アメリカ合衆国北西部のオレゴン州にある都市、ポートランド。ウィラメット川とコロンビア川の合流地点付近に位置しています。人口は約58万人。市名は町の創設者の一人、フランシス・ペティグローヴ (Francis W. Pettygrove) の出身地、メイン州ポートランド市から来ています。肥沃な農地を抱える周辺の農産物集散地として発展、戦時中に軍事産業によって財政を潤したようですが、今日では半導体、電子部品、情報、通信関連企業の集積がすすみ、シリコンバレーに対抗して、同市からワシントン州シアトルに至る一帯をシリコンフォレストと呼んでいます。
ポートランドの位置はこちら。
オレゴン州は自然が豊かでアウトドアが人気で、その上グリーン(環境)を推進し、ローカル&サステナブルを掲げるレストランやカフェがたくさんあることなどが「全米で最も環境に優しい都市」と言われる所以です。
一年を通して雪山スポーツを楽しむことができ、雄大な渓谷はアメリカ合衆国でも有数のホップ栽培地域で、地ビールの生産も盛んです。さらには世界最高のピノノワール・ワインを生産するワイナリーも有名です。とにかく自然に囲まれた環境と食が最大の魅力です。オーガニック農産物を取り扱うファーマーズマーケットはもちろん日常の一部です。
ライフスタイルマガジン『KINFOLK(キンフォーク)』の成功
この街に拠点をおく季刊誌「キンフォークマガジン」の爆発的な人気はポートランドという地名を一躍有名にしました。芸術家、作家、デザイナー、写真家、料理人、といったクリエイター集団がライフスタイルや食のあり方などを通じた新しいカルチャーを発信しています。アンティーク&ヴィンテージ調のペーパーバックも発行していますが、ウェブサイトがとてもシンプルで綺麗です。
昨年は日本語版も発売されました。マガジンとはいえ、まるで写真集のようなクオリティです。
キンフォークとは、「家族や親しい者を意味する”KINSFOLK”」という言葉からSをとったもので、家族や友人、隣人といった小さな集まりということを意味しています。(『スモールギャザリング』とも言っています。)キンフォークのビジュアルとコンテンツが瞬く間に注目を浴び、facebookでは現在15万人以上の「いいね!」を獲得しています。どんなものを食べ、どんなライフスタイルを送りたいのかという現代のトレンドともマッチしたその世界観が人気の理由だと考えられます。
ここ日本でもポートランドのガイドブックが発売されました。ポートランドのその世界観がとても魅力的な写真とともに感じることができる素晴らしい一冊です。
クリエイターが多く住み、サスティナブルで身の丈に合った上質な暮らしを求める姿勢、この本は旅のガイド本に止まらず、新鮮なライフスタイルを送るヒントとしても役立てられる一冊となっており、現地在住者の協力のもと製作されたとのこと。私もお気に入りの一冊です。
EAT(食べる)、LISTEN(聞く)、MAKE(つくる)などの動詞を切り口に420件以上のスポットを紹介。ファーマーズマーケット、サードウエーブコーヒー、マイクロブルワリー、DIYやスモールパブリッシング、タトゥーやLGBTQ(レズビアン、ゲイ)などのカルチャーや、シーンのキーパーソンに寄稿してもらっています。ポートランドが言うなれば時代のある意味先端を行っているとも感じることができるでしょう。
ポートランドの人たちはスーパーに買い物に行くのと同じくらい、日常の延長として気軽にレストランで食事を楽しんでいるといいます。市内にビール醸造所は60もあり、1つの街としては世界最大。市内だけで約1000種類ものビールが飲めるビール天国でもあります。ポートランドの人たちが、働きつつもあくせくとした感じがなく心地よく暮らせている理由は、「街が小さいこと。人々が優しいこと。気候がよく、暑すぎず寒すぎないこと。そして一番大切なのは、みんな支え合おうという姿勢がとてもあることだと思う」だといいます。
『slow money movement(スロー・マネー・ムーブメント)』とは?
スローフード運動と呼ばれるものがあります。これは季節の食物を食べ、地産地消を行うことでサステナブル(持続可能)な社会づくりをしようとするものです。肥沃な土壌で農作物を作り、豊かな環境のもとで何よりも健康を維持し、結果的に利益構造を生み出していこう、という考え方です。
この運動をうけ、近年アメリカでは若い人でもオーガニックの農産物を志向する若い農家が増えているといいます。彼らは比較的小さな規模で農業を行っていますが、この運動を推進する農家や食品企業に対して投資を行っている投資家や団体がおり、彼らをサポートしています。「小規模の食物企業に投資するための運動」とも言えます。この一連の流れが「スロー・マネー・ムーブメント」と呼ばれるようになりました。現在は190社を超える小さな食品関連企業で2400万ドル以上もの投資が行われています。
日本の「オーガニック」はこれからどう根付かせていくのか?
さてここ日本ではどうでしょうか。オーガニックは相変わらず”特別な”扱いをされていると感じます。メディアは一様に「女性に人気な」という枕詞を必ずと言っていいほどつけています。「もう下火だ。」とか「ブームは去った。」「なかなか市場が広がらない。」という人さえいます。
私が考える日本のオーガニックの定着構想は「異業種からの参入」だと考えています。広がりを付けていく、立体的に伝えていくにはもっと異業種の人たちとの関わりが必要だと思うのです。
「クリエイティブ・シティ」という考え方があります。この概念は英国のチャールズ・ランドリーが提唱したことで知られており、「芸術や文化及びクリエイティブ・インダストリーとまちづくりの一体化を志向する、 ヨーロッパを中心に盛んに唱えられている新しい都市創造の概念。」のことです。
例えば、イギリス北東部のニューカッスルとゲーツヘッドという都市において、かつて栄えた造船業の衰退によって中心部が荒廃してしまいました。そこで市は、さびれゆく造船業の技術を用い、新たな街のシンボルとして巨大なパブリックアート 「エンジェル・オブ・ザ・ノース」を建設したのです。 地元の造船技術を用いたということと、観光地化に成功させた事例として大きな話題になりました。このような文化政策と都市政策の融合が「クリエティブシティ」と呼ばれるものです。
「創造性」が脱工業社会において新しい価値を都市にもたらし、活力になるものだと考えられるものです。 さらに、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)では「クリエイティブ・シティズ・ネットワーク」という取り組みがあります。 クリエイティブ・シティーズ・ネットワーク事業とは、文学、映画、音楽、クラフト&フォークアート、デザイン、メディア芸術、食文化の7分野において、都市間でパートナーシップを結び、相互に経験・知識の共有を図るためのネットワークを構築する事業です。その国際的なネットワークを活用して国内・国際市場における文化的産物の普及を促進し、文化産業の強化による都市の活性化及び文化多様性への理解増進を目的としています。 ( 日本では名古屋、神戸、金沢が選ばれていますが、最近は札幌市も選ばれたようです。)
ポートランドの魅力は食をクリエイティブ対象としてフィーチャーしているところだと感じます。ファストフードやいわゆるチェーン店などは都市の風土としてまず受け入れられないものでしょう。そんなものは必要ないと。だからこそ、キンフォークのようなメディアが誕生し、世界中にファンを増やしているのです。
食生活やライフスタイルとしてのオーガニックは決して一過性のものではありません。人々の生活に根付いているものであり、人生の価値観ですらあるものです。全ての人がオーガニック志向になるということはありえませんが、健康や環境、ライフスタイルについて考え、見直してみる時期はまさに今だと思うのです。ポートランドのような街がこれだけのインパクトを与えていることを知り、羨ましく感じる一方で、これからの社会のあり方と個人がどのようなライフスタイルを望んでいくのかを考える良いきっかけだと感じます。
マスメディアが世界を支配していた時代からグローバリゼーションの時代へとシフトし、働き方、働く場所、生き方、考え方など多様な価値観が生まれています。食文化ももちろんその中のひとつです。私たちは何を食べ、何を大切にしていくのでしょうか。ひとつのヒントとして、ポートランドという都市から学べることはどうやらありそうです。
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