飲食店スタッフが激白。「熟成肉」と言う名で提供される「腐った塊」の裏側。
飲食店スタッフが激白。「熟成肉」と言う名で提供される「腐った塊」の裏側。
「肉好き」を自称する人が急増して、
「肉会」や「肉女子」という言葉もすっかり聞き慣れた昨今。
国内には、様々な肉料理やブランド肉を専門にする飲食店が増え続けています。
そんな肉ブームの火付け役の一人でもあるのが、「熟成肉」。
数年前に、アメリカの某ステーキブランドが登場したことを発端に熟成肉ブームは過熱。
たくさんの外資系ステーキハウスの参入とともに、
国産牛や、さらには豚肉などのその他の肉にまで、熟成ブームは広がりを見せています。
けれど、そんな熟成肉人気に乗っかり、
粗悪な熟成肉が市場に混ざりこむようになってしまったのです。
長らく飲食業界にいた私は、その熟成肉の人気の裏側にある問題を目の当たりにしてきました。
そして、正直なところ、
今では、熟成肉を食べようとは思いません。
美味しく、安全なものを提供していることが確認できた、数店舗のレストラン以外では。
国内でも、安心・安全で美味しい熟成肉を扱っているお店はあります。
みなさんには、大々的に推しメニューとなっている「熟成肉」という言葉に惑わされず、
「正しい」熟成肉を楽しんでもらえるよう、
日本における、熟成肉人気の裏側をお見せします。
菌の正しい取り扱いこそ、「正しい」熟成肉を作る方法。熟成肉とは??
みなさんは熟成肉と聞くと、どんな印象をもちますか?
「柔らかい」「うま味が強い」など、
ポジティブな印象を持たれるのではないでしょうか?
確かに熟成をかけた肉は、柔らかく、うま味が増すことはあります。
それは、肉本来の持つ酵素によって、たんぱく質がアミノ酸へと分解されるという過程=熟成(エイジング)によるものです。
この熟成過程、簡単に言えば、肉を寝かせておけば、勝手に進みます。
しかしその「寝かせる」過程において、菌の存在がポイントとなってきます。
不衛生な粗悪品は、菌と正しく付き合わなかった証拠品でもあるのです。
熟成肉の作り方には2つの種類・パターンがある
寝かせている間に、肉の中に存在する酵素たちが働いてくれて、
熟成が進んでいくのですが、
その寝かせる方法は2つあります。
■ドライエイジング■
低温・高湿度、かつ、扇風機などにより風が常に対流している状態で寝かせる方法です。
アメリカのステーキハウスをはじめ、欧米における一般的なエイジング方法で、
国内で提供されているほとんどの熟成肉が、ドライエイジング法によるものです。
■ウェットエイジング■
真空パックや布などで肉を包むことで乾燥を防ぎ、低温状態で寝かせる方法です。
ドライエイジングに比べ、設備面でも負担が少ないため、チェーン系の飲食店では多く用いられている方法です。
正しいエイジングを行わないと、熟成肉は有害な菌が繁殖する温床に
2パターンのエイジング方法は、
どちらの方法でも、肉のたんぱく質からアミノ酸への分解が促進されます。
しかし、熟成過程においての菌の存在は、敵と味方が表裏一体の状態でついて回ります。
■ドライエイジング■
乾燥した表面を青かびが覆うことがあります。
しかし、この青かびは非病原性のもので、
表面を覆うと、その他の有害な菌をシャットアウトし、
肉の中では酵素分解が進み、うま味が増していきます。
しかしながら、温度や湿度などの保管状態が良くない場合、
空気中に漂う、様々な菌が表面に付着し、繁殖してしまいます。
食べる際には、基本的にカビの部分や周りの部分をトリミングされた肉となるので、
カビだらけでも、中身はうま味がつまっているという状態ができあがります。
■ウェットエイジング■
ウェットエイジングの場合も、表面をカビが覆うことがありますが、こちらもトリミングにより、提供時には取り除かれるため、人体に害は無いとされています。
しかし、肉表面に食中毒菌などの有害な菌が付着していた場合、
保存中に肉の内部まで菌が侵食する可能性があるため、
トリミングをして焼いたものであっても、食中毒になる危険性が出てきます。
どちらの方法によって熟成されたとしても、有害な菌が繁殖してしまうと、
食中毒だけでなく、感染症やアレルギー、中には発がん性物質や神経障害を懸念されるカビが繁殖してしまうなど、人体にも大きな影響を与えてしまいます。
自家製熟成肉は、ただの腐敗肉!?
徹底した管理体制が要。大手熟成肉提供店の実態
このように、どちらの熟成方法においても、
最も重要なことは、保存における衛生管理につきます。
熟成肉を提供する飲食店はたくさんありますが、
熟成のための設備や管理方法をしっかりと設けているところは少ないのが現状です。
ドライエイジングにおいては、室温・湿度の管理とともに、常に風を回しておく必要がありますので、
必然的に熟成用の部屋などを設け、専用機器を設置することになります。
先の某アメリカステーキハウスなどには、
各厨房にきちんと専用の熟成庫が設けられており、
シリアルナンバーや日付などで、熟成状態を管理する体制が組まれています。
また、京都を拠点としている、熟成肉販売を専門とする有名業者でも、
自社の熟成工場の中でしっかりとした管理体制の下、熟成が行われていました。
ウェットエイジングにおいても、
チェーン系飲食店でよく用いられると言いましたが、
たくさん店舗展開しているような飲食店には、
セントラルキッチンという工場があり、
そこである程度まで調理したものを真空パックするなどして、各店舗に届けています。
一律の品質を保つためですね。
ですので、熟成肉の使用においても、
店舗には提供直前状態で届けられるため、衛生面においては、きちんと管理されたものと言えます。
エイジングの過程が見えない熟成肉提供店は危険!
じゃあ、どこの熟成肉が危ないのかというと、
個人経営や展開規模の小さい飲食店です。
私が見てきた飲食店の中では、
ウェットエイジング法らしき方法で、
自家製熟成肉を提供している小規模店舗がとても多くありました。
熟成度合いの判断基準はシェフの鼻!というものです。
他の食材が混在している冷蔵庫の中で長期保存された肉は、
周りにカビが生え、チーズのような香りがしました。
色はどす黒く、肉汁は変色しています。
どこから見ても「腐っている」ようにしか見えません。
しかし、そのカビだらけの塊は、その日のおすすめメニューとして、たくさんのお客さんに提供されました。
味は、濃厚なナッツのような風味が強烈で、肉の味はほとんどしませんでした。
幸い、私を含め、その肉を食べて体調を崩したという人はいませんでしたが、
それ以来、熟成肉を食べるときのリサーチがかなり入念になったことは言うまでもありません。
このように、衛生管理をきちんと行わず、
熟成肉という人気にあやかって、古い肉を出す店舗が本当に多くあるのです。
熟成肉にとって日本は無法地帯!遅れ続ける規制への取り組み
熟成肉ブームが起こってから、数年が経ちました。
私が見てきたような、劣悪な品を平気な顔で提供し続ける飲食店が後を絶たない中、
国としての対応はあまりにも遅れています。
そもそも、日本には熟成肉が適応される食品衛生基準が存在していません。
日本ドライエイジングビーフ普及協会という団体が、
熟成肉(ドライエイジングのみ)についての定義を定めているものの、あくまで民間団体ですから、規制効力はありません。
2016年に農林水産省により、熟成肉人気による各種問題点が報告され、
JAS認定への取り組みについても協議されたようですが、
特にその後動きのないまま現在に至ります。
アメリカでは米国食肉輸出連合会 (USMEF)という機関が、
厳密に熟成肉(ドライエイジングのみ)について、規格を定めています。
これはその名の通り、海外輸出用の食肉に対するものです。
和牛をはじめ、日本の畜産物の海外人気が高まっている今。
しかも、輸出にも力を入れて取り組んでいるのであれば、
しっかりと食品の規格整備を行うことが、
安心・安全な日本の食材イメージを保つ上で不可避なことでしょう。
出典:農林水産省『平成27年度JAS規格化委託事業 事業結果報告書』
http://www.maff.go.jp/j/jas/pdf/jasjigyo_houkoku_h27.pdf
出典:米国食肉輸出連合会 (USMEF)『米国のドライエイジングビーフ関連ガイド集』
https://www.americanmeat.jp/trd/publications/book/pdf/dry_aged_beef_of_usa.pdf
熟成肉と腐敗肉は紙一重!しっかりとした確認と店選びこそ、消費者に必要なこと。
酵素のパワーで、柔らかく、美味しくなった熟成肉。
人気が高まりと、飲食店などの提供業者の急増に対し、
規制が追い付かず、粗悪品が蔓延するという、
残念な現状となってしまいました。
今年に入り、やっと東京都が、熟成肉取り扱い事業者に対し、
衛生管理体制の実態調査を行い、
管理体制の甘さによる、食中毒の危険性を把握したところです。
まだまだ、規制が始まるまでには時間がかかるでしょう。
しかし、お肉は食べたい!というのは、私たち消費者の常。
お肉を過食すると環境にも負担がかかるなど色々懸念はあるものの、全員がヴィーガンになる、というのも無理があるでしょう。
正しい熟成方法と管理体制をとって、美味しく安全で本物の食材を提供しているところは、ちゃんとあります。
肉に限らず、必要なのは、現状を知り、正しいお店や事業者を選べる目を持つことです。
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