オーガニック後進国日本がオーガニック大国スイスに学ぶ、これからのオーガニック農場とマーケットの関係
みなさんはスイスというと、何を思い浮かべますか?
アルプス山脈を望む美しい自然に囲まれたスイスは、
乳製品などの美味しい食材はもちろんのこと、古くから医療の研究開発がさかんに行われている国で、
医薬品メーカーやコスメブランドが多く存在しています。
そんな美しい自然と豊かな食材、高い医療技術をもつスイスは、
トリートや老後ライフを満喫するためにたくさんのセレブリティが各国から訪れる、人気のリゾート地でもあるのです。
そして、スイスはオーガニック大国としての一面も持っており、国民一人当たりのオーガニック食品の年間購入量は毎年世界1位。
その市場規模も拡大を続けながらも、消費者と生産者の意識の高まりによる市場の成熟も同時進行しています。
九州とほぼ同じくらいの小さな国は、
なぜ世界屈指のオーガニック大国となったのでしょうか?
そこには、日本のオーガニックマーケットを成長させていくためのヒントがたくさん隠されているのです。
出典:外務省「スイス連邦基礎データ」
世界規模で広がるオーガニック市場の中でますます存在感を示すスイス
FiBL(スイス有機農業研究所)とIFOAM-Organics International(国際有機農業運動連盟)が発表した、世界のオーガニック産業の調査報告によると,
2016年末時点で、世界のオーガニック市場は日本円にして10兆円を超え、11兆円に迫る勢いです。
世界規模で高まるオーガニック商品へのニーズですが、スイスでも同様に市場は成長を続けています。
過去10年(2017年時点)で、国内のオーガニック商品の消費量は増加し続けており、
国民一人当たりの消費量も、オーガニック先進国のイメージの強いドイツを抜いて、262ユーロ(約32,330円)。
] また、国内の農地面積に対するオーガニック農地の割合でも、
こちらもドイツを抜いて、11.7%とヨーロッパで4位にランクインしています。
国民数、国土面積、市場規模…どれをとっても、オーガニック先進国と言われるドイツやアメリカに比べ劣るスイスですが、
国民ひとりひとりのオーガニックへの意識の高さや日常生活への浸透を比べてみると、非常に高いことがよくわかります。
出典:FiBL『The World of Organic Agriculture 2018』
スイスのオーガニックライフの浸透の裏には国民の「オーガニック商品を買う理由」にあった
みなさんは「なぜ」オーガニック商品を選ぼうと思うのですか?日常生活になるべくオーガニックを取り入れようと意識している方の多くからは、農薬や化学添加物を避けたいからという答えが挙がるのではないでしょうか?
各国の調査においても、オーガニック商品を選ぶ理由として、「安全性」や「健康への配慮」が多く挙げられています。
しかし、スイスの人々からすると、オーガニックを選ぶ理由は少し違ってくるのです。
オーガニック商品を選ぶ理由<スイス編>
1. 環境保護のため
2. 動物保護のため
3. (自分/家族の)健康のため
いかがでしょうか。
このように、「自分たちの消費に責任を持つ→オーガニックを選ぶ」という姿勢をもっている国民が多くいることこそ、
オーガニック商品が自然とそれぞれのライフスタイルに合った形で浸透していっているのです。
「自分ファースト」ではなく、あくまでオーガニックをひとつの結束点として、
その先のより広く大きな世界とつながっているという意識がスイスには根付いています。
オーガニックをマーケティングの一環として闇雲に市場拡大を進めるのではなく、
国民ひとりひとりの人生にしっかりと寄り添い、共存することに注力して成長したスイスのオーガニック市場の姿勢は、
見習うべき点ではないでしょうか?
出典:スイス情報.com「ビオ(オーガニック)の世界的ブームとスイスのビオ事情」
オーガニックと共存する暮らしを支える強力なNPOの存在
スイスには、オーガニック農家によるNPO団体、BIO SUISSE(ビオスイス)という存在があります。
ビオスイスは、様々な点からオーガニック商品を管理、監督し、非常に厳しい基準に基づくオーガニック認証制度を持つ、スイス最大のオーガニック団体です。
このオーガニック認証の存在を国民の約90%以上が知っていると答えるほど、その取り組みは広く知られています。
農業とマーケット、消費者を友好的につないでいる、ビオスイスの取り組みとは一体どのようなものなのでしょうか?
win-win-winな関係を実現するビオスイスの多角的オーガニック観
まずは、ビオスイスの管理するオーガニック認証制度から見てみましょう。
<認証を得るための条件>
・オーガニック農場の生態多様性の保護
・倫理的で健全な家畜の飼育と管理、処理
・化学合成農薬/飼料を使用しない
・遺伝子組み換えなどの人為的な遺伝子操作を行わない
・香料や着色料などの不要な添加物を使用しない
などが挙げられます。
ヨーロッパ各国のオーガニック認証の基準と比べても、ずいぶん大枠な印象が残るのではないでしょうか?
しかし、このビオスイスの基準からは、環境や生物への配慮というものは、決してすべて数値化できるものではないということを教えてくれています。
そして、一見精神論のように見えるこの基準のもとで、各生産者が考えながらより良い商品をつくりあげていくことが、
消費者に届く商品の品質向上にもつながり、消費者のオーガニックを選ぶ眼を養い、
結果的に、生産者-マーケット-消費者の3つがより良い関係を構築しながら、オーガニッックライフが浸透していくことへとつながるのではないでしょうか。
オーガニック商品が身近な存在であるスイスのマーケット事情
スイスのオーガニック商品の購入量の多さが世界トップを維持しているのには、マーケットの存在が大きく関わってきます。
いくら厳しい基準をクリアした、素晴らしいオーガニック商品が生まれていても、私たちが普段買い物をするのは近所のマーケットですよね?
中にはお取り寄せやファーマーズマーケットでしか買わないという方もいらっしゃるかもしれませんが、
国民レベルでオーガニックが浸透していくためには、ハードルが高いのが事実です。
スイスの人々の日常生活にオーガニックが浸透しているのは、Coop(コープ)が大きな役割を担っています。
コープはスイス国内で販売されているオーガニック商品全体の半数を販売しているというのですから、その存在は非常に大きいですよね。
全国各地域に展開しているコープが、自社オーガニックブランドを立ち上げ、積極的にオーガニック商品を販売しているため、国民は手軽に購入することができます。
コープの取り組みに続けて、他の大手スーパーもオーガニック商品を充実させていったことで、供給量が高まり、市場でのオーガニック全体の価格も抑えられるようになったたため、低価格がウリのスーパーでもオーガニック商品を購入できるようになりました。
そうして、若年層へもオーガニックが身近で手軽なものとなり、
さらに需要も増え、生産者もどんどんオーガニックへと参入していきやすい流れができあがっていったのです。
オーガニック先進国になるための起爆剤は誰もが持っている!
スイスは、国民の意識の高さが市場と生産者を上手くコントロールしている代表的な国です。けれども、その意識はどこからともなく湧いて出たものではありません。
最初はなんとなく買ってみたオーガニックの野菜がきっかけだったかもしれません。
もしくは、ふとした時に見た、異常気象のニュースがきっかけだったかもしれません。
そうやって日々少しづつ芽生えていく小さな芽を、大切に守り、
育てていくサイクルがスイスには存在しているのだと私は思います。
生産者が、食ビジネスに関わる人々が、政府が、それぞれに芽生えた芽を見つけ、お互いに育て上げていったことが、
この自然豊かな小さな国が世界がお手本とするオーガニック国となった理由なのでしょう。
スイスの人々に深く根付く「消費する責任」を私たちも強く意識すれば、まだまだ日本のオーガニック市場は元気になっていくはずです。
まずは、自分の中に芽生えた芽を大切に育ててみて下さい。
そして、仲間を見つけたら、一緒に育ててみましょう。
市場も国も、そうやって変わっていくものなのですから。
出典:JETRO(日本貿易振興機構)『欧州におけるオーガニック食品市場の動向』
出典:JETRO(日本貿易振興機構)『エリアレポート:スイス』
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