その身近な不調は既に体内に蓄積されている化学物質のせいかもしれません。化学物質の健康への知られざる影響について。
アメリカの海洋生物学者であるレイチェル・カールソンという女性が
1962年に「沈黙の春」という本を出版し、
「二十世紀というわずかのあいだに、人間という一族が、おそるべき力を手に入れて、自然を変えようとしている」
という印象的な言葉を残し、世界中の注目を浴びました。当時はDDTという農薬が大量に使われており、終戦後の日本でもアメリカ軍によるシラミ撲滅のために、
日本人の体に真っ白になるほどDDTをかけている映像など、記憶している人も多いのではないでしょうか。
彼女はこれらの農薬が害虫だけではなく、鳥や家畜も殺し、やがては人類の生命をも脅かすと警告したのです。
この話はすでに過去のものとして捉えがちかもしれませんが、
現在でも、私たちのごく身近なところで起きているということはご存知でしょうか。
過去の話として片づけるには早すぎるのです。
今回は私たちの身近な「生活の中」に忍び寄る、化学物質についてお伝えしていきたいと思います。
私たちの生活の中に忍び寄る化学物質
<口から入る化学物質>
口から食べ物として入る化学物質には、まず残留農薬の問題があります。
EUなどでは既に規制されている毒性の強い農薬が、日本では依然として使われているのです。
例えば野菜は果物には、殺虫剤や殺菌剤を60回以上散布するよう農協が指導している所もあります。
加工食品では、酸化防止剤、防腐剤、見栄えを良くする発色剤など、
多数の食品添加物が使用されており、発がん性があるとわかっていても禁止されずに使われ続けています。
海外から輸入される牛肉の中には、
がん細胞を刺激すると言われている「成長ホルモン剤」が使用されており、それを私たち日本人は平気な顔で毎日食べています。
国内での使用禁止と矛盾することを国は平気で行っているのです。
<生活環境の中に潜む化学物質>
私たちが普段使っている
洗剤
シャンプー
プラスチック製品
ワックス
化粧品
衣類
カーテン
カーペット
家電製品の中には多数の化学物質が使われています。
外出すれば、
車の排気ガス
公園や街路樹で使用される殺虫剤
PM2.5
光化学オキシダントなどの大気汚染物質
・・・数え上げればキリがありません。
化学物質、実は既に体内に蓄積されている
私たちの体は既に相当量の化学物質に汚染されていることは、海外での実態調査からも明らかになっています。
日本でもようやくその重い腰を上げ、40歳から60歳までの数十人に対して、
血液、尿、食事の内容などを調査することを始めました。
ダイオキシン、水銀、鉛などの化学物質が体内にどれだけ蓄積されているかを調査するためです。
これまでの調査では、微量ですが全員から検出されており、
農薬や可塑剤などの化学物質も検出されているという事実は重く受け止めなければなりません。
化学物質が引き起こす病気とは
アレルギー疾患
喘息、花粉症、アトピー、食物アレルギーなど、アレルギー疾患の患者は1990年代以降、幼児を中心に爆発的に増えています。国立環境研究所では、これらのアレルギー疾患の原因が環境の変化、
つまり化学物質による汚染が大きく関わっていることに注目し、研究を行いました。
その結果、
低濃度の化学物質でも長期間晒されることで、
アレルギー疾患を悪化させる化学物質の存在が既に明らかになっています。
一昔前は、花粉症という病気はありませんでした。
花粉が原因で発症するのではなく、
大気中の化学物質が花粉にくっついて体内に取り込まれ、
その化学物質が花粉症を引き起こすのです。
全容解明のため、現在も研究は続けられています。
発達障害
発達障害という概念には、他人とのコミュニケーションがうまく取れず、特定のことに強くこだわるという「自閉症」や「アスペルガー症候群」、
文字を読んで理解することが苦手な「学習障害」、じっとしていられず、
常に動き回っている「注意欠陥多動性障害」などがあります。
アメリカでは、1990年以降発達障害の人たちが急増している理由に、
環境の変化が大きく関わっていることに着目した、いくつもの論文が発表されています。
原因物質として考えられているのは、
ダイオキシン、農薬、重金属、有機溶剤、ニコチンなどです。
日本でも脳科学者である黒田洋一郎さんは、化学物質と発達障害の因果関係について、講演の中で以下のように説明しています。
「脳の発達を支える遺伝子も化学物質で調整されており、環境化学物質の侵入に脳は大変弱い。脳を作る遺伝子が正常であっても、遺伝子の働きが攪乱されると、正常な発達が妨げられる。(中略)
子供の発達障害は、莫大な数の神経回路のごく一部が、有害な環境化学物質によって攪乱されることが大きな要因と考えられる。」
化学物質過敏症
大量の化学物質を短期間に、もしくは微量でも長期間に亘って体内に取り込んでしまい、
その人の許容量を超えてしまうと発症すると言われており、
一旦発症してしまうと微量の化学物質に晒されただけでも、様々な体調不良を訴える病気です。
国内には推定で約100万人の患者がいると言われており、
原因不明の体調不良でドクターショッピングをしているような人々の中にも潜在患者は多数いるという報告もあります。
発症に至る詳しいメカニズムはまだ解明されていませんが、花粉症と同様にいつ誰でも発症する可能性のある環境病です。
化学物質について規制はないの!?
日本における農薬の規制
国は残留農薬に基準について、厳しく規制していますし、
一日の摂取許容量についても細かく規定されています。
しかし、それは成人の平均体重である60㎏を基準として算出されているので、
小中学生、ましてや乳幼児には全く当てはまらない基準であることを認識しなければなりません。
言い換えれば、体重60㎏未満の人への影響は計り知れないということです。
室内の化学物質濃度の規制
人が空気から取り込む化学物質の規制については、2002年に厚生労働省が「室内濃度指針値」として定めています。
これは「その濃度以下なら人が一生かかって取り込み続けても健康に影響はないと推定される量」であり、確かに一つの目安になるかもしれません。
しかし問題は、13種類の特定化学物質に限られたことなのです。
この指針値が発表されるや否や、国内の建材メーカーやハウスメーカーは、
その13物質以外なら問題になることはないという考えから、替わりの化学物質を大量に使うようになったのです。
その後厚生労働省は化学物質の総量規制に乗り出したのですが、
あくまで暫定目標値であり、基準以下であれば安全が確保されているわけではありません。
人類が作り出した数々の化学物質が、地球環境を破壊し続けている
現代社会に生きる私たちは、溢れかえる化学物質の中で生活しています。
いま世界では約95,000種類の化学物質が使われており、化学物質がなければ文化的な生活を送ることができないことも事実です。
その毒性が十分に解明されないまま、新たな化学物質が作られ、世に送り出されています。
化学物資を100%排除することはできません。
恐れるストレスすらも害になるとして「気にしなければいいのでは」という考えをされる方もいますが、
気にしなければ害にならないというわけではありません。
化学物質とうまく共存するためにも有害性を十分に認識し、「正しく怖がる」ということが必要となるでしょう。
地球温暖化、異常気象、地殻変動など、世界中の至る所で多くの人々が、
かつてない程の規模で自然災害に見舞われています。
科学者たちはそれぞれの理論に基づいて、その原因を特定しようとしていますが、
人類が作り出した数々の化学物質が、地球環境を破壊し続けてきたことへの『地球からのしっぺ返し』のような気がしてならないのは私だけでしょうか?
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