嘘？本当？　現役医学生がエビデンスから探る、電磁波の健康への影響

「電気」は、技術の進歩とともにいろいろな目的で利用されるようになりました。
そして、現在では私達にとって、なくてはならないものとなっています。

「身近な電化製品から発生する電磁波が健康に影響を与えるのではないか」というのは、
聞いたことがある方もいらっしゃると思います。

また科学的な裏付けはともかくとして、電磁波による健康被害を訴える人々は確かに存在し、
その数は年々、増加傾向にあるといいます。

そこで、この記事では、電磁波の健康への影響について、最新の見解を交えながらご紹介したいと
考えています。

そもそも「電磁波」とは？

電界と磁界の総称を「電磁界」と呼びます。
そして、「電磁波」とは「電磁界」という空間に伝わっていく波の事を指します。

そこでまずは「電磁界」を構成するふたつの要素「電界」と「磁界」のそれぞれについて
詳しく見てみることから始めましょう。

「電界」とは？

電界とは、プラスとマイナスの電気があるとこの間に電圧が生じ、発生します。
そして電圧が大きくなるほど電界は大きくなります。

例えば、電気スタンドのコードのプラグをコンセントに差し込んだだけで電圧がかかるため、
スイッチは入っていなくても（ランプは点灯していなくても）、コードの周りには「電界」が発生します。

もちろん、冷蔵庫や電子レンジなどの家電製品や送電線等の電力設備の周りも電界ということになります。

さらに身近な例としては、静電気が作る「電界」もあります。
冬場にドアノブに触れてパチっと感じたことは誰でも覚えがあるでしょう。
これは数万ボルトの静電気が発生し、その電界が指に刺激を与えているのです。

「磁界」とは？

一方の磁界とは、磁気のある空間を意味し、電流が大きくなるほど大きくなります。

磁気というと磁石を想定しがちですが、
家電製品や送電線などの電力設備に電気が流れているとその周りに磁気が発生し、「磁界」が生じます。

また磁石が近いときは引っ張る力が強く、遠いときは力が弱いという性質があるように
磁界も発生源からの距離が遠いほど、弱いという性質があります。

先ほどの電気スタンドを例にとれば、コードのプラグをコンセントに差し混んだ上で、
スイッチを入れると電流が流れ、ランプが点灯します。
この時は、コードの周りにスイッチを入れる前から発生していた「電界」に加え、
新しく「磁界」も発生することになります。

少しわかりにくいのですが、
この「電界」と「磁界」が互いに作用し合って伝わる現象が「電磁波」です。

【参考資料】中部電力『電磁界（電磁波）ってなんだろう』

電磁波の種類

電磁波は以下の3つに分類され、その周波数が大きいほど、
電磁波の持つエネルギーは大きなものになります。

①低周波（発生源は送電線、掃除機など）

周波数0Hz-300Hzの電磁波を指します。
普段の生活では存在しませんが、極めて強い低周波電磁波を浴びると、神経が刺激されます。

②中間周波（発生源はIH調理器、テレビ、パソコンなど）

周波数300Hz-10MHzの電磁波を指します。

③高周波（発生源は電子レンジ、スマホ、ケータイなど）

周波数10MHz-3THzの電磁波を指します。
普段の生活では存在しませんが、極めて強い高周波電磁波を浴びると、体温が上昇します。

電磁波の胎児や妊婦への影響について

普段の生活環境で長い時間、電磁波を浴びても、胎児や妊婦に健康への影響が正じることはありません。

「世界保健機関」の見解によれば、

通常の環境レベル電磁界へのばく露では、自然流産、奇形、出生時低体重、
先天性疾患などの有害な結果が生じるリスクは増加しないことが示されています。

そのことを電磁波の周波数ごとにまとめると以下のようになります。

低周波

生殖機能異常、発育異常、小児がん、成人のがん等を含む健康と
電磁波ばく露との因果関係は否定されています。

中間周波

「国際非電離放射線防護委員会」のガイドラインを下回るレベルのばく露では、
どのような健康リスク上昇も示されていません。
普段の日常生活では、問題になることはないでしょう。

高周波

高周波電磁界のばく露が、がんを誘発または促進するとは考えられていません。

スマホ、ケータイの電波による健康への影響について

「世界保健機関」の見解によれば、
携帯電話が潜在的な健康リスクをもたらすかどうかを評価するために、
これまで20年以上にわたって多数の研究が行われてきたという事実があります。

しかし今日まで、携帯電話使用を原因とするいかなる健康影響も確立されていないとのことです。

一方で、「国際がん研究機関」によれば、
自己申告された携帯電話の累積使用時間が長い程、神経膠腫（脳腫瘍の一つ）のリスクが高まる
という報告があります。
しかし、バイアス（偏り）と誤差があるために、これらの結論の確実性は限定的であり、
因果的な解釈は不可能と同機関は結論付けています。

IH調理器からの電磁波による健康への影響について

「国際非電離放射線防護委員会ガイドライン」の推奨値は十分な安全率を見込んでおり、
IH調理器の電磁波はそれをさらに下回るレベルであるため、影響はないと考えられています。

また、「世界保健機関」の見解によれば、
国際非電離放射線防護委員会のガイドラインを下回るレベルの中間周波電磁波のばく露では、
どのような健康リスク上昇も示されていません。

送電線や掃除機からの電磁波の、
子供への影響について

「世界保健機関」の見解によれば、
0.3～0.4 マイクロテスラ（μＴ、「磁界」の単位）を上回る商用周波の居住環境磁界への
平均的ばく露に関連して「小児白血病が倍増する」という一貫したパターンが示された疫学研究があります。
しかし同時にこれは、生物物理学的メカニズムとして確立されたものはなく、
動物研究も主として影響なしとの結果が出ています。

一般に、送電線や掃除機からの低周波電磁波により、子供に影響があるとは、考えられていません。
総合的な評価としては、生殖機能障害、発育異常を含む健康影響全てについての科学的証拠は否定的です。

「電波過敏症」に関するこれまでの研究成果

関西医療大学保健医療学部の亀節子招聘教授は、

頭痛、耳鳴り、ふらつき、めまい、睡眠障害、血行不良、動悸、関節痛などの症状を伴う
「電波過敏症」の患者は増加傾向にあると報告しています。

事実、住民の合意なしに携帯基地局を設置する電話会社に対して、訴訟が行われることもあるようです。
「電波過敏症」の方は都市環境では生活できず、転居をせざるを得ない場合もあるというのです。

ここで、亀教授が2018年にまとめた
『人工電磁波がもたらす健康影響について–電磁波過敏症をめぐる諸問題–』
という資料で紹介されている、「電波過敏症」に関連する論文を整理してみましょう。

■1979 年のNancy Wertheimer の論文では、
「送電線付近に居住すると小児白血病のリスクが 3 倍近くになる」
と報告された。

■1980 年のJ. L. Sagripanti らの論文では
「マイクロ波の非熱作用によって惹起されるＤＮＡ損傷の可能性」
が報告された。

■1995 年の Sobel 達の論文では、
「電磁波による被爆量の高い人々はアルツハイマー病に罹患する率が増える」
と報告された。

■また1995 年の Henry Laiらの論文では、
「安全とされている基準値内で、携帯電話で使用するのと同等のマイクロ波を
2時間ラットの脳細胞に照射するとDNA損傷が生じる」と報告された。

■1998 年のJ.L. Phillipsは論文で、
「マイクロ波によるDNA損傷」を発表した。

一方で、「世界保健機関」は、
「電磁波過敏症の症状と電磁界ばく露を結び付ける科学的根拠はない」ともしていることから、
“電磁波による健康被害の可能性”については、さらなる研究が待たれているのが現状です。

スマートフォン、携帯電話と脳腫瘍の関係について

まず、「世界保健機関」の見解では、
動物研究の結果上、「長期的ばく露でのがんリスクの上昇がない」ことを一貫して示しています。

また過去最大規模（13カ国参加）の成人を対象とした症例対照研究（※）において、
10年以上の携帯電話使用に伴う神経膠腫および髄膜腫などの脳腫瘍のリスク上昇は見られませんでした。

一方で、東京女子医科大学衛生学公衆衛生学の山口直人教授は、
『ドクターサロン59巻2月号（2015年1月）』において

「携帯電話による、脳腫瘍のリスク上昇の可能性は否定し得ない」
「今回見いだされたこととそれを成り立たせているメカニズムについて、さらなる研究が求められる」
と述べています。

また、「アメリカ食品医薬品局（Food and Drug Administration、FDA）」は、
「携帯電話による健康被害に科学的根拠はないが、携帯電話が100%安全であるという保障もない」と報告。

さらに、福島県立医科大学神経内科の宇川義一教授も、
「携帯電話の使用時間が長いほど、睡眠の質を低下される傾向にある」と報告しています。

まとめ：電磁波が健康にもたらす影響は未知数

世界保健機関が「私たちの普段の生活においては、電磁波が人体に与える悪影響はない」とする一方で、
電磁波による健康被害を訴える患者の数は少なくなく、また、電磁波と疾病との関連性を指摘する科学者や
論文も多く存在しています。


「電磁波の健康被害」についての最終的な結論には、
今後の科学的調査・研究が待たれることは言うまでもありませんが、
必要以上に電磁波を恐れることが逆に大きなストレスとなってしまい、
心身の不調に繋がってしまっては本末転倒です。

メディアによる報道やインターネット検索等を活用し、最新の科学的な裏付けのある調査・研究の状況にも
注意を払いながら情報収集を行って、冷静な対応を心がけるようにしたいものですね。

参考文献:
経済産業省.電気設備から生じる電磁界に係る経済産業省の取り組みについて
総務省.電波の人体に対する影響
世界保健機関.ファクトシート

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