【対談:IN YOU編集長松浦 愛 × おもちゃ箱代表 齊藤 暁彦氏】日本でオーガニックが広まらない理由とは?誰もが心地良い幸せなオーガニックライフを選択できるように。世界と日本のオーガニック事情から考える、今後の課題と可能性。
本物のオーガニックが見つかるオーガニックショップ
オーガニックカフェやスーパーが少しずつ増えてきて、消費者の「オーガニック」ニーズの高まりを感じるものの、日本の現状は、「誰もが気軽に」オーガニックライフを送れるとはまだ程遠いかと思います。
日常生活で必要な食材や日用品、オーガニックのものを手に入れようとすると、ネットで探したりオーガニックスーパーに出向いたり、ひと手間が必要になりますよね。
通りがかりに立ち寄れる、近所のどこにでもあるチェーンスーパーでは、買えません。
なぜ日本では「オーガニック」がなかなか広まらないのでしょうか?
株式会社おもちゃ箱をご存知ですか?ハーブティーが人気のSONNENTOR(ゾネントア)やオーガニック洗剤ブランドsonett(ソネット)の製品名を出すと、きっと多くの読者の方がご存知でしょう。
元々は幼稚園を運営。ドイツのシュタイナー教育を取り入れた流れで、教育事業以外にも現在、「本物の」オーガニック商品の卸売り・小売りをしていらっしゃるのだそう。
誰もが、気軽に自由に「オーガニック」を選択できて、楽しく幸せに生きられる社会になるには。
IN YOU編集長の松浦と、
おもちゃ箱代表の世界のオーガニック商品事情を熟知した齊藤社長が、熱く対談してきました。
「オーガニック」とは?
消費者・生産者・地球、何にとっても優しくて幸せな循環をつくることが、
オーガニック事業会社として、共通する描く未来
◆なぜ、オーガニックの事業を始めたのですか?
齊藤社長(以下、齊藤):子供とお母さんにとって、何か良いものはないかと探し始めたのが、きっかけです。祖母が幼稚園を運営、父がシュタイナー教育に出会ったことが、背景にあります。
その後、シュタイナーが提唱した「デメター認証」の製品を輸入、卸として扱い始めました。
松浦:最初は趣味としてマクロビ関連のことをblogで発信していました。
IN YOUで発信するうちにマクロビのみならず、薬膳、アーユルヴェーダ、ローフード等この世の中には実にいろんな食べ方、生き方をする人がいるんだなということに気が付きまして。
でも、どんな食べ方であってもやっぱり根底にあるべきものはオーガニックです。
優れた食事法であっても「農薬まみれ」では健やかにはなれません。
一つの食生活だけなど、自分たちの視野や世界を狭めるのではなく「全ての人にオーガニックな暮らしを。」というコンセプトで舵を切ることにしました。マクロビだけではなく、もう少し広義でのオーガニックという分野へ広げることにこそ意味があると思ったので。私自身が取り入れて心も人生も変わったので「オーガニック」に人生を懸ける価値を感じたのです。
◆どのような未来を実現させたいですか?
齊藤:家庭内でオーガニックライフを送るにあたり必要なもの全ての代理店となることを目指しています。
輸入卸売業者は、通常1つ、多くて2〜3の製品を輸入、ブランディングして販売している会社が多いけれど、
自分たちが何をしていきたいのかというメッセージを、明確に伝えていきたいと思っています。
おもちゃ箱は、オーガニック製品の表面的な特徴だけでなく、「何の為に製品を作ったのか」、ストーリーある会社やブランドを大事にしています。
シュタイナーが提唱したことをベースに、それぞれのカテゴリーにおいて、オーガニック度が高いブランド製品を扱い、より多くの人に広められるきっかけを多くつくり、人と地球にとって価値あるものが消費されるような、未来をつくりたいです。
今はまだですが、地産地消も大切にしていきたいです。
基礎調味料の取扱いや、輸出も検討中です。その中で、ただの物売りではないプラスαとして、村おこしのようなこと実現させたいと考えています。
松浦:これまで、「どうして、暮らしにオーガニックを取り入れると幸せになれるのか」
「なぜオーガニックが必要なのか」、ユーザーに気付きを与えることを、WEBマガジンを利用して情報発信という形でしてきました。
目指したいのは、当たり前に、オーガニックのもので溢れている社会です。今までは「探すのも大変なもの」というイメージでしたが、これからは「当たり前の存在」にしたいのです。ただ、まずはその為に、より良いものを選択していく、消費者がオーガニックというものを続ける決意をするためのきっかけ作りを手伝っていきたいです。
◆そもそもお二方にとって、「オーガニック」とは何ですか?
齊藤:経済主導になり高度成長を経て、まるで特別になってしまったオーガニックだけど、「昔は当たり前だったこと」です。
特別でない、当たり前に、戻していきたい。
松浦:私にとっては、オーガニックではないものをメインとした、都会生活の乱れた食生活によって過去にバランスを崩した経験があるので、「貴重なもの」というイメージがありますね。
私が生まれたころはすでにオーガニックが当たり前の社会ではなかったんです。
でも、オーガニックのものを食べたり使うと、値段は高いけれど心が満たされます。
プライスレスな経験です。心身共に豊かになれることを身をもって感じたので、
また以前のような状態に戻ることは、恐ろしいとしか言いようがありません。
今ではオーガニックが「欠かせないもの」に変わりましたし、
現代人にとって、絶対に必要なことだと思います。
どうして日本は、「オーガニック後進国」から抜けられないのか?
海外と日本のオーガニック事情の比較
◆日本と海外を比較して、どのようなことを思いますか?
齊藤:定着度が違う、ということです。
よく行くドイツでは、普通のスーパーで当たり前にオーガニックが定着しています。
日本にまだ全体の1%しかオーガニックが普及していない、一番の理由は、価格でしょう。
海外では慣行品の2〜3割増し程度の価格ですが、日本では2〜3倍します。
土地の価格や自給率、輸入品だと輸送コストや関税など、問題が様々あります。
これらをどうしていくのか、どうしていけるのかが、今後の課題でしょう。
松浦:同じく定着度に、違いを感じます。
海外では、やろうと思えばできる環境、暮らしの中にオーガニックを取り入れる余地がありますよね。取り入れているモデルやセレブ、著名人もたくさんいます。だからこそ始めたいと思えばすぐに踏み出せる。
でも、日本にはまだ、ロールモデルとなるような、憧れの存在やお手本になる人が不足していることも、理由の1つかと思います。
特にミーハーなものに飛びついてしまう日本人にとって有名人の発言や行動ほど影響力のあるものはありません。
これからはそういったものを暮らしにナチュラルに取り入れるロールモデルが日本にも増えるといいですね。
また、別の観点になりますが、オーガニック製品の価格が高いということには、生産者側が利益を上げるのが厳しいような無理あるモデルで事業を行っていることが、影響しているかと思います。
どうしても小規模になると高くなる。それは当たり前。
買う人がいなかったらその人たちはやっぱり事業もやめざるを得なくなります。
でもそれをしっかりと、「応援していく」「買い支えていく」という考え方もまだ普及していません。
どちらかというとその真逆で「安ければいいや」という安直な考えがあるように思います。
でも極限まで安価になってしまったものが、今の日本に出回っている添加物まみれの食品の結果ですよね。
一寸先の未来だけが気になるので「安ければいい」ということになると思うのですが、
個人的にはもう少し広い視野をもって商品や物事を選択していただきたいと感じています。
IN YOU MARKETでも、お付き合いしている生産者さんは、比較的小規模で頑張っていらっしゃる方が多いです。
私としては大手が参入することで業界全体が盛り上がると思いますし
それはそれでいいと思いますが、一方で小規模事業のコミュニティについても誰かが広めていくべきではないかと感じています。そして、その役割になれたらと思っています。
齊藤:近年では企業が、オーガニックのPBを作る展開になってきています。
日本にもいずれ、その流れがくるかもしれません。ちょっと脅威です(笑)
そうなっても負けないよう、商品という表面だけでない、その深くに作り手の想いやストーリーが詰まった製品を扱うことを、おもちゃ箱では大事にしています。
松浦:大資本企業とは、「戦う気」だと生き残っていけないですよね。
オーガニックの考え方からも外れますし。
焦らずに独自の芯と想いを持って、価値を提供するよう心がけることが重要なのかなと。
私は、イタリア、スペイン、フランスなど行く先はバラバラなので色々な国を知る機会があります。
今度ドイツへ行こうと思っています。
共通していると思うのは、どの国も、オーガニックを特別視していないということですね。
違いとしては、オーガニックの広まり方は、国民性やトレンドをキャッチするスピードによって変わるのかなと感じます。
例えばスペインでは、オリーブオイルなど製品ごとに素晴らしいオーガニック農家は多く存在しているけれど、街にオーガニックカフェなどほとんどなく、まだ暮らしの部分にまでは落とし込まれていない印象でした。
対極として目立っていたのは、ニューヨークです。
ミーハーな人が集まる中で、セレブや、マーケティングによってオーガニックが急速に拡大している印象でした。
そういう意味では、東京は可能性がありますよね。
NYとも感覚が似ていますし、さらに発展していくことでしょう。
◆日本の優れている点って何でしょうか?
松浦:職人の技術や、丁寧さだと思います。
日本人の「仕事ぶりの丁寧さ」は、海外と比較できない程ずば抜けています。
寿司職人さん一つとっても細やかな技術が素晴らしいじゃないですか。
そういうのもこの業界でまだ活かしきれていないなぁと思っています。
生産者や職人と恊働してブランドを立ち上げ、しっかりマーケティングをして販売していったら、日本のオーガニック製品の価値は国内だけでなく海外でもさらに高まっていくかと思います。
齊藤:コスメキッチンさん・ビープルバイコスメキッチンさんを筆頭とした、オーガニック製品の市場での展開の仕方、見せ方やスピードは日本のすごさだと思います。
ヨーロッパには、ないものです。チェーンのオーガニックショップではだいたい、殺風景にただ棚に置いてあるような、同じ見せ方で売られています。トレンドに流されず、良いものを選択する、という国民性も影響しているのかもしれません。
今注目しているトレンド品は、何ですか?
齊藤:「はちみつ」です。日本ではマヌカハニーが定着てきましたが、ジャラハニーやタスマニアンハニーなど、もっと色々と知られて、トレンドになっていくのではないかと思います。
松浦:砂糖から代替の甘味料に切り替える人が増え、その選択の仕方も発展していますしね。
私が個人的に、最近注目しているのは「モリンガ」です。
粒や粉など様々な形態があり、IN YOUMARKETでも複数の製品を取り扱っています。
体調が良くない人はもちろん、良い人からも好評ですし、本当におすすめです。
楽しく元気にいることで、日本にオーガニックライフを定着。自分と周りも幸せになる循環をつくろう!
「オーガニック」について、日本の今後の課題と期待
齊藤:日本のオーガニックは歴史が短すぎるので、課題だらけです。
哲学的ですが、「人間が生きる意味」というようなことを、次世代に次いでいくべきだと考えています。
その為に卸売業者として、根幹に芯がある製品を扱い、人々のオーガニックライフに定着させていきたいです。
表面的なオーガニック製品は誰でも作れます。アメリカの製品は、表面的で経済主導となっているものが多い。
それが、弊社がドイツを中心としたヨーロッパの製品を多く扱っている理由です。
取り扱う製品選択だけでなく、消費者が弊社製品のようなオーガニック商品にたどり着くきっかけを増やせるよう、営業力を向上させていきたいです。
価格差については、現時点ではなくすことは難しいので、高くても選択するべき意味や価値を伝えていきます。
同業他社ともつながり恊働しながら、盛り上げていきたいです。
松浦:まだ広がるほどの「うつわ」がないことが、日本の課題かと思います。
ご存知の通り、日本人はミーハーな特性を持っています。
メディアに振り回されながら流行にとびつき、そのうち忘れるという繰り返しなので、なかなかオーガニックも定着しません。
オーガニックを手にできることはある意味恵まれていると思いますが
国民が、オーガニックを使うことの意味を根本的に理解する必要があります。
個人の軸がしっかりとすれば、必ず継続されます。
IN YOUでは、作りやすいレシピや手に取りやすい製品の紹介など、忙しい現代人でも今すぐできるオーガニックの提案を行っています。
その中で、たんにトレンドを追うだけではなく
「なぜオーガニックが必要なのか」ということも根気よく毎日発信し、日本に今ある課題を克服していきたいです。
◆読者の方に、暮らしを良くするヒントなど、何かメッセージがあれば是非お願いします!
齊藤:とにかく、楽しく生きることは大切かと思います。どこで誰といるか、が物事の吸収の仕方として重要です。
バランスも大事だと思います。
自分自身、オーガニックではない人とも仲良くして、バランス良くいるように努めています。
心地良く過ごすことを大切にしてください。
松浦:とにかく◯◯しなくては、とストイックになりすぎたり、
本質から外れてしまったり、人を引き付けない空気感を持ってたりすると、やがて苦しくなってしまいます。
心地良さを心がけることで、オーガニックライフの良さが引き立つ、楽しく幸せになれる、ということ、とても賛同します。
筆者から一言
シュタイナー建築で建てられた、素敵な、おもちゃ箱の本社。壁に腐葉土が使われるなど、人と地球に負荷がかからないよう配慮されています。
業態や細かな切り口からの見解は違えど、オーガニック事業の経営者として、向いている方向は合致していることが、話を聞いていてとても印象的でした。
オーガニックをより多くの人に広めて根付かせようとする事業者と、
軸を持って毎日の消費行動を選択する私たち消費者。
共に車輪を前に進めていくことで、
より幸せに溢れた、私たち人間と地球の姿があるのだと思います。
対談協力:
株式会社おもちゃ箱
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