日本の食肉・畜産業の語られることのなかった本当の実態について獣医さんにヒアリングしてみました。
本物のオーガニックが見つかるオーガニックショップ
現在の日本の平均的な食卓では、お魚より肉の方が親しまれています。
調理がしやすく食べやすいため、子どもからお年寄りまで広く食されています。
一般的に言われていることは、牛肉や豚肉に含まれる「動物性たんぱく質」には体内で作ることのできない「必須アミノ酸」がバランスよく含まれていること。
コラーゲンやビタミンB群は美容にも欠かせず、鉄分も多いので、貧血対策にもなるということです。
最近は、ニュージーランドやオーストラリアで育てられたグラスフェッドビーフが注目されていますね。
ストレスのない放し飼いで栄養価の高い牧草だけを食べさせています。
日本の狭い国土ではそうした飼い方が難しいため、ここでは国内で育てられ、国内で流通しているお肉についての話です。
肉の消費が増加する日本
酪農や畜産が盛んになって、日本でも肉の消費が増えてきました。昭和35年からすると、現在は5倍の消費量になっています。
トレーに乗せられたお肉は、きれいに並べられて、どんなふうに育てられたのか、私たちにそこまで知る必要を感じさせません。
けれども、畜産の実態は、部外者がいくら現場取材をしてもよくわからないと言われていました。
厚労省の食品衛生法では、抗生物質や合成抗菌剤、ホルモン剤は残留してはならないことになっています。
屠殺場では病気のものはハネられているのだから市場で売られている肉は安心ですと、どこもガードが固いということでした。
食肉になる以前、家族のように可愛がられていた家畜たち、その健康をどのようにして見守ってきたのか、
客観的にその現場を知っているのは獣医さんでした。
ある獣医さんは、現在、地域の家畜の往診をされています。
若い時は北海道の牧場の家畜を診ていたこともあり、酪農や畜産の事情にも精通されているということで、お話を伺うことにしました。
人間にとって生産効率がよく、都合がいいものだけを選んで、1頭の牛から何十頭も同じような牛をつくっている
人間の都合で生命操作
まず私たちが、食肉として、牛乳として、多くの恩恵を受けている牛について。人工授精や精液を使った生み分け法は、畜産では20年以上前から常識にやられています。
最近は、ゲノム解析の技術も定着しつつあるとのこと。
優秀な、つまり人間にとって生産効率がよく、都合がいいものだけを選んで、1頭の牛から何十頭も同じような牛をつくっているのです。
雌牛、雄牛は、どのくらいの割合で育てられているのか。
自然な状態ならだいたい5:5ですが、雄牛は種付けだけに使われるため、ごく少ない頭数で間に合うのです(兵庫県では、雌牛2万頭に対して12頭)。
ブランド牛をつくるため、品質改良を重ねて、優秀なDNAを持った雄牛だけを生かしていくわけです。
ほとんどの雄牛は、5ヶ月で去勢され食肉になります。
また、各自治体によって畜産方法は違いがあるようです。
例えば、兵庫県では閉鎖育種といって種牛を限定するため、交配の血は濃くなり、より品質の高いものが生まれる可能性が高くなります。
逆に、同じだけ品質の悪いものも生まれる可能性もはらんでいます。
そのあたりのことは、家畜改良センターで近交係数(交配させても病気にならない数)を見て管理しているということです。
北海道では混合育種を採用。
犬でいうと、雑種は病気に強いですが、純血種は弱かったりするということですね。
食料増産のため、畜産業の発展のため、人工授精により品種改良がされてきました。
生命操作のその問題は、人間の場合と同じく、エスカレートすることに恐怖を覚えます。
けれども、その技術はもう人間にも応用されているのです。
獣医さんに、ホルモン剤の実態を聞いて見た。
ホルモン剤、抗生物質、予防注射
また、雌牛は不妊治療のためにホルモン剤を投与されますが、人間の口に入ることを考えると、ホルモン剤の影響が心配!と思ってしまいます。が、獣医さんの話では、安全と決められた量を投与しているということです。
投与しないという選択をしている農場は?と聞くと、「それはないでしょう」と一笑されました。
現在、肥育ホルモン剤や繁殖及び治療用のホルモン剤は、世界の主要な牛肉輸出国で使用が認められています。
日本では、1998年に製造、輸入が中止され、それ以降は承認の申請がないまま、現在、日本では肥育ホルモン剤は使用されなくなりました。
ただし、繁殖及び治療用のホルモン剤は承認され、使用されています。
また健康管理のために予防注射や抗生剤についても尋ねました。
これはひとくちには言えないようですが、地域によって、牧場によって、それぞれ問題点が違うので、それに対応した予防注射を計画していくようです。
例えば、きれいな牛舎なら大腸菌の感染の心配はあまりないとか、品種によって病気にかかりやすい、かかりにくいなど。
牛も風邪の予防注射をします。通常、牛が風邪をひくのは、2〜3か月の時だけなのだそうです。
この時期は、お母さんからもらった免疫が切れるのですね。
それでも、市場に出す前は、マナーのように必ず予防注射をします。
牛の出産
興味深いのは、牛や馬は人間と違って、胎児と胎盤は別々の構造になっていることです。
ですから、出産の時、出血はしないのですが、初乳は絶対に必要になります。
それしか母親の免疫を獲得する手立てがないからです。
生後24時間はたんぱく質の大きい分子が吸収できるようになっています。
そうして、赤ちゃんの血液に入り免疫となります。
この時、赤ちゃん牛の血中たんぱく質が6gあれば正常値なのですが、母牛が初乳を作れない、出せない、赤ちゃん牛が飲めないなどのトラブルが起きると大変です。
人間の場合、初乳を飲めなくても、胎盤を通じても免疫をもらっているので、命に関わることはありませんが、牛の場合は生命線です。
家畜の健康のために薬物治療をする場合、出荷してはいけない期間が定められています。
通常、薬物は乳汁や尿、肺から排出されますが、薬物によっては96時間経過したら出荷しても良いとされるものもあります。
一方、抗生物質を投与した場合は、肉牛の場合、長いもので90日間出荷できないというルールがあります。
どれだけの量をどれだけの期間で体に残らずに済むかは、獣医師の判断によるところが大きいようです。
市場に出せるようになるには、700~1000kgまで肥育します。
その過程を健やかに過ごすためには、牛をよく知り、愛情を持って接することのできる人たちがいるのです。
牛の3大死因は、心不全、乳房炎、股関節脱臼
ちなみに、牛の3大死因は、心不全、乳房炎、股関節脱臼となっています。
2番目に多い乳房炎は、牛舎が汚れていて大腸菌に感染するなどから発症するとみられています。股関節脱臼は、体重が最大で1000kgにもなるために支えきれずに起こるということです。
全国の牧場では、乳房炎や蹄病の予防のために、敷料をおがくずなどから砂に変えて効果を上げているところもあるようです。
砂の牛床では、牛たちは牧草地と同じようにリラックスしています。
乳房炎や蹄病も減り、一頭あたりの乳搾量も向上し実績を上げているようです。
愛情をかけて育てた牛が、なんらかの理由で命を落とし、食肉として流通することになると、食肉センターに運ばれます。
その獣医さんは、自分が担当していた牛が食肉センターに運ばれると見に行くのだそうです。
それは、その牛の本当の死因を確かめ、自分の診断が正しかったかどうかの確認になるからということでした。
中には、牧場に落ちている釘や金物を食べて重傷を負ってしまうこともあるため、予防措置として磁石を飲ませて金物を集め、肉や内臓を傷つけないようにすることもあるようです。
もの言わぬ家畜の本当に苦しかった原因を知ることで、次に育てられる牛たちが苦しまずに済むように。
肥育農家と二人三脚で牛に愛情をかけている様子が伝わってきました。
食料として生産性の高い牛は、ある程度コストをかけても元が取れる見込みで肥育をしますが、実際は想像以上に手間がかかっていることもわかりました。
豚や鶏について
牛以外の家畜についても伺いました。
豚は出荷まで180日、だいたい70~80kgが出荷にちょうどいい規格となります。
流通コストの関係なのでしょう。
90kgになると、大きすぎて逆に買い取り価格が安くなるのだそうです。
豚はうまくすると、コストパフォーマンスの点では牛より優秀になります。
豚は、通常、1年間に2回出産します。
一度に10頭産むと1年で20頭になります。
単純に考えて、80kg×20頭で1600kgの肉になります。
ですから、豚の場合は、品種改良をして赤ちゃんをいっぱい産むことが求められます。
大切なのは妊娠していない雌豚を目ざとく見つけて種付けをすることなのだとか。
家畜の世界では少子化などありえないし、人間の手でいくらでも増産することができるのです。
出荷までの期間が短く、体重も牛ほど重くない豚は、何らかの疾病になっても治療はしません。そういうコストは見ていないということでしょう。
鶏の場合も、ブランド品は例外として、通常はコストを低く見積もっているため、治療対象としていないのだそう。
ですから、1羽でも鳥インフルエンザにかかったら、鶏舎ごと殺処分になることがあるわけですね。
命をいただくこと
動物が大好きなこの獣医さんは、地域の肥育農家の往診に忙しい毎日です。農業に農繁期があるように、肥育農家にも繁忙期があることを知りました。
種付けは発情期に合わせて行うので、出産も同じように立て込むのです。
一旦、獣医師が介入すると、牛の出産にも呼ばれて立ち会うことが多くなっているようです。
家畜といえども家族同然。家族が出産するとなれば一大事に違いありません。
万一に備えて、獣医さんの立会いを求める気持ちは分かる気がします。
そんな農家さんの気持ちが分かるからか、現場を知る獣医さんは、「流通している食肉や牛乳は安すぎる」とおっしゃっていました。
消費者目線では、安くていいものを求めるが一度、生産者の立場で考えてみよう。
消費者からすると一円でも安いものが欲しい、という風につい思ってしまう人もいるのではないでしょうか。
しかし、飼料代と日々のお世話にかけている手間と時間を考えれば、1リットル200円前後の牛乳の8割は原価です。
肉牛も100万円で仕入れて2年育てるとして、飼料代だけで40万円かかるため150万円で売ってもたったの10万円の利益にしかならないのです。
私たちが日々、命をいただく時、どこまで想像力を持てていたでしょうか。
マクロビオティックの食生活では、基本的には肉を食べる機会はまずありませんが、一般的な家庭では毎日のように肉が食卓にのぼるでしょう。
生産者は消費者の要求に応えようと、自在に命の操作をすることになります。
そうして大量に流通されると、私たちはいつしか命の重みを感じなくなってしまいます。
家畜たちの健康も、人間の都合で左右されていることを知れば、肉を食べる時の気持ちが少し変化するのではないでしょうか。
過食や飽食もナンセンスに思えてきます。
家庭菜園で作った野菜が特別に美味しいように、育てた経過に関与する人は、その命に愛情を持っています。
自分が育てた家畜を食べるとしたら、どんな気持ちになるでしょう。
食べることなど考えられない、と拒否するかもしれません。
それでも、精一杯生きた命をいただくとしたら、
私たちができるせめてものことをしたいものです。
それは、感謝をこめて「いただきます」、そして「ごちそうさまでした」と手をあわせることではないでしょうか。
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