救世主はあのスーパーフード!? 塩類集積土壌が鉄の有効性に及ぼす影響とその対策【緊急特別編③】「農学博士」スエタローが教えるオーガニック農業講義vol.10
![alfalfa sprouts 1522076 340](https://macrobiotic-daisuki.jp/cms/wp-content/uploads/alfalfa-sprouts-1522076__340.jpg)
前回は、土壌のpHには関係ない塩基類が存在し、
土壌中の鉄を吸収されにくい形にしてしまう・・・
そんな理屈について、お話しました。
『隠れ肥満』のお話でしたね。
そんな状態では、もちろん鉄に限らず、亜鉛等の栄養素を施肥しても、
作物や野菜類はこれを十分に吸収できず、欠乏症を引き起こしてしまいます。
そして、そのことは植物体内での各種ビタミン群の合成にも大きく影響してしまうのです。
続きをお話ししましょう。
1.乾燥アンデスの灌漑水(地下水)の現実
→塩類濃度が高い
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1).灌漑水の水質
図3に灌漑水(地下水)の水質分析結果を示します。
インバブーラ県においては29サンプル、
他方、年間降水量が2500mmという低地に位置する
サント・ドミンゴ・デ・ロス・ツサァチラス県と比較した形(僅か6サンプルですけど)です。
![](https://macrobiotic-daisuki.jp/cms/wp-content/uploads/pastedGraphic_5.png)
この図の味方ですが、水質分析において、最低値と最高値を用いて、その変動性を示した棒グラフにしました。
例えば、インバブーラ県では、29サンプルにおけるカルシウムの値は、
最低値が9.82、最高値が94.32ppmということです。
図にも記載しております。
それに対して、サント・ドミンゴ・デ・ロス・ツサァチラス県はどうですか?
最低値が24ppm、最高値が48ppmであり、非常に変動領域が小さいですよね。
これは、豊富な降水量のおかげで、河川の水量も多いことから、
カルシウムやマグネシウムが希釈されるということです。
ですから、降水量が豊富な地域では、土壌の塩類化が起きにくいということですね。
それに対して、インバブーラ県では、乾燥地帯かつ降水量が少ないですから、
河川の水量も本当に少ないです。それに、石灰岩の地帯も多いことも特徴です。
それゆえ、灌漑水のカルシウムやマグネシウムの値にも変動性が大きいということになります
(サンプリング時期や場所による違いが大きいのです)。
最後の総硬度ですけど、図3に同じく計算式を記載しました。
これは、カルシウムとマグネシウムの合計値を炭酸石灰に置き換えたものであり、
よく、市販の飲料水にもカルシウムやマグネシウム濃度の他、総硬度も記載されていますよ。
興味があったら計算してみてください。
2).灌漑水の水質で判断してはいけない→土壌の塩類集積は別物
もう一つ、肝心なことを記さないといけません。
灌漑水の水質、例えばpHであれ、分析を依頼して、
カルシウムやマグネシウム等の塩類の値が基準値以内に入っているから問題なしと判断してしまうことです。
これが、露地の土壌で灌漑水として使用する場合は大丈夫です。
しかし、施設では要注意です。なぜだか分かりますか?
微量であれカルシウムやマグネシウムが溶けている地下水を灌漑水として使用した場合、
施設内は高温ですから、水は蒸発します。当然です。
しかし、中に溶けているカルシウムやマグネシウムは、どうなりますか?
水と一緒に蒸発しますか?
しませんね。土壌表層に集積していきますよね。
実は、このことも自ずと施設土壌ならびに乾燥地土壌では、塩類集積を招いている要因なのです。
乾燥地域では、安易な灌漑(塩類を多く含んだ水質)が危険な理由がここにあります。
2.塩類集積土壌でも適応できる有用植物の導入
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1).アルファルファ(ムラサキウマゴヤシ:Medicago sativa)
「じゃーどうしたらいいの?」ということになりますよね。
灌漑水にも塩類を含んでいるなんて…
「手の打ちようがない」と思われることでしょう。
それは、これから私と一緒に基礎土壌学を修得しながら、いろいろな戦略を模索していきます。
しかし、ここでは予告編として一つの得策をお教えします。
機会を見て、塩類集積土壌の改良法も、土壌肥料学の基礎を学習した後に報じていきます。
結論は、適地適作の理論に基づくことになりますが、
このような塩類集積土壌でも適応できる種を選ぶことです。
その一例として、マメ科牧草であるアルファルファ(Medicago sativa)を紹介します。
写真3に乾燥アンデス地帯(インバブーラ県北西部のサリーナス地帯)で栽培されているアルファルファです。
ここの灌漑水の水質はpH8位、塩類集積土壌が存在する地帯です。
近辺にはサボテンも自生していますので。
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2).アルファルファの葉の鉄吸収量に注目
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表1にアルファルファの生葉の化学分析結果を示します。
この表からも分かりますように、窒素(N)ならびに鉄(Fe)において高い値が得られています。
実は、この近辺の土壌を分析しましたところ、塩類集積の影響により、Feは3ppmでした。極小ですよね。
Feが沈殿され、野菜類に吸収されにくい形態であることが伺えます。
ところが表1を見てください。
アルファルファのFe吸収量は約91ppmと極高ですよね。
この違いは何なのでしょうか?
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実はここがミソなのです。
以前、私は『有機酸によるキレート効果』ということを書きました。
実は、アルファルファの根からは特殊な有機酸(ムギネ酸と称します)を分泌して、
土壌中の沈殿した鉄を溶かす働きがあるのです。
そして、溶かされた鉄はムギネ酸等の有機酸と合体して、キレート化合物を作るわけです。
この化合物をアルファルファは吸収しているのです。
ですから、土壌中に元来存在している鉄分を十分に吸収することができるということなのです。
3).アルファルファはマメ科牧草である
もう一つは窒素です。窒素復活ではないですが、これも重要な事項です。
アルファルファはマメ科牧草の一種です。マメ科というと?
そうですね。空中窒素固定作用がありますね。覚えていますか?
ハーバー・ボッシュによる工業的アンモニア合成を、
根粒菌はそれをなんと無料でやってくれるものでしたね。
石油資源の節約と環境にやさしい技術の一つであるといえますよね。
表1における結果では、窒素は4.61%でした。食品分析においても採用されていますが、
この値から粗タンパクを計算すると、4.61×6.25=28.8%となりますね
(詳細は省きますが、6.25という数字はタンパク係数と称しまして、
相対的にタンパク質中には、16%のアンモニア態窒素NH4+-Nが含有されています。
100÷16=6.25となりますから、この値が使われているのです。)。
4).アルファルファの利用法
4)-1.野菜ジュースとして
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実際、イバラ市の大きなローカルマーケットにおいても、ジュースとして市販されていました。
一杯約50円でした(写真4)。
実際、大きなマーケットにおいても、一部しか売り場所がなく、
あまり庶民に普及されていない感じはしました。
しかし、どうでしょうか?化学分析の結果からも明らかですよね。
豊富な鉄分とそれとタンパク源でもあるのです。
実際、アルファルファは日本でも栽培できる種もありますし、
日本の牧畜や牧草関係の専門書でも見受けらるものです。ですから、この効能をもう一度見直し、
過剰塩基類集積土壌の土地利用戦略として使えないか?
そのことを皆さんに緊急的に訴えたかったため、急遽、緊急特別2の執筆背景でもあったのです。
4)-2.家畜飼料→過剰塩基類集積土壌の牧草地利用戦略として
私もラテンアメリカにおいては、牧畜生産の土壌(牧草地)の改良研究にも従事してきました。
ですから、土壌という視点からは、作物や野菜類に限定せず、
植林も含めて、多様な農業の形態を見ることができますし、
土地利用の視点からもいろいろな戦略を打ち出してきました。
パナマ、ブラジルやパラグアイ等、広大な酸性土壌地帯における土地利用、
持続可能な農牧林生産に関する仕事が多かったのに対して、エクアドルの乾燥アンデスにおいては、
マメ科牧草であるアルファルファが利用できるということは大きな収穫でした。
前置きはいいですが、ラテンアメリカ諸国に限らず、
わが国においても、土地利用の一環としては、牧草地に転換することも一案であると思っております。
「今度は牛を飼うの?」違います。
肥育牛や家畜に馴染みのない地域では、家畜の悪臭がありますよね。環境問題に発展してしまいますよ。
ですから、「サイレージ化」という手もあります。家畜の飼料として牧畜農家に市販するんです。
もちろん、マメ科であるため、空中窒素固定作用も含めて、肥育牛にとっても重要なタンパク源として貢献できます。
『糖質制限』と大きく関係する事項ですよ。
基本は私たちにとって最大の栄養素である『動物性タンパク質』の摂取にありますからね。
それと『ビタミンB12』 でしたね。
これ以上は、『農業史』や『栄養生化学』の話にまで発展してしまいますから、
ここでもうやめますが、肥育牛の餌となっている穀物にせよ、配合飼料にせよ、米国等からの輸入品です。
牛舎で家畜を育てているから、堆肥が製造できる面はありますが、
これも輸入に頼らず、効率的に耐肥性が強い牧草類にして、
それをサイレージ化することも一案かな?と思うこともあります。
5).発想の転換
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アルファルファに限定せず、環境配慮ということも考えるのであるならば、
光合成の効率が高く、耐塩性を有するC4植物(光合成効率が高く、
CO2の固定を葉肉細胞と維管束鞘細胞の2つで分業する)である、
イネ科牧草の導入も重要と考えています。
いきなりC4植物という言葉を出して申し訳なかったですが、
これはC3植物(高校生物でカルビンーベンソン回路を習っていたら思い出してくださいね)と異なり、
光合成の効率が非常に優れている種です。
例えば、トウモロコシやサトウキビはイネよりも「づーたい」がでかいですよね。
それにイネ科の牧草や雑草類は生育が早いですね。
通常の野菜類やマメ類もC3植物で、生育が緩慢であると思ってください。
それに対して、C4植物はそれよもづーたいがでかかったり、
生育が早かったりと、それなりに利点があるのです。
ですから、現在危険視されている温室効果ガス(CO2)の固定・吸収に大きく貢献し、
地球環境を保全していく考え方であるということです。
これは、今後、耕作放棄地や過剰施肥でも、
うどうしても野菜類が栽培できない地帯をどのように生かして、
オーガニックなり私たちの健康へと結び付けていくか?
別機会で一緒に考えていきましょう。
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