日本食でのおもてなしに危機!東京2020までにサスティナブルな食材調達は間に合うのか?
日本食でのおもてなしに危機!東京2020までにサスティナブルな食材調達は間に合うのか?
2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けて、大急ぎで準備が進められる中、
みなさんは日本のおもてなしに大きな問題が残っていることをご存知でしょうか?
世界中からたくさんの人が集まる2020年9月。
世界規模での日本食ブームの流れから、多くの外国人が本場日本での日本食を楽しみに訪れることは必須です。
しかし、「本当の」日本食を世界にアピールする絶好の機会に、
提供できる食材が無いかもしれないという危機が迫っているのです!
オリンピック・パラリンピック誘致のためのプレゼンテーションにより、
流行語にもなった「おもてなし」は、2020年に実現するのでしょうか?
新たな食のレガシーを築き上げた2012ロンドン大会
2012年のロンドンオリンピック・パラリンピックの開催国となったイギリス。
この世界規模でのスポーツの祭典の開催において、各国が強く意識するのは「レガシー」(歴史的遺産)です。
イギリスは2012年に新たな形のオリンピック・パラリンピック開催国として、多くのレガシーを残しました。
その中でも、メディアではあまり取り上げられていないことが、あまりにも残念なものがあります。
それは、開催期間中の食糧調達についてです。
開催期間中、世界中から多くの選手や関係者が訪れ、生活をする上で欠かせないのは、もちろん食事。
イギリスはオリンピック史上初めて、持続可能な食糧調達基準を制定し、水産物の調達において、目標の100%を達成したのです。
オリンピック村で提供される食事に使用される食材は、FAO(国連食糧農業機関)の定める基準をもとにしたルールで調達されることとしたのです。
そしてこのレガシーは2016年のリオ大会にも引き継がれましたが、
日本が掲げた調達基準があまりにも世界基準を逸脱しているのです。
2020年の東京大会は、日本が過去2大会で引き継がれてきた食のレガシーをきちんと実現できるかを世界中から評価される、重要な機会でもあることを忘れてはいけません。
ロンドンからリオへ引き継がれた「持続可能な」食糧調達
では実際に、2国にて実施された持続可能な食糧調達の基準とはどのようなものだったのでしょうか?
■ロンドン大会(Food Vision for London2012より)
・英国内にて、食品の安全や環境保全、動物福祉に配慮した食品に与えられる、Red Tractor認証を取得しているものが基本。
・農産物、乳製品、食肉は英国産を義務基準とし、
農産物の輸入品もトレーサビリティーとフェアトレードを厳守。
・水産物は国連食糧農業機関(FAO)の定める規範に沿ったものを義務基準とする。
・できるだけ農産物、乳製品、食肉はオーガニックなものを使用し、
養殖の水産物も持続可能な餌により飼育されたものを使用することとする。
■リオ大会(Rio 2016 Tales of the Gamesより)
・ブラジル国内のオーガニック認証を受けた食品の使用を優先する。
・オーガニック認証を得ていないものに関しても、
フェアトレードやレインフォレスト・アライアンスなどの、環境や社会基準に基づく認証を得た食品を優先する。
・水産物は天然ならMSC、養殖ならASC認証を得たものを優先する。
・食材の調達先は地元産を優先し、その後、国内産、南米産と順に優先して使用する。
いかがでしょうか?
これらの取り組みはごく一部のメディアでしか取り上げられていませんが、
2012年以降、オリンピック・パラリンピックの開催はスポーツの祭典だけでなく、
環境保全などの社会的課題=SDGs(※1)達成への進捗発表会としての役割も果たすようになったのです。
※1.「Sustainable Development Goals」の略。
国連が定めた、持続可能な世界のための開発目標。
環境保全や人権尊重など、17つの達成目標が細かく設定されており、世界各国が2030年までの達成を目標に取り組んでいる。
参考URL:外務省「SDGsとは?」
2020東京大会のために日本が打ち出した食糧調達規定は「日本ファースト」
過去2大会の開催国が示した食糧調達基準に比べ、
東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下、オリパラ委員会)によって定められた基準は、
残念ながら世界から見てもわかりづらいものです。
ロンドン、リオがオーガニックやフェアトレード、環境保全に配慮した国際的な認証制度を基準としたのに対し、
日本の規定中には同様の国際基準の名は見当たらず、食の安全についても、
あくまで「日本の関係法令等に照らして適切な」対応がされているかが判断基準とされており、かなりグレーゾーンが目立ちます。
また、農産物、畜産物、水産物ともに「国産を優先的に選択」することが強調されていおり、
世界基準に照らし合わせての安全性やサスティナビリティといった部分が明確でないため、
ロンドン、リオに比べた時のインパクトはかなり小さいのです。
世界基準に沿った中での食糧調達が実現できなければ、
2020東京大会で、過去2大会が築いてきた食のレガシーは途絶えてしまうこととなるでしょう。
出典:公益財団法人 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会「持続可能性に配慮した調達コードについて」
出典:公益財団法人 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会「平成29年度 事業計画書」
日本食の代名詞「寿司」は世界が目指す食糧調達基準を満たしていない!
人気の日本食といえば、トップに挙げられる寿司。
世界各国にスシ・レストランが続々とオープンし、ヘルシー志向な人々で賑わっていますよね。
きっと多くの外国人選手たちが、日本の本場の寿司を食べようと思っていることでしょう。
けれど、日本の水産物のほとんどは、国際基準を満たしてはいないのです。
先のロンドン大会での規定に含まれていたFAO(国連食糧農業機関)の定める基準に、
今回の東京オリパラ委員会の定めた基準は遠く及びません。
水産物の国際基準というと、FAOによる国際行動規範に基づいた、MSCやASCがよく知られているものですが、
日本での認証率は先進国の中でも極めて低いのが現状です。
また、東京オリパラ委員会が掲げる「国産品優先」についても、実際の水産物市場を見てみると、約半分が輸入品のため、
オリンピック村内だけを国産水産物でまかなうことは不可能に等しいと言えます。
このように、日本の水産物は、水産資源の枯渇を防ごうと、持続可能な漁業に取り組む世界基準に準じた認証を得たものが極端に少ないため、いくら真面目な漁師さんからの魚もサスティナビリティやトレーサビリティーを示すことができず、
不法な乱獲で捕られたかもしれない輸入品などと同等に、「国際基準を無視した水産物」として扱われてしまうのです。
たったこれだけ?国際基準を満たした上で提供できる水産物
天然の水産物に与えられるMSC(海洋管理協議会)認証と、
養殖水産物に与えられるASC(水産養殖管理協議会)認証は、
世界各国が海洋環境や生態多様性の保全のために取り入れている国際漁業認証です。
先のFAOの基準に基づいているため、MSCかASCの認証を得ていれば、
世界各国誰が見ても、サスティナブルな漁業により得られた水産物と言えます。
ではこのMSCとASCの認証を得たものだけを、オリンピック村の食卓に並べるとどうなるでしょうか?
■MSC認証済み
・アカガレイ(京都府機船底曳網漁業連合会)
・ホタテ貝(北海道漁業協同組合連合会)
・カツオ、ビンナガ一本釣り(明豊漁業㈱/宮城県塩釜市)
■ASC認証済み
・マガキ(宮城県漁業協同組合 志津川支所 戸倉出張所)
以上。
これだけなんです!
「国産かつ国際基準を満たしたもの」のハードルが今の日本食にとってどれほど高いものかおわかり頂けたでしょうか?
そして、このままでは、到底、オリンピック村でのレガシー達成は不可能なのです。
出典:サステナブル・シーフード(データは2017年9月時点。2018年10月時点で変更なし)
これを機に日本が持続可能な漁業に舵を切りなおすことを応援しよう!
日本は、古くから多くの水産物を摂取する国として海外でも広く認識されています。
水産物好きの日本が、世界中で枯渇し続ける水産資源に対してどのような姿勢を見せるのか。
2020東京で日本が新たな食のレガシーを築くことを世界は注目しています。
しかし昨今の海洋資源の枯渇問題に対する日本の姿勢は少し世界からずれているような気がしてなりません。
どうかこのズレが2020年まで持ち越さず、日本の漁業も世界と足並みを揃えて、持続可能な道を選んで進んでくれることを応援するばかりです。
そして日本を訪れた世界中の人が日本の食文化に改めて感動できるような、そんな「おもてなし」の実現を目指していきましょう!
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