ゲノム編集食品は単に「安全かどうか」決着がつけばOK?オーガニックな世界を求める私たちが常に持ちたい視点
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ゲノム編集食品は単に「安全かどうか」決着がつけばOK?オーガニックな世界を求める私たちが常に持ちたい視点
2019年10月に運用が開始されながらも、まだどの企業も利用に踏みきっていなかったゲノム編集食品の届け出制度。(※)
そんなゲノム編集食品の流通が、遂にはじまります。
これが何を意味するのか?
日本に暮らす全ての人たちが、ゲノム編集食品を食べる可能性のある社会が始まるということです。
筑波大発のベンチャー企業「サナテックシード」(東京都港区)などは11日、ゲノム編集技術を使い血圧を下げる成分を多く含むように改良したトマトの苗を、来年春から家庭菜園向けに提供すると発表した。国内で実用化される初のゲノム編集食品となる。当面はインターネットを通じて希望者に無償で提供する。
引用:「ゲノム編集トマト、来春から流通 苗を当面無償提供、国内初」東京新聞
ゲノムって最近よく聞くけど一体なに?
遺伝子組み換えとゲノムは何が違うのか?
ゲノムは私の暮らしにどんな影響を与えるの?
今、この記事を書いている私自身も、そんなことを思っている一人でした。
なんとなく怖いイメージだけど、難しくてよく分からないゲノム。
一緒に深く掘り下げていきましょう。
そもそもゲノムって何?
ゲノムは、各々の生物が持つ遺伝子情報をすべてひっくるめたもので、生物の設計図のようなものです。
DNAという言葉はよく耳にしますね。
ゲノムは「DNAという化学物質」によって構成されています。
例えば、ヒトゲノムはヒトが持っていて、子どもに伝えていく遺伝子情報です。
イネの遺伝子情報であれば、イネゲノムと呼びます。(※)
京都大学大学院・農学研究科助教の木下政人氏は、ゲノムやDNAを以下のように考えるとわかりやすいといいます。(※)
ゲノム=生物の設計図遺伝子=その設計図のパーツ
DNA=そのパーツを組み立てる部品
ゲノム編集は、人為的に突然変異を引き起こすこと
自然界では、突然変異というものが起こります。
私たち人間を含めたすべての生物のDNAは、紫外線や天然物質、細胞のコピーミスなどによって損傷します。
そして、それを修復する。
「損傷」と「修復」のサイクルで成り立っています。
傷がついたDNAが修復されれば元通りになりますが、稀に修復の段階でミスが発生します。
この修復ミスによって、DNAが元通りにならずに変異することを突然変異と呼びます。
簡単に言うと、
ゲノム編集は、このような突然変異を人為的に起こす行為です。(※)
DNAの一部を科学技術によって意図的に損傷させることで、ある特定の遺伝子を、人間にとって都合のいいように変異させる。
これがゲノム編集です。
例えば、冒頭でご紹介したトマトは、GABAの産生に関する非活性の遺伝子の一部を、ゲノム編集によって活性型に改変したものです。
それによってGABAの産生量が増え、血圧が下がるトマトが出来上がった、ということです。(※)
ゲノム編集によって、人間の都合に合わせて手軽に遺伝子を改変し、新たな品種を生み出す扉が今開かれようとしているのです。
遺伝子組み換えは、外部から新たな遺伝子をゲノムに入れること
既に、避けることが不可能なほどに、私たちを取り巻く遺伝子組み換え食品。
既にある遺伝子に傷をつけることで変異を引き起こすゲノム編集に対して、外部から新たな遺伝子をゲノムに入れることを遺伝子組み換えと言います。
新たな遺伝子を入れることで、これまでに持っていなかった性質が現れます。
遺伝子組み換えは、DNA上での変異を起こす位置を指定することが困難なため、商品化されるまでにはかなりの時間がかかりました。
同様に、遺伝子組み換えではない品種改良も、商品化までには数十年の時間がかかることもありました。
ゲノム編集が大きく騒がれている理由はまさにそこです。
遺伝子組み換えや品種改良に比べて、より短い期間で新しい品種を生み出せるとされています。
そして、遺伝子組み換えに比べてコストが抑えられることも指摘されています。(※)
トマトはゲノム編集食品のはじまり。これからどんなゲノム編集食品が登場する?
冒頭でご紹介した、血圧の低下に効果があるとされるトマト。
これによって、日本のゲノム編集食品の扉が開かれてしまったわけですが、今後はどのようなゲノム編集食品が登場してくると考えられるでしょうか。
現在、具体的な例として挙げられているのは、以下のようなものです。(※)
・養殖しやすいサバ
・肉厚のマダイ
・アレルギー物質を少なくした卵
・害虫や病気に強いイネ
・毒を減らしたジャガイモ
・培養肉へのゲノム編集技術の導入
忘れないでいただきたいのは、これらは自然に生まれてくるものではありません。
人間が他の生物の遺伝子を、意図的に切ることで改変し生み出すものであるということです。
遺伝子組み換え食品と違って、安全審査がパスされるゲノム編集食品の危険性は?
ゲノム編集食品は、従来の品種改良と同じ扱いになります。
そのため、遺伝子組み換え食品のような、厚生労働省の安全審査が行われません。
厳密に言えば、ゲノム編集技術にもいくつかのタイプがあり、安全審査が必要なタイプも存在するのですが、これから日本で広まることが予想されているタイプのゲノム編集食品には、安全審査がありません。(※)
理由は、他の生物の遺伝子が入り込む遺伝子組み換えに比べて、危険性が少ないからだそうです。
果たしてそれは本当でしょうか?
現時点で既に指摘されているのが「オフターゲット」です。
オフターゲットは、切ろうとしている遺伝子ではない遺伝子を切ってしまうことです。(※)
例えば、ジャガイモは日光に当たると毒を生成し、緑色に変色します。
仮にオフターゲットによって緑色に変色する遺伝子が切断されてしまえば、
毒が生成されても緑色にならずに食べてしまう可能性があります。
そのような可能性がある以上は「完全に安全」と言えるわけではありませんし、安全審査が必要ないと言い切れる理由もありません。
皆さんに思い出していただきたいことがあります。
ゲノム編集とは違う話ですが、
「飲んでも安全なラウンドアップ」
「遺伝子組み換えは体に害がない」
当初言われていたことは、その通りだったでしょうか。
なぜ、世界中でモンサントに対する訴訟が起きているのでしょうか。
何かが起きてからでは遅すぎて、一度犠牲になったものは決して返ってこないのです。
ゲノム編集食品に使われた技術と同様の技術でヒトの赤ちゃんが誕生していた!
2018年、中国の研究者が、HIVウイルスに感染しないように遺伝子情報を書き換えた双子の女の子が生まれたと発表し、世界中に衝撃が走りました。
もちろんこれは許されている行為ではありません。
この研究者は「国家の科学研究と医療のルールを故意に破り、倫理道徳の限度を超えた」という理由で、懲役3年の有罪判決を受けています。(※)
少なくとも私たちは、ゲノム編集によって遺伝子を意図的に操作した人間を現実に生み出せる世界に生きています。
これはSFの話でも近未来の話でもなく、いま現実の世界で起きている話なのです。
私たちはゲノム編集が当たり前になった未来を生きるかもしれない
現時点では、ゲノム編集食品を推奨する科学者も、ゲノム編集技術を医療などの人命に利用するのはより慎重な姿勢が必要というのが、一般的な意見です。
しかし、先にお伝えしましたように、技術的に、ヒトの遺伝子をゲノム編集によって改変することは現実に可能です。
人間はどんなに大きな出来事が起きても、それが続いていくと「日常のもの」として認識するようになります。
戦争が起きて死体が道に転がるような状況が続けば、それすら「日常」、当たり前のことになってしまうのです。
ちょうど今で言えば、当初あれほど騒がれた新型コロナウイルスも、1年も経過すれば日常的なものになってしまいます。
これからゲノム編集食品が一般的に流通するようになれば、それも当たり前になるであろうことは皆さんも想像がつくのではないでしょうか。
ゲノム編集食品が当たり前になるということは、人間が遺伝子を意図的に操作して改変することが当たり前になるということです。
ゲノム編集はどういったレベルで議論すべき?
「ゲノム編集の是非」については、食品の安全性など「表面的な議論」で片付けてよい問題と言えるでしょうか。たとえば、ある一定の期間実験用の動物や被験者などに継続して食べてもらい、特に影響が見られなければ「安全」と見なされ、流通が可能になる。
それでよしとされるのかという問題です。
私たちの生活の中で、ゲノム編集食品が当たり前になって、遺伝子を意図的に変えることへの抵抗がなくなり、それを受け入れ始めた時、私たち人間は命とどう向き合えばいいのでしょうか。
そんな時代がきたら、あなたはどのような行動を取りますか。
きっと、さほど遠い未来ではないはずです。
ゲノム編集食品は人類の救世主になり得るのか?歴史は何度でも繰り返す
ゲノム編集食品について調べてみると、どこを見ても同じようなことが言われています。
それは、
食糧危機が解決され、人類の救世主になる
というものです。
私は、ゲノム編集食品は人類の救世主にはならないと思います。
農薬、化学肥料、遺伝子組み換え、原発など、
どれも当初は人類の危機を救い、安定と豊かさを生み出す救世主になると期待されましたが、現実はどうでしょうか。
たしかに緑の革命によって、一時的に農作物の収量は増加しました。
結局、長続きはしませんでした。
大地は生命力を失い、より多くの肥料や水が必要になり、借金まみれになった農民がいます。(※)
豊かになったのは誰だったのでしょうか?儲けたのは誰だったのでしょうか?
私には同じような未来がくるような予感がしてなりません。
欲望と科学技術で引き起こされた問題をゲノム編集で解決できるのか?
私の大学時代の恩師がよく言っていた言葉があります。
「ある問題を引き起こしたのと同じマインドセットのままで、その問題を解決することはできない」
これは、アインシュタインの言葉だそうです。
気候変動によって、ますます深刻になる食糧危機。
日本に住んでいても、明日は我が身です。
気候変動の原因は、人間の欲望を体現した科学技術によって引き起こされました。
それを同じ科学技術であるゲノム編集で解決しようとするのは、同じマインドセットです。
マインドセットの転換なくして、問題の解決などありえないのです。
それこそ夢物語です。
科学技術自体が、人間の欲望の表れでもあります。
テクノロジーで欲望を止めることはできないのです。
ゲノム編集食品が身近に迫りくる世の中で、私たちに求められること
残念ながら、ゲノム編集食品を全く口にしないことは不可能になると考えられます。
消費者庁は、ゲノム編集食品の食品表示を義務化していません。(※)
私たちは知らないうちに、ゲノム編集食品を口にすることになります。
仮に表示が義務化されたとしても、流通している以上は完全に避けることはできません。
遺伝子組み換えを例に挙げれば、遺伝子組み換えでないとうもろこしを使用したポップコーンを揚げている油が、遺伝子組み換え大豆を使用して作られた油という可能性もあります。
そこまでの細かい表示義務はないからです。
ただ、冒頭でご紹介したトマトのように、生産者が自らラベルを表示することはあります。
その方が、特徴をアピールしやすいからです。
目の前に並んでいる商品がゲノム編集食品と分かっている時、それを買うか買わないかの選択は可能です。
その時に必要なのは、悩んで深く考えることです。
「安全だから」「危険だから」、そのような表面的な思考を抜け出さなくてはいけません。
自分の美容のためにオーガニックを選ぶ、健康によさそうなものならなんでもいい。
もしそのような考え方をしていたら、安全で健康に良いゲノム編集食品が開発された時にはそれを買うことになるでしょう。
それは『形だけのオーガニック』です。
ゲノム編集食品が広がったとき、個人にも企業にももっと深い意味でのオーガニックが求められているのです。
健康にいいから、美容にいいから、それも悪いことではありません。
しかし、
地球にとってはどうなのでしょうか。
自分にとってはよくても、この世界にとってはどうなのでしょうか。
今よりも、さらに深いオーガニックの世界へと踏み出してみませんか?
それはきっと、あなた自身の幸せにも繋がるはずです。
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