日本ではなぜ残留農薬規定が緩和され続けているのか?毒性の強いネオニコチノイドが私達に与える影響とは。
今日では国内で使われる農薬の使用規制がどんどん緩和されているというニュースを耳にします。
中には海外で規制がかかったものが日本ではなぜか、ますます緩和・・。
そうしたニュースを聞くたびに、「なぜなんだろう」と疑問に思っていた私。
オリンピックでも日本の食材の安全性が海外から問題視される可能性があることが指摘されているようですが、日本ではまだ農薬に関する各規制や体制が不十分。
今回はみんなが思う素朴な「なぜなんだろう?」を私が代理できいてきました。
お話を伺ったのはグリーンピース・ジャパン 食と農業担当の関根彩子さん。
日本の農薬使用の現状を教えてください。
他国では規制されているが、国内では残留レベルが引き上げられていると聞きましたが。
日本はいま、終わりの見えないアリ地獄のような状態。
はいその通りです。
日本では今農薬使用の範囲(野菜の種類)が広がっています。
最近残留農薬のレベルがさらに引き上げれました。
なぜ、年々農薬の規制が甘くなっているんでしょうか?
農薬を使えば使うほど、害虫にどんどん耐性ができてしまうんです。世代交代にあたり害虫自体が農薬に強くなってきて害虫が死ににくくなります。
つまり、だんだん効果がなくなってしまう。
当初の濃度で効かなくなってくると、次から次へと新しい農薬に変えたり、強い作用のものに変えたりという対策が必要になってしまっているんです。
まさに、終わりの見えないアリ地獄のような状態です。
農薬をたくさん使わなくてはならないから、それだけ「残留規制」の基準も自動的に上がっていきます。
ほうれん草などの野菜やフルーツなどにもネオ二コチノイドが使用されているみたいですね・・
日本で問題になったのいはいつからですか?
2005年くらいからネオニコチノイドの被害が顕著になってきました。
ヨーロッパではさらに早く、2000年前後から問題視されていて、規制もそのころから始まっていました。
2013年にはEUで規制されました。(加盟国によってはより厳しい規制のところも)
フランスでは18年から全面禁止になることが発表されました。
ネオ二コチノイドは数ある農薬の中でも毒性が強いと指摘されていますが、
具体的にどのような影響がありますか?
蜂に毒性が強い。
まず環境面でいうと、ミツバチなどにとても毒性が強いといわれています。
花粉媒介者であるミツバチが農薬などの影響で激減すると、人工的な受粉作業が必要とされ、植物の環境に大きな変化が生じてしまいます。
水によく溶ける
水に溶けやすいが故、植物にも染み込みやすいといわれています。そして、環境の中で分解されにくいという特色があります。
植物全体に浸透すると、それを食べた生き物が死んでしまいますからね。
種から漬けこむ場合や、根っこに撒いて、根っこに浸透させたりなど、あらゆる方法でネオニコチノイドは使用されています。
さらに、水を介して汚染が広がるケースもあります。
生態系を壊す
植物や生き物たちに悪影響が及ぼされることによって生態系全体のバランスが崩れていきます。
IUCN(国際自然保護連合)もこのことを非常に重くとらえていて、浸透性農薬のタスクフォースを立ち上げて、レポートを2014年に発表しているのですが、「持続的環境」とは相いれないものだという判断になりました。
▼IUCNタスクフォース「浸透性殺虫剤の生物多様性と生態系への影響に関する世界的な統合評価書」
http://www.actbeyondtrust.org/report/1928/
そのほかの論文でも多く指摘されています。
人・健康への影響はどうなんでしょうか?
欧米がこの点についても安全重視の姿勢をとっています。
ネオ二コチノイドは害虫の神経に作用して動きを鈍くして殺す性質があるんですが、
人間に対しても、特に子供の脳や神経に影響があるという日本の研究が、国内よりもヨーロッパで深刻にとらえられています。
発達障害に影響があると指摘する公的機関もあります。
研究が遅れていて、直接的な因果関係がはっきりとしない部分もあるものの、やはりリスクは高いとされていることには変わりありません。
日本はこの現実についてどう捉えているのでしょうか。
日本の厚労省はこの事実を知っているにもかかわらずまだ規制をかけていません。そのような発想もないようです・・。
※予防原則っていうのをどこまで考えるのか、という話になるのですが、
日本では
「健康被害や何らかの悪影響との因果関係がある」ということが、はっきりと証明されない限り制限しない傾向にあります。
たとえ考えられるリスクがあったとしても、まるで科学的根拠に基づいていないかのような判断をしがちです。
リスクがないわけではないものを「ない」とらえてしまう。
おそらく危ないであろう、という予測があったとしても、それを制度として形にするのがとても遅い。
予防原則を考えてどれだけ政策に生かせるかということが重要だと思います。
予防原則(よぼうげんそく)とは、化学物質や遺伝子組換えなどの新技術などに対して、環境に重大かつ不可逆的な影響を及ぼす仮説上の恐れがある場合、科学的に因果関係が十分証明されない状況でも、規制措置を可能にする制度や考え方のこと。ウィキペディアより引用
どれくらいのリスクがあるのか、不確かなまま使われている、ということですね。
リスクの計算はあくまで判断を助ける情報の一つにすぎず、わかっていないことはたくさんあります。そこで安全を重視するか、しないかが政策の分かれ道です。
当初はわからなかったリスクがあとになってわかり、安全性が簡単にひっくり返ることも過去に多くありました。
たとえば、オゾン層を破壊するフロンは、開発当初は夢の物質といわれていろんなところで使われていましたが、後でオゾン層を破壊することがわかり、今では禁止されています。
夢の殺虫剤として、開発者がノーベル賞をもらったDDTも今では禁止農薬です。
どんな人に一番農薬のリスクが危険なのか?
年齢問わずリスクはありますが、最もリスクが高いのは、妊婦さんや胎児です。
母乳で育つ子どもや、2-4歳くらいのお子さんもリスクが高いです。
それから農家さん自身の健康リスクも問題です。
いろんな農家さんにインタヴューをしているのですが、農薬をやめた農家さんに訊くと、
「(農薬をたくさん使っていたら)重度の花粉症になってしまった」という方もいました。
使うのをやめたら改善されたとおっしゃっていました。
これは少し昔の話になりますが、ある農家の女性は農薬散布をした後、急に具合が悪くなり散布後は毎回寝込んでいた・・なんて話もあります。
日本の消費者は本当に農薬が使用された野菜を望んでいるのか?
ニーズにあっているかというと、実はそうではない。
http://www.greenpeace.org/japan/Global/japan/pdf/20160323_Organic.pdfグリーンピースで、以前20代から60代にスーパーでの買い物に関するアンケートをとったところ
(有機作物などの)品ぞろえが少ないという人が7割もいたんです。
また、農薬が体に悪いイメージだという方は6割も占めました。
使わないものがベターという消費者も含めると、なんと85%もの方が農薬不使用のほうがいい、と答えていることが明らかになりました。
みなさん、意外と買うときに気にされているんですよ。
消費者が望んでいないものを農家が一生懸命作っているという現状が続いています。
日本では、農家にオーガニックを推奨するどころか農薬を推奨しているという状況があります。
消費者のニーズとかけ離れた政策と生産を行っているということです。政策が農家と消費者のために全然なっていない。
農薬メーカーのためにはなっているかもしれませんが・・・無農薬のお米を作るときに、農家さんが大変なこと
農薬散布しないとお米の値段を保てない?!
http://www.greenpeace.org/japan/Global/japan/pdf/20160323_Organic.pdfまたお米については野菜よりさらに特殊な考え方で、※斑点米という黒い点がお米にできる現象があるのですが、これが千粒に2粒でもあると値段が下がってしまうんです。
砂利がはいっても値段さがらないけれど、斑点米は下がる。
斑点米は、米粒に茶褐色の斑点が残った米である。米の等級を決める農産物検査の規定では着色粒の中に分類される。主な原因は、水田周辺の雑草地などから飛来した斑点米カメムシ類が、稲の穂が出た後、籾からデンプンを吸い、その痕にカビが発生するためである。カビ毒などの生成はなく、混入程度も0.1〜0.7%程度と極僅かなので食味には影響しない、健康上も問題ないが、見た目が悪いため商品価値が下がる。対策は、農家段階では広い範囲での農薬散布による。
この対策として、農薬散布をすることになります。
使いたくはないけど、収入面などの問題もあり、使わざるを得ない、という厳しい実情があるんです。これについても一般の消費者は4割以上が「斑点米」でも構わない、という回答をしています。
http://www.greenpeace.org/japan/Global/japan/pdf/20160323_Organic.pdf
見た目も気にするけれど、農薬散布されたお米よりはいいと考えている人も含めると、さらに多くの人たちが構わないと考えていることが明らかになっているんです。
農薬の規制について、現状の国内の制度で、どのような問題がありますか?
農薬を新しく使い始めたり、使用範囲を広げたりする場合、まず農薬メーカーが農林水産省に依頼します。
それを受け取った農水省は農薬の効果などを調べる一方、農薬の毒性に関しては食品安全委員会が調べます。
そのうえで人体への毒性を算出し、一日対応摂取量(一生毎日摂取したときに大丈夫な数値)を出します。
その後、厚生省が残留基準などを公式に定める、そんなフローで行われています。
問題その1「この農薬は本当に必要なのか」ということを検証するプロセスがないこと。
問題は「この農薬は本当に必要なのか」ということを検証するプロセスがないことです。メーカーが申請を持って来たら、それを単純に検査するというフローになっているんです。
そもそも農薬使用の必要性を確かめずに使う前提でフローをすすめるわけです。
そのため、許可量が増えてしまうという問題点が出てきます。
問題その2「一日耐用摂取量を超えさえしなければいい」という考え方
農薬の使用を最小限にしようということに対してインセンティブがない。
また、農薬の使用を抑えよう、という考え方に対して特にインセンティブがありません。
厚生省は「一日耐用摂取量を超えさえしなければいい」という考え方をします。
「摂取量を最小限にしよう」という考え方は現状ありません。
問題その3 農薬一物質だけについてのみ、摂取許容量を決めいている
大きな問題点は農薬一物質だけについてのみ、摂取許容量を決めいていることです。でも私たちは毎日いろんな食材を口にするわけです。
当然農薬だって複数種類食べているはずです。
複合的にとっているのに、複合的に摂取した場合の安全に関する調査や試験はしていないんです。
野菜や果物は、慣行農法で多いものであれば私たちの口の中に入るまで数十回以上農薬を散布します。
いろんな農薬が混ざったものが数十回にわたってかけられるケースも珍しくない。
本当はこのことがとても重要なことであるはずなのに、見落とされています。
農薬を使わず頑張る農家さんもいると思いますがどのような取り組みをしていますか?
天敵を使った農薬に頼らない農法が注目されている。
はい、近年天敵を使った農法が注目を浴びています。
高知県がとても進んでいるのですが。
天敵というのはいわゆる昆虫とか害虫を食べるカエルとかです。
天敵を使うことで、天敵が仕事をしてくれるから、防護服を着て農薬をまかなくて済みます。
農家の仕事は山にいって天敵をとってくることです。一頭10円とかそれくらいで売っているそうです。
天敵もなんでもいいということではなく、できれば土着のものがベター。
その土地にいるようなものがいいといわれています。
どういった施設や機関に働きかけを行っていますか?
私たちも政府機関に直接署名を提出するなどし直接アプローチを続けてきましたが、なかなか大きな変化は難しかった。もちろん署名を出すことによって動きが全くないわけではないです。
一時的に見直しが検討され、政策が保留になったり、そういうことは過去にもありました。
ただ、今はそれより議員さんが一声あげたほうが影響が大きかったりするので、議員さんに直接農薬問題についてお伝えしたり、スーパーマーケットに消費者の声をお伝えする活動をしています。
私たち消費者ができることは何だと思いますか?
簡単にできることは、まずはオーガニックのものを選んでいくこと。
それから自分たちの声を届けることも重要です。
とある小売業界の方は「スーパーが変わればオーガニック市場も変わる」と断言されていました。
中でも、消費者の声は小売店にとって貴重。
小売店にオーガニックを扱って下さい、というメッセージを届けることはおすすめです。
スーパーなどの小売店は私たちの声を聞いてくださるものなんでしょうか?
それがたった数人の声だとしても効果はあると思いますか?
はい、スーパーは消費者の声を聞いてくれる、と経験上思います。
お客様の声でこんな取り組みを行っています、というPOPを出されるスーパーも増えてきていますし、そのような取り組みは決して無駄ではなく大変効果的なことだと言えます。
ミツバチのVR動画
グリーンピースさんが今一押しのVR動画をご紹介します。最後に 筆者から一言
今回インタビューして思ったことは、やはり一般市民がもっと食品に対する知識を持たなければいけないのではないか、ということです。グリーンピースが行った調査によると「スーパーで野菜を買うときに農薬の有無を意識するかどうか」という質問に対してなんと6割の人が「していない(またはどちらかといえばしていない)」に該当してしまいました。
つまり過半数以上の人たちが農薬の存在についてまだ、気にしてすらいない、という状況なのです。
知らずに何十回と農薬散布されたものを何の疑問も持たずに食べている人がたくさんいるわけです。消費者の力だけで変えられることには限度がある。
だからといって諦めるのは違う、そう思うのです。
大多数とはいわないまでにも、半数を超えるくらいの人たちが変われば、周りも自然に変わっていく。
それが、あなたの家の近くの小売店かもしれません。
国や大きな組織がかわるのを待っていても、難しい。
「誰も変わってくれない!」と文句を言いながら待つんじゃなくて、自分で何かひとつでも行動に起こすことが必要です。
自分の力で情報を集め、積極的に安全な食品を選んだり、農家とのネットワークを増やしたり、
オーガニックなコミュニティをつくったり、スーパーに声を届けたり・・・そういう一見地道な活動が、私たちがよりよく生きることにつながるのではないか、私はそう信じています。
グリーンピース・ジャパン公式フェイスブック
グリーンピース・ジャパンHP
グリーンピースをすでにご存知の方も多いと思いますが、日本を含む世界55以上の国と地域に活動を展開し「脱原発」「自然エネルギーの確実な導入」「持続可能な漁業と農業の実現」を実現するため、企業や政府に働きかける活動を行う団体です。過去にはユニクロなどの大手企業ともコラボレーションし、クリーンな環境を目指して日々邁進しています。
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