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これからは土で野菜を選ぶ時代です| 植物の栄養にとって最重要栄養素である、意外と知られていない窒素②「農学博士」スエタローが教えるオーガニック農業講義vol.4〜

agriculture 1870017  340

こんにちは、農学博士のスエタローです。

前回はリン酸の過剰蓄積の害について、一般の方でも分かるように身近な例とともに説明してきました。
今回は、皆様が最も関心のあるかと思います、有機肥料に関して、
実践的なお話も交え、お伝えしていきます。

さて、有機肥料といえば、化学肥料と対になる言葉ですが、
一体どう違うのでしょうか?

1.化学肥料と有機肥料・有機質資材の根本的な違い


1) 全くことなる保証成分


 化学肥料と有機肥料・有機質資材の大きな違いは、両者の保証成分が極端に異なることです。
例えば、市販の硫酸アンモニウムは窒素21%含有しています(詳細な化学的な話は避けます)。

尿素もご存じのことと思いますが、46%の窒素、つまり肥料の半分が窒素ということになります。
それゆえ、化学的に濃縮された工業製品であることが分かります。
 他方、有機肥料や資材は、生物由来のものですから、その保証成分が極端に少ないのです。

鶏糞堆肥で窒素4-5%(尿素の1/10ですね)、
牛糞堆肥で0.5-1.0%、この違いは次号のVol3で理解しやすい形で取り上げます。
 ですから、有機肥料・有機質資材と異なって、
化学肥料は窒素に限らず、リン酸であれカリであれ、大量に施肥してしまいがちなんです。

他方、有機の場合は、保証成分が極小に近いですから、
化学肥料よりも大量に施用しないと効果が出にくいという面があります。

2).有機肥料は母の手料理?


2)-1.化学肥料はカップヌードル



 資材の施用・労力の面では、有機よりも化学肥料が少量で済みますから楽ですね。
一時期(昭和30年代)、化学肥料がもてはやされたのは事実です。
 しかし、昨今、有機質資材に大きく期待する部分は、もちろん、
『オーガニック・私たちの健康』に直結する部分もあります。

その主な要因は、土壌中の有益な微生物の餌となることです。
先の図1の『無機化』に当たるところです。

 料理に例えてみましょう。
化学肥料も有機肥料・資材にせよ、一定量の窒素や他の栄養素を含有しています。
しかし、化学肥料の場合、水に溶けて直ぐ植物に吸収されます。
即効性(そっこうせい)』と称します。

これは、料理で例えるならば、単身赴任の社会人なり学生なり、
帰って「料理を作るのがめんどくさいから、カップヌードルで済ませよう!」という感じですね。

そうすると、料理の腕は落ちますね。
 このことは、化学窒素肥料ばっかりやっていると、料理の必要もないので、
善玉微生物がわざわざ有機物を分解・無機化して窒素を奪うこともしなくなるのです。

怠けてしまうんですね。そこに、病原微生物にとっては一つのチャンスですね。
これ幸いと潜り込んで、悪いことをするということもいえます。

2)-2.有機肥料や資材はお母さんの手料理


 なぜならば、有機肥料や有機質資材の中には、有機態窒素が含まれておりますが、
これらは直に植物には利用されないことは記しました(一部例外はあります)。
ですから、これらを土壌に施したら、土壌中の多様な微生物によって料理『無機化』されて、
無機態窒素となって出てきます。この工程が、お母さんの手料理とでも称しましょうか? 

美味しく、バランスのとれた栄養素が摂取できて、健康的であるという感じですね。
無機化に関与する微生物の活動が活発になることで、
病原微生物の活動も抑えてくれるということなのです。

 それに窒素の含有率が少ないことも、微生物が有機態窒素を餌として奪おうとしますから、
活発になるでしょうし、化学窒素肥料のような過剰障害が起こりにくいということもあります。
(資材にもよりますけど、過剰施肥はNGですよ)

2)-3.乳酸菌とピロリ菌の戦い


 ここでは微生物の話に入ってしまうと、窒素から大きく逸れるので、
皆さんがよく知っている一例だけを挙げておきます。

「土壌中で多様な微生物が活動していて、病原菌の活性を抑えてくれる」と称しても、
目に見えないですし、「また、学者の頭でっかちな話が始まったか!」となりますよね。

 実際、土壌微生物を顕微鏡で探すことって、結構難しいので(詳細は省きます)、
乳酸菌とピロリ菌を例にします。

昔、ヤクルトのコマーシャルで見たことがあるか分かりませんが、
私たちの胃の中で、乳酸菌ピロリ菌が戦っている映像を見たことないですか?
 かなり、リアルに映像されていたように思いますが、あれを想像してください。

2)-4.有機質資材の施用こそ土の健康→私たちの健康へ


 私は、『オーガニック→土の健康』ということを訴えるのであるならば、
有機質肥料ではなく、有機質資材を強調します。
ちなみに、私の指す有機質資材とは低窒素含有率である牛糞堆肥または牛糞バーク堆肥となります。

これは、鶏糞堆肥と違って、難分解性(なんぶんかいせい)で、土壌の有機物を高め、メリットも大きいのです。
詳しくは、後日、基礎土壌学を設けて解説します。

 今、ここでは鶏糞堆肥を牛糞堆肥並みに施用してしまうと、
「分解が速いため、急激に無機態窒素が出て、
化学肥料と同様、窒素過剰障害に陥ってしまいますよ!」ということで、
理解していただきたいと思います。

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2.ハーバー・ボッシュによるアンモニア合成技術


1).空気中の窒素を用いてアンモニアを合成する


 まだまだ窒素の話が続きますが、今回の理論的な基礎知識はここまでにします。
次号でも面白い事例を取り上げます(牛糞堆肥と鶏糞堆肥の窒素含有率の極端な違いなど)。

 Vol1でも根粒菌の話をしましたが、これと対比しながら考えていきましょう。
農業史の一部となりますが、わが国では、江戸時代までは、化学肥料は存在しておりませんでした。
下肥(しもごえ)や前記した油かす等の有機肥料が用いられていたのです。

 ところが、明治に入って、ヨーロッパから化学肥料や土壌学の導入により、
単位面積当たりの収量を高めることができました。その一つの恩恵に、化学窒素肥料が挙げられます。

これの施用によって、収量が劇的に増大しました。この化学窒素肥料はどのようにして製造されたのでしょうか?
 その歴史を紐解いてみましょう。
図3にドイツ人化学者であるハーバーボッシュによるアンモニア合成の化学式を示します。

簡単な化学式ですね。窒素分子1個(1モル)と3個の水素分子(3モル)を反応させて、
2個のアンモニア(2モル)を作る式です。

 この図3の下の文章を見ても分かりますように、これを合成するに当たっては、
莫大なエネルギーが必要となるのです。「鉄を触媒として・・・」と記していますが、
ここにも触媒という言葉が出てきましたね。さて、ここが肝心です。
 実は、窒素は『不活性ガス』とも称しまして、他の元素と反応しにくいのです。
ここが酸素と違うところです。

酸素には、皆さん、ご存知のように、『活性酸素』が存在するように、
他の元素と反応して、酸化物を作ったり(鉄の赤さびがそうですね)、
劣化させたりしますよね。そこが、酸素と窒素の大きな違いなのです。

ですから、窒素と水素を反応させて、アンモニアを得るということは、
莫大なエネルギーが必要であるということも頷けましょう。


図3 ハーバー・ボッシュによる空気中の窒素によるアンモニアの合成概略

2).窒素肥料を製造するには何資源が必要?


2)-1.リン酸肥料はリン酸、カリ肥料はカリ資源


 ご存知の通り、リン酸肥料を製造するにはリン酸資源。なぜならばリン鉱石を原料にしているからです。
カリ肥料は?当然ながら、カリ鉱床です。
強いて記せば、石灰のような土壌改良資材は石灰岩ですね。
これは当然のことながら、ご理解できると思います。

2)-2.窒素肥料は何資源(xとしましょう)?


 なんでこんなことを記すのか? 「窒素肥料は何資源が必要ですか?」よくこの質問をすることがあります。
そうすると、大部分の学生も含めて、「窒素資源」と答えるんですね。これが落とし穴なんです。「どうして?」。
図1のところで説明しましたね。大気中には78%近い窒素があります。
不足することはありません。だから、窒素資源ではないんです。

2)-3.そのx資源はどこから得るの?


 ここにxの解答を書きましょう。実は『水素資源』なのです。
驚く方も居られるかもしれませんが、図3の窒素と水素の化学式によるアンモニアの合成を見てください。
水素が加わっていますね。この水素が必要なのです。

ひっかけ問題ではないですが、リン酸肥料はリン酸資源、
カリ肥料はカリ資源、窒素肥料は窒素ではなく水素資源なのです。
 それでは、この水素はどこから得るんでしょうか? ある後輩は「空気!」と答えました。

笑ってはいけませんが、空気に水素があったら、
マッチ一本火をつけても大爆発しますよ。地球壊滅だ!!!!! あーーーー。

 実は『原油』なんです。図4に水素を得る式を示しましょう。 
 ここでも有機化学の話が出ますが、我慢してください。
プロパンガスは皆さん、ご存知です。この『プロパン』は3つの炭素と8つの水素が結合してできています。
これを『炭化水素』(たんかすいそ)と称します。

この炭素3つには8個の水素を結合できる限界量であって、
飽和状態と考えてください(『飽和炭化水素』と称します)。

 ここに化学変化を起こして、2個の水素(1モルの水素分子)を除いています。
この反応のことを『脱水素反応』と称しますが、
本来8個の水素を抱えていたプロパンは、2つ空白ができて、炭素同市が2本の手でつなぎあって(『二重結合』と称します)、
6個の炭素を持っています。この物質は『プロペン』と称します(この二重結合の利点は、糖質制限・脂質栄養のところでも取り上げます)。
 このプロペンの話は終わりにして、水素に注目しましょう。
実は、プロパン等の飽和炭化水素の脱水素反応によって得た水素が、窒素肥料の水素資源となるのです。


図4 プロパンの脱水素反応により水素資源を獲得
 

2)-4.窒素肥料の製造には石油資源が必要


 如何でしょうか?本号では、化学の話が続きましたが、理解していくと面白くなってきます。
そのためには、窒素の循環が一番のネックでありまして、病害虫にやられやすいということも、
このメカニズムを勉強することで、単純な知識の詰め込みではなく、理解できるものと思っております。

私もよく大学の先生からいわれたことは、「理解しなさい!」でした。
 さて、窒素肥料、その前にアンモニアの合成ですけど、原油由来の水素資源が必要であるということから、
石油資源がなければ窒素肥料は製造できないということですね。

 もちろん、リン酸にせよ、カリ肥料にせよ、製造工程においては、エネルギー源を使いますから、
ここにも燃料としての石油が必要であることも理解できると思います。

2)-5.化成肥料は石油資源依存産物であり、農業も石油依存が大半


 このことからも、従来までの化学肥料は、当初、明治初頭のように、
貧栄養土壌条件では、劇的な効果が得られたわけです。
しかし、石油資源を使っていること、

化石燃料の燃焼によって生じる炭酸ガスによる温室効果等、環境に与えるダメージが多いことも事実であり、
私たちにとって不健康であるというレッテルが張られる要因でもあります。
これは、紛れもない事実です。
実際、多くの農業の現場においても(冬場の光熱費等も含めて、施設園芸も対象)、石油依存であることも事実ですね。
 ですから、『オーガニックかつ健康』そして『環境にやさしいもの』ということに関心が移行し、
多くの方々もそれを望んでいるといえましょう。

3).マメ科植物の空中窒素固定作用の見直し
(実は環境にやさしい技術の一つ)


3)-1.根粒菌の活性の見直し


 Vol1において、根粒菌の活性事例を提示しました。
根粒菌による空中窒素固定作用というのは、
実はハーバー・ボッシュによるアンモニア製造工程と同じ原理なのです。
人工的には、莫大なエネルギーを消耗してアンモニアを合成します。

ところが、根粒菌の素晴らしいところは、この工程を自らが有する体内の酵素活性によって、
石油エネルギーを消費することなく、アンモニアを合成していることなのです。
どうですか?環境にやさしい素晴らしい技術だとは思いませんか?

3)-2.環境にやさしい戦略の一つとしてのマメ科植物の効率的な活用


 私は、オーガニック・健康という概念の中には、
マメ科植物の活用』ということも奨励しております。
根粒菌の活性を高めるため、Vol1においても報じましたように、
リン酸欠乏土壌では、これの一定量の施肥が必要です。
また、それと同時に、わが国は、有機JAS認定であれ、
安易な化成肥料や鶏糞堆肥等の連用により、リン酸過剰集積が明白
です。
おそらく、大部分の圃場でこのような傾向が伺えるでしょう。

 この場合の一対策として、マメ科植物を植えて、
可能な限り、空気中の窒素に依存した形で農業を行うことも、
環境にやさしい農業と称することができませんでしょうか?マメ類はタンパク源としても重要ですし、
ダイズなんか、
私たちの伝統食品(納豆、豆腐、味噌、醤油)の原料にとっても重要だと思いますよ。
これらの国産はわずか26%程度ですので、
自給率を高めることが重要ではないか?と思っております。

3)-3.マメ科植物栽培における低窒素牛糞堆肥の効率的活用戦略


 マメ科植物を奨励したい理由はさまざまですが、土壌の地力回復、
つまり緑肥としての効果もあります(市販しないから、金にならないという問題もあるので、
詳細は別のところでディスカッションします)。

基本は、有機物の過剰連用問題に対しても、空気中の窒素に依存できますので、
化学窒素であればゼロ、土壌改良を目的とした有機質資材(例:窒素0.5~1.0%程度の牛糞堆肥等)を効率的に施用して、
地力を高めることも良策であると考えております。6.の最後にまとめておきます。

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3.学生卒論指導を通じた窒素施用量比較試験の実際→衝撃的なことが分かった


1).パラグアイにおける作物・野菜類栽培試験の紹介


 Vol1においても、パラグアイの事例を紹介しましたが、ここでもパラグアイでの学生卒論の成果を3点ほど紹介します。
窒素の施用量比較試験の成果であり、土壌条件によって比較試験が必要であるという事例です。


2).ピーマンの栽培比較試験→化学窒素ゼロでは低収量・やりすぎもNG


 写真1にピーマン品種Yolo Wonderを用いた栽培試験、図5にピーマンの栽培試験の成果を示します。
これは、一定の区画における窒素施肥量比較試験です(0、50、100、150および200 kg/N処理区で尿素を採用)。
学生卒論実験指導の一つでありまして、窒素は化学肥料の施肥適正量を見つけるために実施しました。
  

 さて、次が窒素施用量が異なった場合のピーマン果実のレスポンズカーブです。
土壌条件によりますけれど、窒素を施用しないと収量は最低ですね。

この場合、収量として土壌由来の過去に施用した有機物の無機化によって出てきた無機態窒素の影響も含めて、
1385kg/haの果実収量が得られたと考えてもいいですね(図1の無機化と関連させて考えてみましょう)。
これに対して、窒素の施用量を増大していくと100kgN/haが経済的にも最適な施肥量で、
200kgN/haとなると収量が低下していますね。これは、先の図2で示した窒素過剰による収量低下が考えられるのです。


 どうでしょうか?このような比較試験を実施するというのは、
学術的で研究がメインとして敬遠されがちなのですが、ここではそのことは考えずに、
今回の窒素の基礎学習として捉えてください。窒素を復習しましょう。

タンパク質や葉緑素の構成成分ですから、少なすぎてもいけない。
かといって、多すぎてもいけないことが、この実験結果からも分かりますね。
図1と図2で学習したことを思い出しながら、見ていくと、奥深いものになっていき、
そのことが『理解』につながっていくということを分かっていただきたいのです。

3).トウモロコシ二雑種→有機物連用土壌での驚くべき結果


 次の事例です。同じく、私の学生卒論の事例です。
トウモロコシの採用雑種はTNH0032100およびTNH0033100でありまして、
播種密度は0.9m×0.3m、播種穴に対して2粒播種しました。
実は、ここは、大学生が農業実習を行う農業高校の圃場でありまして、
今まで、ミミズ堆肥や鶏糞堆肥等、長年にわたって連用されてきた圃場だったのです。

そのことを承知の上で、以下、学生卒論実験に取り組んだということです。
 写真2は、穂をつける前に旺盛な生育をしていたときで、ある学生が給水塔の上から撮影したものです。
手前の旺盛に生育している雑種がTNH0032100、
写真上部は雑種TNH0033100ですが、まだ生育して間もない状態です。

なぜならば、これは両者の花粉の交雑を避けるため、雑種TNH0032100を1か月早く栽培したのです。


 図6にトウモロコシ二雑種の栽培比較試験の成果を示します。
こちらの試験も先のピーマンと同様、窒素4水準(0、50、100および200kgN/ha)で、同じく尿素を採用しています。

この実験から分かることは、雑種間で見ますと、同じ窒素の施用量でも収量が異なるということ、
高い収量が得られた雑種がこの地域における適雑種であることがいえますね。
それゆえ、雑種TNH0032100が素晴らしい成果であったと頷けましょう。


 次は窒素の施用量についてはどうですか?面白い現象が観察されています。
窒素肥料がゼロなのに、両雑種とも9000kg/ha(=900kg/10a)という高い収量が認められていることです。
これはどのように考えましょうか? 

先に書きました。有機質資材を連用してきた。
図1の無機化を思い出しましょう。このように考えることができます。
長年、ミミズ堆肥や鶏糞堆肥が施用されても、全てが土壌中で分解しません。
一部は分解されない状態で土壌中に残り、この場合は有機態窒素として留まっている状態です。

この有機態窒素は、通常の土壌分析では検出されません。
大部分が無機態窒素の分析でありまして、強いて記せば、
隠れ肥満なのです。この残っている有機物ですが、
トウモロコシの栽培に当たって、分解も進みます。土壌の中は非常に複雑です。

ブラックボックスと呼ばれる由縁です。
その結果、無機化によって、大量の無機態窒素が出てきたと考えていいでしょう。
 雑種TNH0032100の場合は、窒素を50kg/ha程度の施肥であっても収量を高めています。
それだけ、窒素をたくさん欲しがる雑種であると考えることができますね。

でも、土壌中に有機態窒素が多ければ、それほど外部からの窒素を要求しないということもいえます。
さらに、ピーマンの試験と同様に、200kgN/haでは過剰になっております。
 他方、雑種TNH0033100は窒素の要求量が高くない種であると見受けられます。

なぜならば、窒素の施用量が増すと、収量が低下していますので、
かえって、少量でも過剰症が出たのかもしれません。
 このように、有機物施用連用圃場も要注意で、
まずは、自分の足元を見ないといけないということの一つの証左であるということです(灯台下暗しですね)。

4).過剰有機物連用土壌でのタマネギ→オーガニックが悪と誤解されやすい衝撃的な結果


 次の事例です。先のトウモロコシと同様、農業高校の圃場での実習生のデーターです。
ミミズ堆肥を0、2.5t、5.0tおよび7.5t/haという施肥量を変えた形で、
タマネギ(品種はValencianita precoz)を栽培し、
得られた収量結果です(図7)。ここでは、窒素肥料ではなく、有機質資材になりますが、続けます。


 これも面白い結果が得られました。
ミミズ堆肥を施用していない処理区のタマネギの収量が最高であるということです。
この結果を鵜呑みにすると、『オーガニック』に反しますね。
「堆肥を加えない方がよい」という結果ですから。
「え!!!」ですね。私はオーガニック反論者というレッテルが張られますね。

違いますよ。この結果も先のトウモロコシと同様、
有機質資材(化学肥料の入手が困難な地帯でもありました)の連用による過剰施肥土壌が形成されていたということです。
こうなると、かえって、有機物を施用しても効き目がなく、無駄な投資で終わってしまうのです。

5).自分の圃場が有機物(有機態窒素)による過剰施肥かどうか?→栽培比較試験が必要


 大事なことを書きます。一般的に、土壌の有機態窒素の分析はできません。
実験方法はありますが、かなり複雑になりますので、
後日、機会をみて、私らがコンサル業務で実施したデーターを取り上げる考えでおります。
 一般的には無機のアンモニア態や硝酸態窒素の分析であり、これだけでは、
かつて、施肥した有機物中の有機態窒素の推測は不可能なのです。

ですから、以前にも記したように、
簡易的な窒素施用量比較試験(ポットによる試験でもいい)を行って、
有機物が過剰に残っていないかどうか?植物の生育より、調べていくしかないのです。
最後に、過剰施肥土壌も含めて、可能な限り、
マメ科植物を効率的に活用
することも重要であると考えております。
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4.問題提起・注意喚起・理論的根拠・経験・解決案に関する本号のまとめ


 Vol2では、窒素において、化学的な事項を含めて、
問題提起・注意喚起・根拠・それと経験談・提案を述べてきました。これらを復習しておきましょう。

1.有機物中には有機態窒素が含有されていますが、植物は利用できない

(一部のアミノ酸等は例外)。

2.土壌中の微生物の作用による無機化によって無機のアンモニア態窒素が生成される

お母さんの手料理ですね。これは水稲でも好まれます。

3.このアンモニア態窒素は硝酸化成作用によって、
硝酸態窒素に変わり、畑作物や野菜類は好んで吸収します。

4.余分な硝酸態窒素は、溶脱なり脱窒されたりします。
 過剰な場合、溶脱による地下水汚染、脱窒によって
窒素が空気中で酸化されて窒素酸化物となると、大気汚染の原因にもなります。

5.吸収された硝酸態窒素は、再びアンモニアに戻って、アミノ酸に合成され、タンパク質等へ合成されます。

6.不適切な窒素施肥で、植物が過剰なアンモニア態窒素を吸収すると、
植物の骨格を成しているセルロースが壊され、
甘味を有するオリゴ糖等に変化します。このことが軟弱化と病害虫を寄せ付けます
(化学肥料ばっかりやると、病害虫が増えるということの化学的説明の一つです)。

7.空気中に含まれる約78%の窒素ガスは利用されない。

植物が空気中の窒素を栄養として利用できたら、窒素過剰症に陥り、
セルロースが破壊されて全滅してしまいますね。
マメ科植物などの特殊な種を除き、窒素ガスは利用されないのです。

8.ハーバー・ボッシュによるアンモニア合成には石油資源の他、莫大なエネルギーを使う。

 根粒菌はこれを無料で行ってくれているのです。

9.マメ科植物にとっては、根粒菌の活動を高めるためにも適量のリン酸が必要です(vol1で報じた)。
他方、現在、わが国はリン酸集積土壌も多いので、
窒素の施肥が必要ないマメ科植物(例:ダイズ等)を効率的に活用することも一案です。

10.有機質資材としては、窒素の含有率0.5-1.0%と少ない牛糞堆肥や牛糞バーク堆肥を効率的に活用して、
土壌微生物の活動を高めることも大切です。料理の腕を磨きましょう。

11.自身の圃場が、有機物連用等によって、
過剰に有機態窒素が残っていないかどうか?簡単な栽培比較試験を行って確かめることも重要です。
→経費削減・オーガニック・土ならびに私たちの健康にとっても!

 次回も引き続き、窒素の話(Part II)をします。引き続き、よろしくお願いいたします。


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