これからは土で野菜を選ぶ時代です| 植物の栄養にとって最重要栄養素である、意外と知られていない窒素④「農学博士」スエタローが教えるオーガニック農業講義vol.6〜
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土作りにおける窒素の大切さ、これまで3回に渡りお伝えしてきました。
4回目となる今回は、より実践的な内容をお伝えしていきたいと思います。
どれも普段の生活にも活かせる内容となっておりますので、
最後までお付き合いくださいね。
簡易コマツナ栽培比較試験による自家製堆肥の肥効確認の大切さ
1).コマツナを用いたポット試験の実施
それでは、ここで私による簡単なポット試験による成果を報告していきます。
以前、京都のコンサル先で行った実験です。大変参考になると思います。
用いた土壌は、粘土質の過剰施肥土壌(Vol1で示しましたね)であって、
市販の牛糞バーク堆肥は500kg/10aと、先ほどの計算式で得たものの半量です。
この牛糞バークの材料は牛糞、樹皮、オガクズであり、
トータル窒素(N)が1.1%、トータルリン酸(P2O5)が0.7%、トータルカリ(K2O)が0.9%、C/N比が12.4でした。
このC/N比の値では、窒素飢餓の心配はありませんが、
分解の難しい有機質資材、つまり有機質土壌改良資材という捉え方をしておりますので、
有機窒素肥料としての名目で、鶏糞堆肥も混合しました。
(微生物に分解されやすい窒素で、コマツナの初期の栄養としてですね)
この鶏糞堆肥のトータル窒素はなんと2.7%でした。約3倍の違いですね!
鶏糞堆肥の施用量は15kgN/10aとしました。
※この計算の仕方は、後程この号で解説します。先にいきます。
このように、市販の資材の含有率を理解した上で、実際の試験を行うことが重要になります。
正しく、『論より証拠』へとつながっていきますからね。
この状態で、含有率が分からない状態の自家製堆肥(隣人の副産物として得た安い堆肥を使いとのことで、
そのコンサル先より試験を依頼されました)を用いて、
先の牛糞バーク堆肥と同じ条件で比較試験を実施したということです(写真4)。
私が強調したいことは、含有率という数字だけにこだわらず、実際に簡単な試験をやって、
自分の目で確かめることが大切であるということです。
含有率やC/N比というのはあくまでも目安であって、
有機質資材は製品によって分解の難易性が異なってきます。
ですから、成分含有率という数字だけでは判断できないことも多いからです。
その主な理由は、以前にも書きました。土壌は『ブラックボックス』だからです。
ですから、『論より証拠』なのです。証拠を得れば強いですよね。
2).鶏糞堆肥中の15kgN/10aの計算方法
鶏糞堆肥の計算方法を解説しましょう。
15kgNという表示ですが、これも大事なことです。
生産者にとっても家庭菜園うやある消費者団体やNGO等が、
モデルファームや菜園をやっている場合にも役立ちます。
というか、必須理解事項です。
鶏糞堆肥であれ、化学肥料の尿素であれ、窒素として15kg/10a施肥するとします。
これは、鶏糞堆肥や尿素を15kg施肥しているという意味ではありません。
リン酸やカリもそうですね。
例えば、5kgP2O5/10a施肥するということはリン酸として5kg施肥するという意味です。
これを計算するためには、各肥料の成分含有率を知らないといけないのです。
鶏糞堆肥の中に2.7%の窒素を含んでいます。
比例式を使います。
鶏糞堆肥には2.7%の窒素を含んでいる。どのような計算式が立ちますか?
鶏糞堆肥全体100%:窒素2.7%=xg:15kg
15kgの窒素を得るには、鶏糞堆肥どのくらい加えるの?という意味なんです。
内向と外向を掛け合わせると、2.7x=100×15
x=556kg
すごい量になりますね。確かめ算をやってみましょう。
556×0.027(2.7÷100)=15 なりますね。
窒素として15kg/10a施肥するいう場合、2.7%の鶏糞堆肥を用いるということは、
このように556kgも施用しないといけないということです。
まだ、終わりではありません。次は、ポット試験での換算ですね。
10aですから100tとします(カリ比重値は1とします)。
100tの土は100kgと置き換えましょう。
そうすると、ポットの土、500gであれば0.5kgと単位を統一できますよね。
100kg:556g=0.5kg:yg
内向と外向を掛け合わせて、100y=556×0.5 y=2.78g
1ポット当たりの鶏糞堆肥の施用量になりますね。
ご理解していただけましたか?
3).応用問題 尿素中の15kgN/10aの計算方法
応用問題として尿素でやってみましょう。
鶏糞堆肥のような有機肥料と化学肥料の施用量の違いがどれだ違うかご理解いただけるものと思います。
計算方法は先の鶏糞堆肥と同じ公式です。
尿素全体100%:窒素46%=xg:15kg
内向と外向を掛け合わせると、46x=100×15 x=32.6kg
すごい量になりますね。確かめ算をやってみましょう。
32.6×0.46(46÷100)=15 となりますね。理解できましか?
窒素として15kg/10a施肥するいう場合、
46%の尿素を用いるということは、このように32.6kg。
つまり、鶏糞堆肥556kgよりも遥かに少ない量で済みましね。
これが、農業生産側にとってみれば、比較的楽であり、
化学肥料がもてはやされた理由の一つなのです。
それに、尿素20kg入りと市販の鶏糞堆肥であれ、
大型店や園芸店で20kg入りが比較的安いにしても、
いくらかかるか?それも考えてみてください。
まだ、終わりではありません。
次は、ポット試験での換算ですね。
100kg:32.6g=0.5kg:yg
内向と外向を掛け合わせて、100y=32.6×0.5 x=0.16g
精密な電子天秤でないと計れませんが、
1ポット当たりの尿素の施用量になります。
重ね重ね、ご理解していただけましたか?
4).試験にコマツナを用いるのはなぜ?
さて、簡単なポット試験には、コマツナがよく利用されます。
なぜならば、生育が早く、僅か3~4週間の生育で、その成果を見ることができるのです。
この場合、コマツナは市場で売られている程度に大きく生長させる必要もないのです。
『幼植物ポット試験』という言葉を使いますが、
生育途中の子供の状態の植物で収穫してもいいのです。
植物は最初の生育が肝心で、最初の子供のときに芳しい生育はしていたら、それが後を引き継ぐからである。
この場合、コマツナは動物実験でいう『白ねずみ』だと思ってください。
白ねずみに薬効があるかどうか調べますよね。
医学の世界でさえ、ヒトを使って実験できませんからね。
土壌や植物の世界では、コマツナがよく使われるのです。
5).栽培試験の実施方法
上記、資材を電子天秤で量った後、土500gに十分混ぜて、約1週間は仕込みました。
これは、全て有機物の施用ですから、1週間程度は微生物による分解・料理も含めて、
適当に無機のアンモニア態窒素を放出させ、コマツナの初期生育を助けるということです。
その後、コマツナの種はピンセットを用いて20粒植えました。
だいたい4週間栽培し、それを刈り取って、新鮮重として重さを量りました。
これで終わりではなく、収穫した後に土をポットから出し、
1週間新聞紙の上で乾燥させます。
その後、鶏糞堆肥のみ毎回施用し、
1週間仕込んだ後、2回目のコマツナの種を20粒植えました。
2回目は牛糞バーク堆肥も自家製堆肥も施用せず、
初回時に施用した残効(分解の効果→無機態窒素が放出してくる)を調べたのです。
さらに、2回目と同様に、3回にわたって連作栽培試験を実施しました。
6).3回にわたった栽培比較試験の結果
これはコンサル業務の一つですので、同じ処理区を3つ設けて、その平均値をとっております。
ですから牛糞バーク堆肥処理区のポットが3つ、自家製堆肥の処理区のポットも3つ設けて、
この新鮮重の平均値を図1に示します。
左側の図から説明します。図のy軸に注目してください。
コマツナ20粒植え付け、4週間生育した後、刈り取ってそのまま電子天秤で重さを量ったものです。
牛糞バークおよび自家製堆肥処理区別で同じポットを3つ設けましたので、その平均値を示しています。
試験を実施したのが、ビニールで覆った施設の中なのですが、
冬場、風が強くて寒かったりして、第1回目と第2回目の収量にも若干が差が出ております。
でも、この差は気にしないでください。この実験の大きな目的は、牛糞バークと自家製堆肥別の違いです。
次に右側の図がこのようなポット試験を行うにあたって、
重要な事項になります。
また、別の機会にも解説しますが、y軸を見てください。
『収量比』という言葉を使っています。
これは、各栽培試験毎の牛糞バークを施用したときのコマツナの新鮮重を1としたんです。
自家製堆肥はその比です。
ですから、第1回目は牛糞バークも自家製堆肥も同じ収量ですので、
牛糞バークの収量を9.7(牛糞バーク)÷9.7(牛糞バーク)=1.0となります。
これを『1.0』にします。
他方、自家製堆肥も9.7gでしたので、9.7(自家製堆肥の新鮮重)÷9.7(牛糞バーク)=1.0となっています。
第1回目は両方の堆肥の効果が同じであったと解釈できるわけですね。
第2回目に行きましょう。
収量比を計算します。牛糞バークの収量を6.7(牛糞バーク)÷6.7(牛糞バーク)=1.0となります。
これを『1.0』にします。
自家製堆肥はどうでしょうか?
8.0(自家製堆肥の新鮮重)÷6.7(牛糞バーク)=1.2となるのです。
第3回目も同じように計算します。
7).収量比の結果で自家製堆肥も使える
収量比において、第2回目の結果に注目しましょう。
自家製堆肥が市販の牛糞バークよりも若干高い収量比ですね。
これは、鶏糞堆肥も含めて、市販の牛糞バークよりも分解しやすいと考えることができます。
今度は第3回目ですが、第2回目とは逆の結果になっていますね。
これはどう考えましょうか? 市販の牛糞バークが時間とともに分解し、
自家製よりもじわじわと効いてきたといえますね。
ですから、自家製堆肥は第2回目では分解が牛糞バークよりも促進されましたが、
3回目では効力が低下したという感じですね。
短期間でこういうことが、一つの情報として分かってくるんです。
結果的には、雑草繁茂もなく、窒素飢餓等の心配もなく、
市販の牛糞堆肥とほぼ同じ肥効であったことから、
この自家製堆肥は、本来の現場で使ってもいいだろうと判断できるのです。
もし心配であれば、一度に全部の圃場でやらず、3m×3mとう小区画で試しにやってみて、
これでも大丈夫であれば、今度から全部の圃場でやってみよう!ということになりますね。
8).青函トンネルの工事から学べ!
地質的な理論において、トンネル工事が可能という判断を下しても、
実際は青函トンネルの工事は、新幹線が通る本坑の前に、
調査斜坑(パイロットトンネル)の掘削から開始し、安全であることが確認させててから、
大規模な工事へと進みましたね。
ここに手本があるのです。
実は、この小区画での栽培比較試験はものすごく重要なんです。
これをきちんとやっていれば、「過剰施肥」は軽減される筈なんです。
「でも、この仕事は生産者がやるべきでしょ!」とう意見があると思います。
しかし、生産者は、消費者の意向に応えようとします。
ですから、消費者がこの現実を受け止め、
「きちんとミネラルやビタミン群が含有されている野菜がほしい」となれば、
生産者もそれに応える努力はします。
消費者こそ、この現実に向き合って、生産者を動かく努力が必要なのではないでしょうか?
むしろ、消費者であっても、ご自分のお庭での家庭菜園程度であっても、
このような行為(栽培比較試験と施肥計算)によって、
良質な野菜類が生産できたら、生産者はむしろ、そこから学ぼうとするかもしれませんよ。
コンサル先メーカーが市販ではなく、
自家製堆肥を購入したがる理由
1).化学肥料と有機肥料の適正施用量における盲点
鶏糞堆肥も含めての話になりますが、家庭菜園と違って、
大型店や園芸店で市販されている有機肥料や有機質資材は比較的安いように思えます。
この場合、尿素や化成肥料の単価と比較してください。
先の15kgN/10aのような計算をしてみてください。
化学と違って、有機の場合はその成分含有率が極小であることから、
大量に施用しないといけない。
この場合、資材のコストもかかるわけです。
その理由の一つが、単純な農作業ではなく、
化学肥料と違って、有機肥料の成分含有率が極小ということからもお分かり頂けるものと思います。
ですから、たとえ、成分含有率やC/N比等を知らなくても、
堆肥センターとか養鶏場等、大量に購入した場合、1とか2t単位で超割安であるものを選んで、
生産したいというのが生産者の意向です。
お分かりですよね。生産者も、低投入で生産物を売りたいですからね。
2).有機オーガニック農産物が割高になる理由
私が生産者のご苦労を理解してほしいということの一つが、ここにあります。
よく、農協関係者もTV等のインタビューで告げますよね。
「工業と農業生産は違う。化学肥料等、従来の農産物よりも、
オーガニックや高品質生産農産物は高くなる。」と…。
正しく事実です。
生産者も、安く生産したい気持ちはあります。
しかし、入念な管理で土つくりを実施し、高品質なオーガニック農産物は、
それなりにコストが高くつくということですね。
ですから、消費者一人ひとりが、このような現実を理解していただくことも重要です。
また、家庭菜園や園児などの教育菜園圃場等を有して、
『食と安全・健康』というテーマを主張したいのであれば、
消費者であっても、このポット試験は可能な限り、実践してほしいのです。
生産者のご苦労とともに、消費者も体系的に理解できます。
いずれにしても、消費者が生産者に対して、あるいはコンサルが協力する形でもって、
ポット試験等をやって、安全である有機質資材を使ったオーガニック農産物を強く望むとなれば、
生産者もそれに応える努力はすると思います。
その代わりに、工業製品と違って、若干生産物の単価は上がりますよ。それは覚悟してくださいね。
『土の健康』が根底となって、
『オーガニック』→『安全・栄養価に富んだ野菜類等の農産物』→『私たちの健康』ということを考えた場合、
それなりの価値はありますよね。
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