消費者が安全なものを求めているのに、オーガニック農家が日本では増えないのはなぜなのか?農業の現場から見る本当の理由とは。
なぜ日本でオーガニックが増えないのか?という議論は度々してきたかと思います。
農薬大国・オーガニック後進国「日本」でオーガニック食品が広まらない本当の理由。なぜ日本ではオーガニックが割高で特殊な扱いなのか?
世界トップレベルを誇るオーガニック先進国ドイツと、オーガニックを探すのも困難なオーガニック後進国日本。私が衝撃を受けた決定的な5つの違い。
今回は農業の現場からなぜ日本でなかなかオーガニックが広まらないのかについて考えてみましょう。
僕はある農業法人で野菜づくりのアルバイトをしたことがあります。
その法人は化学肥料や農薬を使用しない有機栽培で野菜づくりを実践していて安心で安全な野菜を食べたいファンの方々が遠方からも宅配を頼むような会社です。
安心で安全なのは人間にとってだけではありませんから当然ながら菌(病気)や虫たちも野菜を食べにやってきます。
ある時はオーガニックキャベツが大量のナメクジたちによってエサ兼住処にされ、蜂の巣状になったため、外側から葉を剥き、ナメクジもしっかり洗い流してから出荷しました。
よく身の詰まったキャベツでしたが外側を剥いてしまった分小さくなり最上ランクでは出荷できませんでした。
またある時は根の先が黒く痛んでいるニンジンや大根を傷物と判断しそこを切り取ったため最上ランクとしては出荷できませんでした。
この会社では出荷できなかったランク外の野菜は働いている僕たちが自由に持って帰ってもよいことになっていました。
ニンジン、ピーマン、ズッキーニ、キャベツ、オクラ、トマトなどなど最高鮮度の野菜をその日の夕食で食べて、「ランク外の野菜なのにこんなに美味しいのか!」と驚きました。
口に入るものならば”安全なもの”がよいと誰もが思うのではないでしょうか?
特にほぼ毎日口にする穀物(米、小麦粉など)や野菜ならばなおさら気になります。
体に良いもの=有機栽培のものというイメージをお持ちの方も多いはず。
消費者目線からしても農薬を大量に使用したものより安全性の高いオーガニックなものを求めるのは当然のことなはずです。
にもかかわらずなぜ日本ではオーガニックが広まらないのでしょうか?
“オーガニック”という言葉の語源
ところでオーガニックという言葉の語源についてご存知でしょうか。メディアやお店の棚で見かけるような「オーガニック」という日本語は英語の「organic」から来ていると思われ、
「organic」は形容詞で、「organ」はその名詞にあたります。
「organ」とは「(生物の)器官」や「臓器」という意味です。
これはつまり「自然界にもともといる生き物によって作り出されたもの」のことを「オーガニック」と呼んでいると考えればいいでしょう。
ちなみに「有機的な」という言葉は辞書で探せば「多くの部分が集まって一つの全体を構成し,
その各部分が密接に結びついて互いに影響を及ぼし合っているさま」(三省堂・大辞林より)となっていますから、
動物、植物、微生物などの生き物たちがお互いに関係することでこの地球という生態系が循環しているというようなことを想像させますね。
語源から探ればオーガニックな野菜とは人間が科学の力で工業的な方法を用いて作り出したもの(農薬、肥料、遺伝子組み換え)を使用せず育てられた農産物を指すでしょう。
法律ではどうかというと日本では「有機農業の推進に関する法律」 (2006年12月6日に成立した通称:有機農業推進法)の第2条に『「有機農業」とは、
化学的に合成された肥料及び農薬を使用しないこと並びに遺伝子組換え技術を利用しないことを基本として、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した農業生産の方法を用いて行われる農業』と書かれています。
理屈ではオーガニックが広まって当たり前なのに・・・。なぜ広まらないのか。
さて、IN YOU読者をはじめとし多くの消費者が言うまでもなく、「安心安全」を求めているはずです。
誰も喜んで病気になりたくはないはずですし、有害なものをすすんで食べたいわけがありません。
であれば、安全なものが売れるに決まっていますよね。
にもかかわらず、なぜオーガニック農業は日本ではほとんどないという真逆な状況なのでしょう。
みんなが安心で安全なものを口にしたいと考えている
↓
安心で安全なものが売れるはず
↓
安心で安全なものと言えば有機栽培の農産物
↓
有機栽培農家が増える
理屈から言えばこんな風な良いサイクルができそうなもの。
しかし現実は違います。
国内農地の内たったの約0.2%(JAS認定を受けているもののみ)しか有機農法はありません。
なぜ有機農法実践の農家さんが日本では少ないのかその理由を解き明かしたいと思います。
引用:http://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/yuuki/convention/h26/pdf/d01.pdf
スーパーで販売されている野菜はもう生き物ではなく、商品である。
私たちの多くは野菜をスーパーマーケットの棚の上でしか見ないのではないでしょうか?
そこに並んでいるのは“生き物”である植物ではなく“商品”なわけです。
買い物をする最中にその商品たちが生態系の中で生きていた頃のことを想像してみるなんて普段はしないものです。
商品というのは買われて初めて価値があります。
では野菜が外見を磨くためにはどうするのでしょうか。
まずは肥料や水で大きく成長させることです。
化学肥料は有機肥料に比べて野菜が吸収できるスピードが一般的に速いとされています。
虫や病気に傷をつけられないようにするため、物理的に袋で覆ってしまってもいいのですが、一つ一つ包めば労力が多くかかります。
ドローンやヘリコプターで農薬を一気に散布する方が速そうなことは素人が想像しても分かります。
冒頭で紹介した農業の現場では虫だらけになったり生育速度が遅いなどの理由から、
有機農法で作られる野菜はなかなか容姿に恵まれないのです。有機農法実践の農家に限らず日本の農業法人は野菜の容姿を整えることに多くの労力を割いているのが現状です。
有機農法は言わば“予防”を軸とした東洋医学であり、
外科手術や投薬を軸とした“即効性のある”西洋医学のようなことを行うことができないのです。
土の状態、天候、植物の生育のほんの些細な変化も見逃してしまうと農作物の商品力が大きく落ち込んでしまうのです。
農薬、除草剤、化学合成肥料を使うことで均一な商品を計画通りに生産しやすくします。
JAなど大きな流通を担う組織が有機農産物をあまり扱わないのもこのためです。
大きな流通口が引き受けてくれないとなると買い手探しも有機農家の仕事になってきます。
農作業とは別に販路探し、場合によっては運ぶ作業も必要となり、輸送費や人件費が大きくかさむことになります。
また有機農法で生産されたことを証明するJASの認定を取る労力がとてもかかることもよく知られています。
認定を取るためにある書類作成業務、実地検査の手間、その調査を1年に一度更新する手間、
その全てにかかるお金などの負担を知り、実際には有機農法で作っていても申請をしない農家は少なくありません。
引用:http://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/pdf/guidejas_nintei.pdf
有機農法は実践後、2〜3年経つと雑草・病虫害などで収穫量が下がり、4〜5年目からは土(生態系)ができるため、
栽培が楽になる傾向があるようです。この収穫量が落ちる時期は収入が減ってしまいビジネスとしては試練となります。
これに気候不良や災害が重なるとさらに経営が難しくなります。
また有機農法は(有機肥料の投入量や作物の種類にもよりますが)広い面積が必要になるようで、同じ収量をえるためには化学肥料を利用するよりも多くの農地を必要とする傾向にあります。
農地を借りたり維持管理するのにもお金や手間がかかります。
有機農法と慣行農法はきっちりと分けられない
有機農法実践農家が増えないことの直接の理由ではないものの関係していると言えるのが
”基準の厳しい”有機JAS認定の他に「特別栽培農産物」や「エコファーマー」という認定が存在していることです。
農薬や化学肥料の使用量や使用回数を減らすことでこのような認定がとれます。
農家さんたちにとっては有機JAS認定を取得するよりもコストが少なくてすむわけです。
認定されれば消費者からの印象もよくなるだけでなく、環境に優しい農業を行っているとして補助金を受けることができます。
農家さんによっては最初は有機肥料で丁寧に育てて、ある時期をすぎると化学合成肥料で一気にサイズアップをねらったり、
ピンポイントな時期だけに農薬の散布を行い、病気を抑えることもしており、農業の現場では有機農法と慣行農法のちょうど中間のやり方もあるのです。
農家さんによっては「有機肥料であってもその農地以外のところから持ち込むこと」を疑問視する人もいたりと、
有機農法でもより自然農法に近いものをよしとする方もいらっしゃいます。
これまで書いたように純粋な有機農法農家を増やすことはかなり難しいと言えます。
とは言え、国は平成28年2月に農林水産省生産局農業環境対策課から出された資料「有機農業の推進について」によれば
「おおむね平成30年度までに我が国の耕地面積に占める有機農業の取組面積の割合を倍増(1%)とする」目標をたてていて、
以下の5つの実施を進めていくそうです。
1就農相談や先進的な有機農業者による研修
2地域でまとまり実需者等のニーズに応えたロットの拡大や産地化
3広域流通の拡大に向け有機JAS認証取得手続きの簡素化等の支援
4地域の気象や土壌特性等に適合した技術体系の確立
5有機農業を行おうとする者や普及指導員等の支援のためアドバイザーの導入
食べる人が作る人の視点を持つために
ではこの状況を変えるために私たち消費者にできることはなんでしょうか?
問題の根本には消費者が生産者の現場を知らないことがあります。
1)有機農法で作られた食べ物を購入することで、
有機農法農家を応援することができます。
2)ファーマーズマーケットに出かけるなど農業をやっておられる人に直接話を聞いて見ることで農業の現場を知ることも大切です。
3)農業への理解を深める最短ルートは自分で野菜を育ててみることでしょう。
できることならば近隣の畑を借りて地面の土に触れることが良いでしょう。
都市部にお住まいだったりする場合はなかなか近隣に畑はないかもしれません。
そんな時はベランダでプランター栽培や水耕栽培もいいでしょう。
僕自身も自ら自然農法で野菜を育てていますが、やる前は「わざわざ頻繁に畑なんて見に行くだろうか」と思っていたわけですが、
いざやってみると楽しいもので成長具合を見にちょくちょく出かけるようになりました。
かつての日本では1960年代頃まで農業従事者も多くよほどの都市生活者でなければ家の近所に畑があり、
自分のお父さんお母さん、おじいちゃんおばあちゃんが野菜作りをしていたものです。
土に触れる機会が日常の中にありました。
僕が住んでいる人口20万人規模の田舎ならば今でも自分の近親者が畑や田をやっているケースもあります。
しかし地方でも農地が徐々に住宅地に変わりつつあり残っている農地も耕作放棄されつつあります。
日本は都市部(東京、大阪、愛知、福岡など)に人口集中状態が続いていて、消費者の多くが都市生活者になっています。
僕たちは土=農業から離れてしまう傾向にあります。
こういうことを言うと「野菜の栽培データをラベルにしたりアプリで読み取るなどIT化で流通の透明化ができるんじゃないか」と言う人もいるかもしれません。
しかし最近の食品表示偽装問題も示すように、
結局のところ生産者と消費者の信頼関係とお互いの立場の理解を進めるというアナログな方法が近道なのではないでしょうか?
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【引用】
※1:国内における有機JASほ場の面積(平成28年4月1日現在)
http://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/attach/pdf/yuuki-21.pdf
【参考】農林水産省・新規農業従事者及び新規有機農業従事者向け情報
http://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/yuuki/index.html
儲かるし需要はあるのになぜ有機穀物栽培は増えないのか(foocom.net)
http://www.foocom.net/column/shirai/13417/
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