スペインの地中海食も日本食もスピード重視・アメリカ寄りのジャンクフード文化へ。危機に瀕した食文化を守るために、私たちができることとは。
ユネスコ・世界無形文化遺産とは、
一般的に知られる世界遺産のような建造物や遺跡以外で、
世界各地の芸能や社会的な習慣や儀式・祭事、自然に関する知識や慣習、伝統工芸技術などの
さまざまな形のない伝統文化遺産のことです。
日本でも能楽や人形浄瑠璃文楽、アイヌの古式舞踊、
技術的な文化では、手漉き和紙技術などが登録されています。
そして私たちに一番身近なところでは「和食」「日本の伝統食文化」も2013年に登録されました。
私の暮らすスペインの地中海食も、日本より一足早く、2010年に登録されています。
今日は、その世界が認める「文化」としてのこのふたつの食と、
現実に私たちの生活の中にある、食の関係について考えてみたいと思います。
実はちゃんと知らなかった地中海食とは?
海老、魚介類だけじゃない地中海食
スペインは数十年ほど前までは、数世紀にわたって地中海料理が食卓の主役でした。
地中海料理というと、なんだか豪勢な海老や海産物をどっさりというイメージですが、
実際に世界遺産として評価されたスタイルは、意外とシンプルなものです。
特徴としては、野菜や良性の脂肪、一価不飽和脂肪を中心として肉、炭水化物が控えめ。
使用される具体的な食材は
・野菜を基本として少量の肉(赤肉を除く)
・穀物類、新鮮な果物、野菜、ナッツ類、豆類が大部分を占める
・食物繊維を多く含む食物
・魚介類
・オリーブオイル(調理は全てオリーブオイルで)
・ソースや肉汁を使用しないシンプルな味付け
こうした食事スタイルが、スペインやイタリア、ギリシャ、モロッコ、クロアチアなど
地中海沿岸の地域では数世紀に渡って続けられていました。
地中海食は血糖や血中コレステロールをコントロールし、中性脂肪を抑え、
生活習慣病をはじめとする多くの病気を予防することが証明されています。
それが世界的に健康的な食と言われる理由であり、世界無形文化遺産に登録された理由でもあります。
逆に、使用されないのは
・赤肉
・甘味のものやデザート
・卵
・バター
ヨーロッパの食というイメージからすると、意外なものばかりです。
特にバターは調理の面では、ほとんどお目にかかりません。
何と言ってもオリーブオイル天国ですから!
また、興味深いのは、こういった食材だけでなく、
その食べ方も世界遺産になる上で高い評価を受けたものなのです。
時間をかけて、家族や仲間とおしゃべりしながら、
景色を眺めてワイン片手に(1、2杯までとの限定ですが!)楽しむ食事。
食に関する環境、芸術、歴史を楽しみ享受するという、
その食べ方の哲学が大切なのです。
「食」が文化遺産になる、と言って、
特定のメニューやレシピが評価されているのではありません。
使う食材、調理方法、食材の栽培される背景、食事の楽しみ方、行事などでの食事の意味。
これらをひとくくりにした「文化」としての食です。
スペインはかの有名な「シエスタ(お昼寝)」文化がいまだに根強い国柄です。
昼寝をする習慣と思われがちですが、実際は仕事や学校など生活時間割に強く影響していて、
昼ごはんが1日のメイン食になるので、お昼はちょっと遅めの14頃から16時半頃にかけて
いったん自宅に戻って食べるという習慣です。
もちろんその2,3時間の間にファーストプレート、セカンドプレート、
デザート、カフェをゆっくり楽しみます。
ついでにちょこっとソファーで横になってひと休みしてから、また仕事へ向かうという
私たちの感覚では理解不可能なテイムテーブルが従来のリズムです。
ちなみにこのちょっとひと休み、ソファーで本を読みながらくつろぎ、
うとうとしてその本がカタン、と落ちた時に起きて終わり!
というのが最高のひと休みなんだそうです。
哀しいかな、生活スピードアップはお手軽食の消費アップの影響だった
そんなスペインも、経済成長、グローバル化が進むにつれ、
だんだんと景色を見ながらワイン片手に食べていられなくなってしまいました。
お昼にいったん閉店していたお店やスーパーも、次々と12時間営業となり、
勤務時間もランチに3時間も取るのはやめて、他国のように前寄せにして早く切り上げ、
わざわざ自宅に帰ることもなくなりました。
ここ10年弱での劇的な変化です。
食もグローバル化し、スピードアップし、日本と同じように、
アメリカ的な肉食スタイル、加工食品に頼りがちな生活、
ファーストフードや清涼飲料が中心の食生活が、
若者世代を中心にあっという間に広がってしまいました。
消費税も精製された小麦のパンの4%に対して全粒小麦のパンやパスタ、また減塩食品は10%と、
本来の食べ物の姿を求めると、
経済的な負担も大きくなってしまうという事情も、事態を悪化させているようです。
ファーストフードが増えた結果、肥満児も急増してしまった
当然ながら食生活の変化は、人々の健康に影響をもたらします。
深刻なことに、大人の生活習慣病の増加だけでなく、
小学校低学年、幼稚園児の肥満が問題になっています。
WHO European Childhood Obesity Surveillance Initiative(COSI)によると
スペインは6歳から9歳の男児の19%、女児の18%が肥満児というデータが出ています。
合わせて40%近くが肥満児という数字は、ヨーロッパでも上位3位にランクイン。
スペインとともに上位に並ぶのはイタリア、キプロス、ギリシャ、マルタ共和国と
なんと地中海沿岸の国々が、見事に並んでしまっています。
地中海食が危機に瀕している現実が、浮きぼりになっています。
参考:現地紙 Vanguardia
参考:現地紙 ABC
我らが日本の伝統食文化とは?
世界遺産に登録されたポイントとは
「和食・日本の伝統的な食文化」と題して、無形文化遺産に登録された私たちの食文化。
そこに挙げられる特徴とはどんなものでしょうか。
1.多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重
日本の野山で本来とれる山菜や野菜は、300種という豊かな質と量。海岸では多種類の魚介や海藻類が豊富にとれ、雨量の多い気候のおかげで米作も豊か。
四季の変化があり、南北に長い国土は寒流と暖流に囲まれた、豊かな環境でもあります。
そこで生まれた調理法や調理道具も、またその食材を生かすために発達しました。
2.健康的な食生活を支える栄養バランス
一汁三菜を基本とするスタイルが、栄養バランスを上手に摂取するのに最適な形だと言われており、うま味のをうまく利用することによって、
動物性油脂を少なく抑えても満足感を高め、長寿や肥満防止につながります。
箸と椀を使って、主食と副食を交互に手に持って食べるという食べ方も特徴で、
それは作法という形でひとつの文化になっています。
3.自然の美しさや季節の移ろいの表現
食卓で、自然の美しさや自然の美しさや四季の移ろいを表現することも、特徴のひとつです。季節の花や葉などで料理を飾りつけたり、季節に合った調度品や器を利用したりして、季節感を楽しみます。
京料理の永楽などが代表的な、どちらが欠けても完成しない美として日本の食文化に欠かせないものです。
4.正月などの年中行事との深い関わり
日本の食文化は、年中行事と深い関わりを持って育まれてきました。自然の恵みである「食」は、家族や地域の絆を深めるための役割も果たしています。
正月料理など、それぞれの料理に込められる意味など、ここでも文化と食が背中合わせなのです。
参考:農林水産省ホームページ
確かに、日本は世界でも珍しい海藻を多く食べる国です。
海に囲まれた国なので、当然の知恵と言えるでしょう。
外国人である夫は初めて日本を訪れた時、かつお節や大豆の派生食品の多さにとても驚いていました。
魚を干して削る、などとても忍耐のいる加工方法です。
大豆からも、挽いてきな粉、茹でて漉して豆乳・豆腐、発酵させて醤油・納豆、
それは食品の可能性を引っ張り出す、彼には信じられない発想でした。
こうして日本人は、その地にあるものを最大限に生かして、色々な調理法を作り出しています。
一汁三菜を前にして手を合わせて「いただきます」を言う瞬間、
日本人は、最もそのアイデンティティを感じるのではないでしょうか。
器の繊細な感触や色、手に持った感覚、盛り合わせの絶妙なバランス、それをもはやアートとして楽しみます。
今年は金運を、なんて思いながらお正月に栗きんとんを食べ、元気にしっかり働くぞと黒豆を食べ、
「文化としての食」を当たり前のこととして生活の中に取り入れています。
ユネスコ条約の本来の意図って何?
さて、その日本の伝統食文化が、
ユネスコに登録されることになった理由というのを考えたことがありますか?
私たちが暮らしてきた素晴らしい文化なのだから世界に評価されて当然!誇らしい!
もちろんそうですが、本来のユネスコ条約の意図を知ると、そうそうおだやかにはかまえていられません。
そもそもユネスコの世界無形文化遺産というのは、
”危機に瀕している文化”を保護するためなのです。
当然、世界的に知名度をあげて、海外進出や商業的目的で登録を申請するものでもありません。
「日本食文化の世界無形遺産登録に向けた検討会」検討会の
会長を務めた静岡文化芸術大学学長・熊倉功夫氏によれば、
ユネスコ無形文化遺産保護 条約に基づいて、
「人類の無形文化遺産の代表的な一 覧表」へ記載(登録)することによって、
その文化の保護と継承を図るというのがユネスコの真の意図なのです。
引用・参考:熊倉功夫氏インタビュー
つまり、世界遺産とされた誇らしい私たちの文化は、危機に瀕しているということ。
熊倉氏はこの危機の原因を、
身の回りのものを食べなくなっている現状だと言っています。
食料自給率の低下、食料廃棄率は世界上位、
年中行事への関心は年々薄れ、
日本が古代から培ってきた食文化を、
日本人自身が重んじることをやめてしまった、と分析しています。
これは地中海食にも、まったく同じことが言えます。
世界遺産としてたたえられている食文化と、現実の食生活の大きな隔たり。
その土地のものを食べないことは、
流通におけるエネルギーの消費も激しく、環境問題にも直結します。
自給率の低下は、現在の世界事情を見るともっと危機感を持つべき問題です。
食料廃棄量は環境問題、人権問題、貧困問題ととても根が深く、
個人のレベルからでも少しづつ解決が必要です。
季節行事や年中行事は、子供の世代にも残していきたい歴史継承の一部。
それぞれのアイデンティティを語るにあたって、
特に島国の日本でアイデンティティを確立させることは、
これから世界レベルで日本が生き抜くために不可欠な要素。
そんなアイデンティティを育むのが、こういう行事だと私は思います。
これらすべての原因は、「食文化」という穏やかな響きの裏で、
大きな問題を提起するものだと思いませんか。
食は体だけでなく、社会や文化にも大きな影響を与えるものなのです。
ユネスコ無形文化遺産に登録される事によるメリット
その文化の保護と継承を図るために、登録された地中海食、日本の伝統食文化。
登録されるとそれを保護するだけでなく、
現状の変化や危機に対してどのような対応がされたかなどを、ユネスコに報告する義務が発生します。
そのために、国民の間で危機に瀕する文化や習慣を再認識していく、という必要が出てくるわけです。
ユネスコ条約は世界評価ですが、それはむしろ本国民が目を覚ますための認識なのです。
日本にいる私たちに、今できることは?
数十年前までは当たり前だった食生活が今、急速に脅かされています。
生活のスピードが速くなり、
なんでも手に入る流通が発達し、
便利なサービスがどんどん増えて、世界の食べたいものがいつでも食べられる。
加工食品も豊富で、作る手間をかけなくてもよくなった。
洋食の方が残さず食べるし、調理も楽。
ゆっくり時間をかけて食べる余裕はない。
そんな豊かな生活に、私たちは慣れてしまいました。
上記に述べた地中海食や日本の伝統食文化と、みなさんの毎日の実際の食生活を比べてみてください。
土地のものを食べていますか?
丁寧に出汁をとってバランスよく食べていますか?
食事を文化として楽しむ余裕がありますか?
習わしや伝統を理解していますか?
でも今の生活のリズムじゃとても無理!!!
私もそう思います。
でも生活のスピードが速くなった分、情報がたくさん入るようになりました。
流通のおかげで、遠くの必要なものも手に入ります。
加工食品もたくさんの企業の成長のおかげで、クオリティのいいものが増えました。
ハンバーグもデミグラスから醤油ベースに変えてみる。
お昼の時間はゆっくり取れなくても、
夜、テレビやスマホを見る代わりに、地産の野菜で明日のお弁当の支度をしてみるとか。
時代の流れを変えることはできません。
でもその流れに乗りながら、しっかり現状を自覚していればできることがあると思います。
せっかく日本に生まれ暮らしているのだから、
世界が認めるその食べ方を、ぜひ暮らしの中へ取り入れていきましょう。
土地のものを
一汁三菜で
季節の旨みを
大切な人々と味わう。
日本の温かい食習慣が恋しくなって、食べることへの姿勢を見直したくなったのでした。
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