【連載#03:牛乳神話を疑え】牛乳も原因と考えられる3つのがんと1つの理由
【連載#02:牛乳神話を疑え】牛乳アレルギーの数々、これでもまだ牛乳は「聖水」ですか?
【連載#01:牛乳神話を疑え】わたしたちは「子牛の飲み物」を小さい頃から飲まされ続けている!
この連載では「牛乳がもたらす健康被害」についてお伝えしていますが、今回は「がん(癌)」との関係について考えてみたいと思います。
今やがんは生活習慣病とも言われています。その要因としてストレスや過労はもちろんですが、食生活は大いに影響するところです。しかしこれは逆に言えば「自分の生活習慣次第で予防できる」ということでもあります。決して先天的なものと決めつける必要はありません。
「牛乳をのむとがんになる」とまで言い切るのは些か安直過ぎだとは思います。しかし、がんの発生と無関係ではない、という事実は既に導き出されています。
牛乳とがんの関係
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1982年に全米調査委員会が「食生活、栄養、ガン」と題する報告書とともに衝撃的な発表をしました。その報告書には「全ての栄養素の中で、脂質の摂取とがんの発生に因果関係があることを明確に示す疫学的・実験的な根拠がある」と述べているのです。とくに大腸ガン、乳ガン、前立腺ガンがそれにあたります。つまりこれは「食生活の改善によってがんのリスクを抑えることができる」ということを公式な団体が示唆したわけです。
これまでの連載にも書きましたが、一日にとる脂質摂取量というものがあります。もし1日に牛乳を1ℓ飲めば約35グラムの脂質を摂取することになります。例えば体重70kgの男性にとってみればこれで脂質摂取許容量の半分を占めます。牛乳は飲み物だけではなく、料理やお菓子にも使われます。摂り続けることがいいことではないことはわかります。アテローム硬化については既にお伝えしましたが、この「脂質の過剰摂取」が、がんを引き起こす要因のひとつだと考えられています。
牛乳に含まれる脂質が3つのがんを引き起こす
代表的ながんはこの3つです。
①大腸がん
②乳がん
③前立腺がん
脂肪をとり過ぎるとなぜ、大腸がんが発生するのか?
まず、脂肪の大量摂取により腸内細菌が増加し、種類が変化してがんの発生しやすい環境ができます。また、脂肪を摂取すると胆汁の分泌が増加するため、胆汁酸が大量に出されます。胆汁酸が変化(脱水素化)した二次胆汁酸は大腸がんの’プロモーター(育ての親)’であることが確認されています。さらに、二次胆汁酸は代謝されて女性ホルモンができます。女性ホルモンは乳腺細胞の増殖を促進しますから、発がん物質の作用を受けやすくなり、結果的に乳がんの発生とも関連してきます。最近では、これまで善玉と考えられていた不飽和脂肪酸もがんに関連していると考えられています。不飽和脂肪酸が活性酸素と一緒になって遺伝子を傷つける可能性があります。また、リンパ球に作用して、免疫の働きを低下させ、がんの発生しやすい状況ができることも示されています。これらは牛乳の脂質に起因するものです。先に述べた3つのがんは特にこの「脂質」から発生する確率が高いとされています。
牛乳とがん その①:大腸がん
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以前は欧米人に多いとされていた大腸がんですが、近年、日本人の大腸ガンの罹患率(りかんりつ:発生率ともいいます。一定期間に発生する患者数が全人口に占める割合のこと。)は急速に増加し続けており、「がんの統計2005」(財団法人がん研究振興財団)によると、2020年には、男女合わせた日本人のがん罹患者数および罹患率は、胃がん、肺がんを抜いて1位になると予測されています。
参考)年齢階級別がん罹患率推移(1980年、2005年)(財団法人がん研究振興財団)
大腸とは、盲腸から始まり、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸、直腸を経て肛門に至るまでの約2mの消化器官をさします。大腸がんは、この大腸の粘膜に発生するがんのことです。細かく言えば、がんが発生した部位によって結腸がんや直腸がんなどに分類されます。
日本人の場合、大腸がん全体の60~70%が「S状結腸」と「直腸」に発生しています。大腸がんは、男女ともに40歳代後半から罹患率が増加し始め、60~70歳代がピークとなります。その進行はゆっくりで、粘膜の表面から発生し、大腸の壁に次第に深く侵入していき、進行するにつれてリンパ節や肝臓や肺など別の臓器に転移します。大腸がんの発見には、便に血液が混じっているかどうかを検査する便潜血検査があります。症状が出る前に検診などで早期発見が可能です。
牛乳とガン その②:乳がん
photo credit: dreamflower photography via photopin ccアメリカの女性は8人に1人が乳がんになると言われています。欧米では女性の乳がん死亡は肺がんに次いで第2位です。患者数では断突1位のがんがこの乳がんです。俳優のアンジェリーナ・ジョリーは乳がんになる可能性があることから「予防的乳房切除」を行いましたし、歌手のカイリー・ミノーグも乳がん告知を受けています。(現在は克服し音楽活動を続けています。)有名人のカミングアウトは衝撃的なもので、多くの女性に乳がんは身近ながんとの印象を与えました。
photo credit: glennshootspeople via photopin cc日本では20人に1人と言われています。欧米に比べて確率が下がるものの、決して他人事ではありません。国立がんセンターが発表しているがん統計(2001年)によると、日本人女性がかかりやすいがんの第2位が乳がんです。(1位:大腸がん、3位:胃がん 、4位:子宮がん、5位:肺がん)
シェルドン・クリムスキー(Sheldon Krimsky)は、その著「ホルモン・カオス-環境エンドクリン仮説の科学的・社会的起原」(松崎早苗・斉藤陽子訳、藤原書店、2001年9月)においてアメリカ人女性の乳がんに触れています。
「1940年代には、乳がん罹患率は10万人当たり58人であったが、1990年には100人を超えた。一生の間で乳がんにかかるリスクは、第二次世界大戦の終戦時に20人に1人であったものが、1990年代半ばには8人に1人と、倍以上に増加している。乳がん発生数の着実な増加と、納得のいく理由が見つからないことから、各地の乳がん問題活動家と女性の支援団体が結集し、1991年に「全国乳がん連合」が結成された。米国の乳がん研究に対して連邦政府は、1990年には9000万ドル支出していたが、1996年には6億ドル以上となった。」
日本人とアメリカ人ではそもそも食文化や生活習慣が同じではないですし、遺伝的背景も違うし、カラダのつくりも違うので単純比較することもできないのでは?と思うかも知れませんが、十分参考になります。
乳がん発生の少ない日本からハワイやカリフォルニアに移住した日本や中国の移民に対する研究で、がんの発生には人種(遺伝)よりも環境(食生活)の影響を強く受けることが明らかにされているのです。食生活で、日本人とアメリカ人とで最も大きな違いは何かと言われれば、アメリカ人は日本人に比べて圧倒的に多量の肉類(とくに牛肉)と乳・乳製品を食べるということです。
日本人の肉消費量はアメリカ人に比べれば少ないと言えます。その替わりに日本人は魚介類を食べます。魚肉と獣肉の違いはありますが、ともに動物性タンパク質であることは間違いありません。そこで、「魚肉+獣肉」を計算するとアメリカ人は一日に400gの肉を食べ、日本人は313gの肉を食べると言われています。つまり、日本とアメリカで「肉」の消費量には大きな差はありません。
日本人とアメリカ人の食生活における違いは乳・乳製品の消費量です。皿と椀、箸とフォーク・ナイフ、醤油とソースという分類もありますが、欧米料理(洋食)と日本料理(和食)の最大の違いは乳・乳製品を使うか使わないかにあります。
第二次世界大戦後、官民あげて牛乳の消費拡大に努めた過去があります。日本人の大多数はその当時牛乳の匂いを好まなかったと言われています。牛乳消費が上向いたのは、学校給食法(1954年6月施行)の制定による学校給食への「パンと牛乳」が導入されてからでした。(これについてはまたお伝えしたいと思います。あるチカラが働いています。)事実、日本人の乳・乳製品の消費量が急増したのは1960年代に入ってからのことでした。それでも日本の乳・乳製品の消費量はアメリカの1/3以下でしたので、よほどアメリカは乳製品が好きだったんですね。もちろん今もですが。
ここで「アメリカ人女性に乳がんが多いのは(男性の前立腺がんも同じ)、アメリカ人が多量に消費する乳・乳製品にある」とういう仮説が成り立ちます。何もアメリカに限ったことではなく、牛乳消費量の多い西欧の女性には乳がんが多いこともその証左です。
ここで一冊の本をご紹介します。世界15か国で翻訳された、400万部のベストセラーになっています。
「転移4回の進行性乳がんに侵されながら、乳がんの原因を探り続け、 著者はついに真犯人を発見した。 それから15年、彼女の乳がんは一度も再発していない。 乳がん・前立腺がんは克服できる。」
序文を転載します。
このたび、佐藤彰夫教授の翻訳によって『Your life in Your Hands』 (英国初版2000年)の日本語版 『乳がんと牛乳』が出版されることになった。 これで、世界16カ国で出版されることになる。私は、乳製品を完全に断ちきることによって、再発・転移をくりかえす乳がんを克服した。本書はその乳がんとの闘いの物語である。同時に本書は、乳製品を止めることが、私自身だけでなく、他の女性の転移性乳がんを克服するのに、いかに役だったかを 述べている。
この書物が2000年に出版されたときに、正統派の医師や、患者支援団体、 栄養関係者から批判・非難の嵐がまきおこった。非難は、「乳製品は健康に悪い」という見解に反対するという点で一致していた。
このような非難が起こるのは、私たちみんなが、乳製品が自然が生み出した完璧な栄養食品であると思いこまされてきたからである。しかし、その後、医学界の風向きが変わった。 その証拠に、2005年、本書をはじめとする医学関連書籍の出版によって医学に大きく貢献したという理由で、医師でない私が英国王立医学協会の就終身会員に推挙された。
しかしながら、牛乳の本質が一般の方々に理解されるのは、まだまだ時間が かかるだろう。この時期に本書の日本語版が出版されるのは時宜い適うことであり、 非常にうれしい。本書の出版に向けて準備(文献検索)をしているとき、乳製品が、乳がん、卵巣がん、 前立腺がんばかりではなく、他のがんの発生に対しても重要な役割を果たしていることを知って、私は驚愕した。本書に対して幾多の非難がなされたが、誰ひとりとして2000年の初版の内容に一文たりとも変更を迫るような科学的事実を提示することはできなかった。
私は科学者である。間違っている、あるいは誤解しているという、私が納得できる証拠を提示されれば書き改める用意はある。 だが、それどころか、乳製品を消費すべきではないという証拠がますます集まるようになってきている。
たとえば、乳・乳製品(とくにチーズ)が、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の 発症に大きく関わっていることが明らかになっている。 ミルクは、哺乳類が生後の短期間だけ食用とするように設計された食品である。 したがってミルクには、子どもの急速な成長を支えるために、いろいろな成長促進物質が含まれている。牛乳はたしかに、急速に成長する子牛(体重が1日1キログラム増える)にとっては完璧な食品である。だからといって、乳児(1キログラム増えるのに1か月かかる) にもよい食品ということにはならない。
離乳期を過ぎてなおミルクを飲む哺乳動物は人間においてない。成長の止まった成人が、このような成長促進物質を含む牛乳を飲んだらどうなるのか。この問いに答えたのが本書である。
本書の趣旨が日本で認知され、しかるべき評価を受けることを願っている。本書は、一般の人々だけを対象にしたものではない。医師をはじめとする医療関係者に、乳・乳製品の本質を知ってもらうことも本書の目的である。
古来、日本には、牛乳を飲み、乳製品を食べる習慣はなかった。 近年の乳・乳製品の消費増加が乳がんや前立腺がんの増加をまねいているという事実を直視してほしい。本書が政治家にも、乳・乳製品の消費に反対する勇気を与えることを心から望んでいる。
佐藤章夫教授は、私とほぼ同時期に牛乳の人体への影響に注目され、幾多のすばらしい研究を発表されている。本書の翻訳の労をとっていただいたことに厚く感謝する。本書が、日本のすべての 方々に役立つことを心から望むものである。
ジェイン・プラント CBE
インペリアル大学応用地球化学教授
英国王立医学協会・終身会員
牛乳とガン その③:前立腺ガン
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前立腺は男性の膀胱の出口、尿道の始まりの部分を取り囲んでいるクルミ大の臓器で、精液の一部をつくっています。
前立腺がんについて世界42ヵ国で前立腺がんと関係の深い食品は何かという非常に興味深い研究結果が発表されています。
参考図の相関計数の大きい食品は前立腺がんと関係が深いことを示しています。逆にマイナスの数字を示すのは前立腺がんの発生を減らす食品です。また、重相関分析という統計学的手法で、前立腺が発生に寄与していることが判明した唯一の食品が牛乳なのです。
牛乳が前立腺がんの危険因子であるという疫学研究はすでにたくさん報告されています。北イタリアで行われたある研究では、組織学的に確認された96例の前立腺がん患者を患者群とし、急性の非腫瘍性生殖器疾患の292例を対照群として行われました。何とミルク消費量が増えるにしたがって前立腺がんの危険性が有意に上昇するという結果が得られたのです。ミルクを飲まない者あるいは時々しか飲まない者に比べて、1日に2杯以上のミルクを飲む者の相対危険度は5倍でした。
乳製品に含まれる飽和脂肪酸が、前立腺がんにかかわる血中ホルモンの濃度を上げることなどが原因とみられ、世界がん研究基金と米がん研究所も07年に乳製品などに含まれるカルシウムの大量摂取が前立腺がんリスクを「おそらく上げる」と報告しています。
厚生労働省が主管する「がん対策推進基本計画」に、「食生活の欧米化によって欧米型のがん(乳がん・前立腺がん)が増えた」という主旨の表現が再三にわたって登場しています。「食生活の欧米化」とは何かと言えば、乳製品摂取と言えるでしょう。食生活の欧米化とは日本人が乳臭いものを食べるようになったことをいうのです。
厚生労働省はすでに、乳製品と乳がん・前立腺がんの関係を十二分に承知しているといいます。しかし、日本の社会・経済に与える影響があまりにも大きいから口を閉ざしているとも考えられます。現在の日本のように乳・乳製品が広まっている社会をミルクのない社会に戻すなどということは不可能であるし現実的でもないことは明白なのです。
参考)
2008年4月、厚生労働省の研究班(国立がん研究センター)が「牛乳やヨーグルトなどの乳製品を多く摂取すると、前立腺がんになるリスクが上がる」という研究結果を報告しました。研究班は、1995年~98年に全国各地に住む45~74歳の男性約43,000人に食習慣などを尋ね、2004年まで前立腺がんの発生を追跡しました。摂取量に応じて4つのグループに分け、前立腺がんとの関係を調べたところ、牛乳を最も多く飲んでいる人が前立腺がんと診断されるリスクは、最も少ない人に比べて1.53倍だったというのです。牛乳と前立腺がんの関係はすでに知られた事実ですが、主務官庁の研究班が「乳製品と前立腺がん」の関係を公表したことは極めて重要であると考えられます。
以上、3つのがんと牛乳の関係性についてお伝えしました。牛乳がこれらのがんの発生に大きく影響していることはおわかりいただけたかと思います。それにしても牛乳リスクについての研究や発表は欧米に比べて日本では圧倒的に少ないと感じます。
ガンについてもう少しだけお伝えします。
ガンの要因
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1981年のことですが、イギリスのある疫学研究者がアメリカ人のがん死亡の原因について数多くの科学論文をまとめました。その結果、以下のように推計されました。
①食生活の改善により予防できるがん死亡の割合を35%(許容推計範囲:10~70%)
②喫煙が寄与する割合、つまり、禁煙することにより予防可能な割合を30%(25~40%)
③ウイルスや細菌などの感染が10%以上(少なくても1%)
④生殖要因、性行為7%(1~13%)
⑤職業4%(2~8%)
⑥飲酒3%(2~4%)
⑦自然放射線や紫外線などの地球物理環境3%(2~4%)
⑧大気や水質などの汚染2%(1%未満~5%)
⑨医薬品、医療行為1%(0.5~3%)
⑩食品添加物と産業生産物をおのおの1%と続きます。
ここではあえて触れませんが、「喫煙」も大きな要因です。お気づきのとおり、「食生活」が占める割合が極めて高いことがわかります。原発問題とガンについて叫ぶ人も少なくありませんが、食生活の方がよっぽど影響大です。動物性食品、乳製品を摂り続けている人が「原発とガン」について話していたとしても説得力に欠けると考えることができそうです。
その後、1996年にハーバード大学のがん予防センターは「喫煙、食事、運動、飲酒という代表的な生活習慣要因が68%を占める」とやはり同様な発表しています。
大事なことは「自分の努力次第で改善することが可能」なものであるということを知ること、そして必要のない食品は摂らないということ。そこに乳製品、特に牛乳が含まれるということを知っておいて損はないでしょう。
次回に続きます。
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