ミシュラン三つ星を50年以上獲得し続ける伝説のレストラン|ミシェル・トロワグロから学ぶ仕事哲学|「トロワグロ」が三つ星レストランであり続けられた理由とは
今回、IN YOUを代表して、特別なインタビューを行わせていただきました。
「至福のレストラン/三つ星トロワグロ」という映画が最近公開され、その記念として、世界中でもその名を知られるようになったミシェル・トロワグロ氏にお話を伺いました。
©SylvainBris
映画公開後のトロワグロへの期待とプレッシャー、ミシェラン三つ星を維持するための挑戦、
そして日々の仕事にどう向き合っているのか…
彼の貴重な洞察を直接お聞きする機会を持つことができ、嬉しく思います。
ミシェル氏には、ミシュラン三つ星という最大評価を維持するための挑戦について、彼の考え、その秘密に迫り、深掘りしました。
読者の方々にとっては、少しでも日々の活力とヒントになるよう、インタビューを通じて、ミシェル氏がどのように日々の業務に情熱を注いでいるのか、また、彼が直面するさまざまな課題にどのように対処しているのかも質問しています。
本インタビューは、業界だけでなく、すべてのプロフェッショナルなビジネスパーソンにとって、日常生活に役立つヒントをご提供します。
ぜひ、ミシェル・トロワグロ氏からのIN YOU独占インタビューで、貴重なメッセージをご覧ください。
松浦:
『至福のレストラン/三つ星トロワグロ』の映画が公開されて、レストランに対する外部からの期待やプレッシャーに変化はありましたか?
ミッシェル・トロワグロ氏:
はい、この映画のおかげでトロワグロがフランスだけでなく、ますます国際的に知られるようになりました。
映画の公開が特にアメリカで大きな反響を呼び、フランス国内でも去年の12月から新規顧客が増えています。
4月からはその数がさらに増加して、トロワグロの名を知って訪れる方が非常に多くなりました。
映画監督は元々非常に有名な方で、彼の手腕により、アメリカをはじめ、世界中で大きな注目を集めることができました。
映画が公開されたことで、私たちのレストランに対する期待が高まったように思います。
松浦:
私もかつて、よくフランスに伺いました。
いい場所ですよね。
ところで、国内のミシュラン三つ星を獲得しているお店を見ていても同様に「ミシュラン三つ星」は非常にハードルが高いですし、高評価を維持することは相当、大変だと感じます。
ミシュラン三つ星という顕著な評価を維持するための最も大きな挑戦は何でしたか?
ミッシェル・トロワグロ氏:
実は、監督も、私たちが1986年から続く三つ星を獲得している理由と秘密を、とても知りたがっていました。
家族経営でありながら、なぜこんなにも高い品質を保てているのかと。
その理由を深く掘り下げたいと思っていただいて、それこそが、映画を制作する大きなきっかけになりました。
ですが、正直言って、特別な秘密やチャレンジがあったわけではありません。
映画を通じて私たちのレストランが伝えたかったのは、「プレジール」。
つまり「楽しむ」というコンセプトです。
プレジールとは、いわゆる幸せや喜び、感動を意味し、私たちは料理を通じてお客様にこれらの感情を提供することを目指しています。
つまり、お客様が心から楽しむことで、その喜びが周りの人々にも循環して広がっていくのです。
そういったシンプルだけれど、「本質的なこと」を追求してきた結果が、今の私たちの結果だと思っています。
松浦:
過去最大の壁はなんですか?
また、壁にぶつかった際、それをどう乗り越えられましたか。
具体的なエピソードを教えてください。
ミッシェル・トロワグロ氏:
実は、拍子抜けするかもしれないですが、私たちが直面した決定的な困難や壁は、「特にない」といっても過言ではないんです。
例えば、経済的に資金がショートしたり、倒産の危機に瀕したことも、家族や親戚間での大きなトラブル、離婚があったわけでもなく、我々のレストランは常に色々な意味で、バランスよく運営してきたように思います。
それから、ありがたいことに、何か外部から脅かされるような事態にも遭遇していません。
また、我々のレストランはちょうど田舎に位置しているため、大都会のように、多店舗の直接的な影響や強い競争を強いられたり..という外的な影響を受けることも少ないのです。
もちろん、もしかすると、過去を遡れば色々と困難があった可能性もあります。
ただ、私たちが、これまでコツコツ積み重ねてきた叡智と忍耐によって、ひょっとすると人にとっては、「困難」と感じる事態でも、そう捉えることがたまたま少なかっただけとも言えるかもしれません。
それから、私たちは事業に対して無計画に大きな投資や、急な拡大を目指すこともありませんでした。
家族で手を取り合ってコツコツ運営してきたからこそ、団結力が非常に強いのです。
家族内では、母や妻、叔父の妻をはじめとする女性陣も仲がよく、一致団結してくれていて。
もちろん、人間なので喧嘩することもありますが、大抵は話し合いで問題を解決していますよ。
資金に関しては、融資こそ受けていても、無計画には受けることはありませんでしたし、実は、1980年代の初めから日本とのビジネスを通じ、小田急百貨店さんからの収益などによって安定した運営を支えられていたのも、ありがたかったですね。
このような経験が、我々のレストランを長年にわたり安定させ、維持することに繋がったのだと思います。
松浦:
ありがとうございます。
普段の働き方についてのコツについて教えてくださいますか?
ミシュランというと働き方がかなり課題になっていたりとか業界的にも下積みでかなり練習をしないといけないとか、いわゆるタフで、ハードなイメージがあります。
どんなスケジュールで働いていますか?
ミッシェル・トロワグロ氏:
66歳になった今、私も妻も時間的にも精神的に少しずつ余裕が出てきた世代です。
ですので、今は、息子たち、特にセザールが全面的に協力してくれています。
けれど、私自身も30代から40代の頃は、一日が非常に長く感じることもありましたし、背負っている責任の重さに圧倒されがちでした。
高いパフォーマンスを常に追求しなくてはならない仕事のプレッシャーは、本気で働く全ての人々にとって、重荷となりますよね。
けれど、これらのプレッシャーと重みの中でも、日々の業務で何か自分なりの「小さな楽しみ」を見つけて、それを楽しむことにより、次第に、大変に感じる気持ち、恐れ、心配、不安などから解放されてゆくものだと思うのです。
私たちは、常に求められるパフォーマンスを超えることを目指さなくてはいけない環境にいますが、こうしたものには、フィジカルな部分とメンタルな部分の両方が関わってきます。
そんな日々に、「なんだかちょっとした面白おかしいこと」を見つけることが、仕事のプレッシャーを軽減し、モチベーションを保つ上でとても重要です。
また、体力的な面や、物理的にはアスリートと同じですね。
継続的チャレンジとモチベーションを保ち、仕事のリズムを日々繰り返し、長い間保つことが必要という意味では。
たとえば、先日もオリンピックのバスケットボールを見ていたのですが、試合が白熱していて素晴らしかったですよ。
けれど、フランスがホームの場で勝利した時に感じました。
ああ、これはフランスの観客たちの応援が、勝利に導いたのではないか、と。
私たちのレストランも同様で、私たちの努力だけでなく、お客様が私たちを応援してくれていて、その結果が今であると感じるのです。
松浦:
我々はIN YOU MARKETをはじめオーガニックビジネスをしているのですが、トロワグロでの料理において、オーガニック素材をどのように取り入れていますか?
サステナビリティへの取り組みについて事例を教えてください。
料理を作る上で、食材選びにおいて最も重要だと思うポイントは何ですか?
ミッシェル・トロワグロ:
最も重視しているのは、お客様の健康、地球の健康、生産者の健康、そして私たち自身の健康です。
食材選びにおいては、旬のものを選び、トレーサビリティ、栽培方法や飼育方法を厳しくチェックしており、オーガニックな要素を積極的に取り入れることをしています。
ただ、単にストイックに「ストリクトな素材しか買わない!」という姿勢で食材を求めることだけでなく、周囲の人との繋がりや人間性も同じくらい大切だと感じます。
例えば、地元の農家との協力関係を築くことによって、彼らに収益を還元することで彼らの生活を支えられます。
私たちも栽培される農園の従業員や、施設が持続可能なものになるようサポートするようにしています。
息子のセザールも食材の仕入れには、非常に力を入れていますね。
また、私たちは、エシカルな意味合いだけでなく、当然、食材が美しく、美味しいことも重要視しています。
品質が安定していることが、私たち料理人が料理を作る上で大事。
常に生産者へのリスペクトを忘れないようにしていますし、「料理人とはあくまでも彼らが作ってくれた食材と丁寧に向き合い、それを調理して創っていく仕事である」という認識を大事にしています。
ですから、いかなる時も、食材と真摯に向き合うことを意識的にしています。
そうすることで、料理の質を高めているんです。
取材後記
インタビューを通じて、ミシェル・トロワグロ氏が世界を代表するレストランでどのように業務をミシュランに選ばれた三つ星のプロとして全うしてきたのかを限られた時間ではありましたが知ることができました。
そして、貴重な彼の生の声をこうしてお届けできたことを光栄に感じています。
彼の言葉を聞いて、一番衝撃的だったのは、「お客様への向き合い方のシンプルな思考」です。
三つ星ともいえば、一般的には崇高なビジョンはもちろん、卓越した料理の技術についてのイメージの方が先行します。
しかし、彼の哲学である「プレジール」こそが、長年の三つ星を維持し続けられた理由なのだと納得しました。
自分たちが「楽しむ」、そしてお客様を「楽しませる」という概念は、どんな仕事においても通ずる、重要なメソッドだと思います。
ふとかつてフランスやイタリアに行った時、店員の方が、軽やかな足取りで歌いながら仕事をしていて、目が合うとにっこり笑いかけてくれたことを思い出しました。
我々日本人は真面目な方が多いものの、もしかするとそのような「軽やかさ」や「楽しむ力」は、足りていないのかもしれません。
辛い・面白くないと不平不満を言いながら仕事をしていると、不思議とお客様に全てネガティブな思いが、通じてしまうもの。
そうなると、お客様の満足度は自ずと下がることになります。
全ての感情は意図せず良くも悪くも、循環してしまうものだと思うのです。
毎日続く仕事だからこそ、面白おかしく、些細なことにも楽しみながらトライすることで、たとえタフなシチュエーションでも乗り越えて高い成果を出すことができるのだと感じました。
このインタビューがIN YOU読者の皆さんにとって、生活や仕事に新たな視点をもたらし、今がどんな状況でも「楽しむ心」を忘れないことの大切さを思い出してくれるなら幸いです。
ミシェル・トロワグロ氏の言葉を心に留め、自分自身の日常に活かしていただけたらと思います。
上映情報:
https://shifuku-troisgros.com/theater/
公式サイト
https://shifuku-troisgros.com/
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