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ラボで生産される培養肉とはどんなもの?世界的な食糧不足や環境問題解消の切り札になり得るのかを徹底考察!

ラボで生産される培養肉とはどんなもの?世界的な食糧不足や環境問題解消の切り札になり得るのかを徹底考察!

最近よく耳にするようになった、『代替肉』という言葉。 

代替肉と言われてすぐに思い浮かぶのは、
大豆など、植物を原料とした”プラントベース”と言われる食肉代替品の数々ではないでしょうか。

今回ご紹介するのは、代替肉の中でも少し異色のお肉。
植物原料から作るのではなく研究室で”培養”されて作られる培養肉です。

「研究室で作られる肉なんて、ちょっと…」
と、抵抗を感じてしまうかもしれません。

ところがこの培養肉は、
いま全世界で注目を集めているのです。

今回は、現在世界中で研究が進んでいる培養肉について、注目される理由や製造法、今後の可能性やメリット・デメリットまで詳しくお伝えしていきます!

培養肉って何?


※写真はイメージです

「培養肉」とは、動物から採取した細胞を培養して作られる人工肉です。
現在世界中の研究所やスタートアップ企業などで研究、開発が進められています。

某カップラーメンに入っている「謎肉」ではありませんが、一体どういうものなのか正体不明ですよね。

「培養肉」がどうやって製造されるのか、調べてみました。

培養肉は、どんな材料からどうやって作られる?

培養肉は、動物細胞を培養して増やし、栄養素成長因子などを加えて分化させることで得られます。(※)

主に使われるのは骨格筋細胞であり、骨格筋細胞をベースに、脂肪を加えるために脂肪細胞、結合組織を再現するために線維芽細胞軟骨細胞などを混ぜて作られます。

製造方法としては、自己組織化法と足場法という2つの主要な生産システムが用いられています。

◆自己組織化法
高度に構造化された肉を生産するために動物の筋肉組織が必要になる。

◆足場法
筋芽細胞をマイクロキャリアビーズやコラーゲンなどの足場上で増殖させ、筋線維に分化させて筋肉にしている。


細胞から生成していく足場法について、具体的な製造法を説明すると、牛や豚から筋肉の素となる「筋芽細胞」を抽出し、ディッシュ(シャーレ)上で培養します。

細胞を増やすために初めに使う培地には、アミノ酸・糖分・ミネラル牛の胎児の血清9:1の割合で入っています。

細胞がディッシュを満たすくらいまで増えたところで、培地を筋線維を形成させるための培地(〝分化用培地〟とも呼ばれ、馬の血清が同様に8:2の割合で入っています)に交換します。

これを5~7日間培養すれば、「筋管」という繊維状の組織ができます。
これをかき集めると、ひき肉のような塊が完成します。

実際の筋組織のイメージです。筋繊維が寄せ集まってできています。

引用:培養エンジニアの独り言

ディッシュ上で培養された細胞のイメージはこんな具合です。
確かに、既にひき肉のような形状ですね。


引用:培養エンジニアの独り言

これらを大量に集め、塊を形成させていきます。

参考:培養エンジニアの独り言

ちなみに生物の組織を改善または置換するために、細胞を組み合わせたり、工学(特に材料工学)の手法を取り入れたり、生化学的や物理化学的な因子を使うことを「生体組織工学」と呼び、

培養肉生産を含む、本来は動物や植物から収穫される産物を、特定の細胞を培養することにより生産する方法のことを「細胞農業」と呼ぶそうです。

培養肉の味や香りは?

世界初の培養肉は、2013年に培養牛ひき肉として完成し、〝世界初の人造肉ハンバーガー〟としてロンドンでお披露目されました。

下の画像は、実際に試食された人造肉バーガーの写真です。


引用:Reuters

ステージの上で、まず透明な円形容器に入った生のひき肉が紹介され、次いでその肉が調理されました。

この〝ビーフパティ〟は牛の筋肉の幹細胞を培養して作った筋繊維2万本から作られました。

通常のハンバーグと同様にパン粉などが混ぜられ、色づけに赤カブの汁サフランが使われ、ヒマワリ油バターを混ぜたもので焼き上げられました。

このハンバーグを焼いた料理人のリチャード・マギューン氏によると、

「形が崩れることはなく、焼き上がるまでの時間は普通のハンバーグと全く同じだった」

ということです。

見た目はちょっとパサッとした感じがしますね。

グーグルのサーゲイ・ブリン氏が支援する研究プロジェクトにより開かれたこの会では、多くのジャーナリストらが集まり、世界初の人造肉バーガーの味を確かめようとしました。

残念ながら、実際に味見が出来るのは2名のみということで、食品科学者のハンニ・ルツラー氏、料理ジャーナリストのジョシュ・ジョンワルド氏が世界初の人造肉バーガーを口にしました。

先に試食したルツラー氏はこの肉を食べた後、

「本物の牛肉に近いです。ジューシーではありませんが、食感は完璧ですね」

と言いました。

ジューシーさのないことについては、〝外側の口当たりは適切〟だが〝内側はもう少し柔らかいことを期待していた〟とのことです。


次に試食したジョンワルド氏は、
「最も顕著な違いは匂いだ」と述べました。

美味しかったかという質問を受けたジョンワルド氏は、答えに「ニュートラル」という言葉を使い、「パスタについて感じるのと同様だ」と言いました。

また、「動物タンパク質ケーキ」のようだとも表現し、ケチャップやハラペーニョなどと一緒に試してみたいと語りました。

2人に共通する意見としては、ハンバーグに脂肪が含まれていないことが、味や口当たりに影響を与えているという点。

これについては「香辛料や、おそらくケチャップを使うことにより、本物のハンバーグを食べる感覚に更に近づけることが出来るだろう」と述べました。

これらの情報をまとめると、2013年時点における培養肉は、まだ本物の肉の味、食感の域には程遠かったことがうかがえます。

ジョンワルド氏の「ニュートラル」というひと言が示す通り、正直言って”美味しいとも美味しくないとも、何とも言えない味”といったところでしょうか。


それから7年の月日が経ち、培養肉は研究が始まってから20年の経験を積み重ねたことになります。

ニューヨーク・タイムズ紙によると、培養肉の開発競争を描いた『Billion Dollar Burger』の著者チェイス・パーディ氏は、カリフォルニアのジャスト社が作ったカモ肉のチョリソ(ソーセージ)はしっとりとして豊かな風味があったと言っています。

初期の培養肉は赤身ばかりで美味しくなかったが、最近では脂肪の培養法も発達し、本物の肉の味に近づきつつあるとのことです。(※)

なぜ、培養してまで肉を作る必要があるのか


将来的に予想される食糧難が背景

培養肉に世界的な注目が集まっている背景には、将来的に世界規模の食糧難が起こると予想される現実があります。

国際連合食糧農業機関(FAO)は、「世界人口は2050年までに97億人に達すると予測されていて、食糧生産を7割増やす必要がある」と指摘しています。

肉の生産は土地飼料に加え、多くの時間が必要になることからそこまでのペースで増やすことは出来ません。

その代わりとして今、人工培養肉の研究が盛んに行われているといいます。

「将来、需要に供給が追いつかずに食肉の価格が高騰する可能性がある。肉を食べたくても食べられないときのために選択肢をつくりたい」

引用:産経新聞

2019年3月、培養肉の「ステーキ肉」を日清食品と東京大生産技術研究所が共同開発しました。
上記は同研究所の竹内昌治教授の言葉です。

現在世界の人口は約70億人
現状でも、そのうち10億人は飢餓に苦しんでいると言われています。

そして農水省の統計資料によると、人口の増加に伴い、1人当たりのGDPは10年前と比べてアジアでは3倍アフリカでは5倍近くになると予想されています。

経済が発展するにつれこれらの国で欧米化が進み、食習慣が変化すれば、将来食肉消費量が爆発的に増えることが予想されます。

そういった事態の救世主となる可能性を探るべく、培養肉は今世界中の研究機関や企業から注目を浴びているのです。

そもそも培養肉は〝食べ物〟と言えるの?



“迫りくる食糧難”という現実が唱えられるものの、

研究室のシャーレの中で人工的に作られる培養肉は、食べ物と呼んでいいのだろうか?

という疑問は、当然涌きますよね。

最近昆虫食などが話題になっていますが、それは世界的な人口増加や環境破壊の結果として、将来食糧難の時代が訪れるかもしれないという不安が、私たちの意識の中に暗に反映しているからかもしれません。

確かに昆虫を食べる方が、元々地球の自然の中にある”生命“をいただくという意味で、人間にとって抵抗の少ない行動ということになるのでしょう。
シャーレの上で、土や水や光の栄養無しに”培養”された肉に”生命”を感じることには抵抗がありますよね。

そんな肉を食べて、果たしてきちんと健康を保つことが出来るのか、まだ未知数なところも怖いですよね。

ただ、”生命”という点では、人類はもう既に”人工授精”という手段で、試験管の中で生命を発生させることに成功しています。

健康な精子と卵子を結合させることによって発生した受精卵が培養地の中で育ち、健康な人間の赤ちゃんが無事に生まれています。
その子は自然な男女の営みで生まれてきた赤ちゃん達と何ら変わらずに成長し、立派な大人になっていることを今日の私たちは見ることができます。



また、再生医療の発展からも、同じようなことが言えるかもしれません。

現在では生体組織工学の進歩により、人工角膜が作られ実際に移植手術が成功して光を取り戻した人もいます。(※)

このような観点で考えてみれば、シャーレの中で”培養”される肉に”生命”が宿っていないと一概に言い切ることはできないのかもしれません。

培養肉には、実際に私達が食べている牛や豚など動物の幹細胞や筋組織が材料として使われています。
決して人間の血肉となる有機的組織とは関係のない、プラスティックや金属などのような無機物からスタートしているわけではないのです。

それを踏まえて考えると、有機的な培地で純粋に培養され育っていくその肉には、人間の体にフィットしない有害性があるとは言いにくくなるような気もされてきます。
比較して言うならば、遺伝子組み換え作物の方が、ずっと得体が知れず不気味です。

もちろん、人工授精や人工角膜と培養肉とをひとくくりにして議論するわけにはいきません。

ただ、将来予想される世界的な食糧難を切り抜ける手段のひとつとして、その可能性を評価して研究・開発を進めることは人類のために価値のあることだと個人的には思います。



このまま人口が爆発的に増え、環境破壊が改善されずにとうとう本当の食糧難に陥ってしまったら?

現在地球上の気候は大きく変動しています。
温暖化の食い止めが上手くいかなければ、将来作物の収穫も激減するような天候悪化に見舞われる可能性も否定できません。

畑に作物は実らず、植物由来の代替肉の製造も危ぶまれるという事態になった時、もし培養肉というテクノロジーがあったら?
そのおかげで人類が生き延びられるとしたら?

極端すぎる話かもしれませんが、人類の将来のリアルなシナリオとして、考えられる一つの例ではないでしょうか。

培養肉のメリット・デメリット


培養肉のメリット

人工培養肉は、通常の肉よりもはるかに少ない資源で生産することが出来る

培養肉を生産するために必要とされる資源は、従来の食肉生産に比較して、エネルギーは7~45%、土地は99%、水は82~96%も削減できると言われています。

さらに、発生する温室効果ガスも78~96%減らすことが可能です。(※)

放牧地の農産地への転用が可能になる

最新の情報では、有機農業取組面積が最も広いのはオーストラリアで、3570万haと、一国で世界全体の約半分を占めています。

ところが、世界で有機農業が取り組まれている土地の2/3以上に当たる4820万haは、実は牧草地として利用されているという事実があります。

穀物などの一年生作物が育てられている農地は、実は全体の18.6%足らずなのです。

世界各地の広大な有機農業に取り組む土地の多くが、牛や羊など食肉用の家畜の為に使われているということになります。(※)

もし食肉が培養肉によってまかなえるようになれば、この広大な牧草地を農業用に使用することが出来るようになるでしょう。
 

培養槽で肉を製造することは、屠殺を減らし、炭素排出量も大幅に削減できる可能性がある

昨今高まりつつある、動物の権利、動物愛護の精神を広めることに繋がる可能性があります。

そして、例えば放牧牛の頭数が減ることで、地球温暖化の原因の一つとして問題視されている牛のゲップに含まれるメタンガスの削減にも繋がります。

培養肉のデメリット

製造に莫大な費用がかかる



2013年に世界で初めて作られた人工培養肉の製造には、重量140グラムのパティを作るのに25万ユーロ(約3300万円)以上の費用がかかったと発表されています。

それから年月が経ち、ノウハウの蓄積によっておそらくは製造費用の方も以前よりはかからなくなっているのではないかと推測はされますが、何にせよ培養肉の製造コストの9割くらいが培地によるものだとのことです。

この培地は、細胞を増やす為に使われるスープのような形状をした栄養源で、アミノ酸、糖分、ミネラルを含みます。その他に血清も含むのですが、この血清が極めて高額で、相場は500mlで4~5万円だそうです。

ですので、こういったコストのかかる血清に替わる素材の開発が必要になるでしょう。それに成功すれば、培養肉の製造培地を格安で得られるようになり、製造コストが下がることで、培養肉の大量生産が可能になるかもしれません。

技術的な問題



培養肉を製造する手法にも問題はあります。

以下、実際にラボで培養肉を作っている培養エンジニアのKeita Tanakaさんのブログを参考にご紹介させていただきます。

〈ひき肉しか作れない〉

ディッシュ(シャーレ)内で培養する際には、シャーレには細胞が張りついて増えることしかしてくれないので、ひき肉状にしかなってくれません。
スーパーに売っているような、ベーコンやステーキ肉のようにはなってくれないのです。
ベーコンやステーキ肉は、細胞(筋線維)がある一定の方向に向かって配置されるからこそ、あの形を形成することが出来るのです。

そこで、ある程度の形を構築する為には、”足場”という要素が必要になってきます。足場の材料としては、マイクロ径の繊維が使われたりしています。
足場が一定の方向に向いていれば、細胞もそれに習って同じ方向に伸展してくれます。
この状態で増やして、肉の形を整えるわけです。

〈大きな塊を作りにくい〉

ただ単純に細胞を増やすだけでは、大きな塊を作るのは困難です。
ただ増やすだけでは、作れる肉の大きさに限界があります。

これを克服するには、外部刺激を加えてタンパク質の量を増やす必要があります。
筋肉は電気刺激や引っ張ることのような機械運動に対して応答性を示すことは、古くからわかっていました。

わかりやすく言うと、肉を形成する過程において大型のものを作るためには、タンクの中で電気刺激を加えつつ線維の方向へ引っ張りを繰り返す方法が望ましいとされます。

専用のタンク、”バイオリアクター”内で、電気刺激とひっぱりの器械運動を与えながら培養する。
大きな塊肉を形成するためには、こういった機構が必要になってきます。

また、生産量を産業レベルに上げていくためにはこの機構を大規模にしていく必要があります。

専門家の中には5階建てのタンクの中で培養する構想を打ち出している人もいるそうですが、足場のサイズを考えるとあまり現実的ではありません。
(ひき肉を作るのなら話は別ですが…)

とりあえずは、小規模なバイオリアクターを大量に設置・使用することで進むかもしれません。(※)

培養肉の今後の可能性や展開、そして課題



培養肉の将来的な大量生産について、勝算があるような意見もあります。

培養肉の可能性

培養肉の促進を目指す非営利団体「The Good Food Institute」の化学技術責任者であるデヴィッド・ウェルチ氏によると、

「培養肉に期待されることは、炭素排出問題の軽減だけではない。培養肉の技術によって、生産に使われる水が82~98%、土地が90%少なくなる」

と推計されるとのことです。

ウェルチ氏はさらにこうも続けています。

「二酸化炭素を土地利用において大幅に削減できれば、二酸化炭素の隔離にも注力出来るようになります。さらに、絶滅種の復活森林再生にも取り組めるでしょう。クリーンな培養肉は、炭素放出以外の環境分野でも非常に重要な改善をもたらすのです」


〝クリーンな〟培養肉は、地球の未来の環境改善にも役立つというのです。

培養肉の将来的な展開



2013年のお披露目会で紹介された、世界初の人造肉バーガーに使われた培養肉パティを作ったオランダのマーストリヒト大学のマルク・ポスト教授の研究チームは

「生産量の増加と比例して培養肉の価格は低下する見通し」と語り、

「スーパーで販売されるようになるまであと10~20年と見積もっている」と言いました。

また、ニューヨーク・タイムズ紙によれば、イスラエルのフューチャー・ミート社は、2022年までに1ポンド(約454グラム)10ドル(約1070円)にまで引き下げることが出来るとしています。

企業アドバイスを専門とするAquaa Partners社のPaul Cuatrecasass氏はフォーブス誌の中で、「馬から馬車、車へと革命が起こったように、今度は食べ物でそれが起ころうとしている」と述べています。

同誌に寄稿したジャーナリストのスーザン・ロウ氏はCuatrecasass氏の予測が正しければ、2022年までに価格も手ごろになり、2023年までにはレストランやスーパーマーケットの棚に並ぶようになるだろうと述べています。(※)

極めて現実的な未来が、そこまで来ているという気がします。

培養肉の課題



培養肉の開発に力を入れている日清食品ホールディングスは、2019年5月30日から6月2日にかけて国内初の培養肉についての大規模な意識調査を行いました。

インターネットで行われたこの調査では、20~59歳の男女2000人から回答を得ました。

その結果ですが、

培養肉について、「世界の食糧危機を解決する可能性がある」ことについてどう思うかという質問には、

「強く賛成」「どちらかといえば賛成」という答えが計55%だったのに対し、

「試しに食べてみたいと思うか」との質問については、

「まったくそう思う」「ややそう思う」と答えたのは27%
「まったくそう思わない」「あまりそう思わない」という回答は44%でした。

培養肉が食糧危機を救う可能性があることへの期待は強いものの、実際に食用として受け入れるかどうかでは、大部分の消費者の意見は消極的なようです。

日清食品ホールディングスは培養肉の将来的な実用化を目指しており、消費者への理解がまだ浸透していないとして、今後「理解促進と社会需要形成に向け、適切な情報発信をしていく」としています。(※)

また、2015年オランダの調査によると、9%の人が培養肉のアイデアを拒絶し、2/3が「食べるのはためらわれる」としたそうです。(※)

遺伝子組み換え食品を嫌う人もそうですが、食品の出所、価格、味、食感などを気にする消費者が多いということは、各国で共通しているようです。
培養肉の普及に力を入れる企業にとっては、今後味や食感の改良や心理的抵抗感の払拭といったものが課題となるのでしょう。

培養肉というものが普及する準備は徐々に整ってきているように感じられるものの、その未来の可能性は、私たち消費者の反応にかかっているようです。

培養肉の今後。地球・自然・未来のために最適な選択とは?


〝培養肉〟という言葉の第一印象

〝培養肉〟と聞いて、まず頭に浮かぶことといえば、何でしょうか。

ここまで色々と調査し情報を集めてきたものの、正直私は〝培養肉〟という言葉を初めて目にした時、まず第一に、研究室(ラボ)で作られる〝食べ物〟なんて、馴染みもないし、気味が悪い得体が知れない本当に信用して食べていいの?という思いが先に立ちました。

一方で、地球温暖化が着実に進んでいることは私たちも肌で感じています。
今年は11月に入っても冬になったと実感する日はほとんどなく、私の住む九州地方では予想最高気温25度という夏日を迎える日もありました。

夏場などは、線状降水帯なんてそれまでは聞いたこともなかった用語が使われる長時間の集中豪雨が増え、近頃はちょっと雨が降ればすぐに川が溢れ都市が水につかるなんてことが珍しくなくなっています。

この気候変動を何とかすることができない限り、人口が増え続けているという事実からも、将来食料危機は必ずやってくると覚悟しておいた方がよさそうです。
その時、自力で食料を生産できるシステムや技術を人類が持っているということは、むしろ頼もしいことではないだろうかと個人的には思っています。

そして、動物愛護の意識からもこう考えています。

以前、TVで「動物への愛のために、子供の頃のある時点から肉を食べることを辞めた」と話す外国人の少女を見たことがあります。私は肉も魚も野菜も食べているのですが、気持ちの上ではそれにはとても共感できました。

今スーパーなどで購入して食べている肉は美味しいですが、例えばTVで家畜を殺すシーンを見てしまったりして、自分の食べている肉は動物を屠殺して得られたものなのだと考えさせられることがあると、それから暫く肉が食べられなくなったりします。

食肉用の動物たちは、ただ人間に食べられるためだけに飼育されているのですよね。
そのことに思いを馳せる時、食べられるためだけに殺される動物が一頭でも減るならば、新しい技術による生産物に賭けてみようという気持ちにもなります。

ですので、私個人としては培養肉は価格が見合えば積極的に食べてみたいと思っています。
いま大量に市場に出て好評を博しているプラントベースの代替肉とはどのように違うのか、食べ比べもしてみたいです。

培養肉を作ってまで肉を食べる必要があるのか



それでも、オーガニック推進者としては、ふとこんな疑問が湧きます。

『そんなに巨額の費用をかけて、時間と手間暇もかけて、培養肉などというものを開発しなければならないものだろうか?』
『今はかなり肉に近い味と食感のプラントベースの代替肉がその完成度を増してきているのに』


しかし、現在のインポッシブルバーガーやビヨンドミートの飛躍を見る限り、肉を食べたくない人々も、〝肉の味を求めていない〟わけではないという事実が浮かび上がってきます。

代替肉を購入する人々が、「動物を殺してまで肉は食べたくないけれど、でも肉は美味しい、代替肉を食べるならばより本物の肉に近い味のものを食べたい」と思うからこそ、大豆レグヘモグロビン入りの代替肉がヒットし、各企業は商品をできる限り本物の肉の味に近づけようと努力しているのではないでしょうか。

つまり、肉の味の美味しさを知る人間は、本物の肉の味への嗜好というものを依然として持っているということです。

では、多くの動物を飼育し、殺さなくても食べられる〝本物の肉〟があるとすればどうでしょう?

これまで動物愛護の観点から動物の肉を食さないと決めていた人々は、屠殺への罪悪感から解放されます。そうすると、体質的にアレルギーでもない限り、その肉を食べないという理由はなくなってくるのではないでしょうか。

世の中にはベジタリアンやヴィーガンの人々がいるのと同様に、肉を食べたいと欲する人々もいます。
人口比で言えば、おそらくこちらの方が多数派でしょう。

それだけの人口を占める人々がもし培養肉に転向すれば、屠殺される動物の数は劇的に減ります。
そして、地球環境の改善にも大きな影響を及ぼす可能性があります。

その可能性のためには、巨額な費用を投じて時間と手間暇をかけ、培養肉の研究・開発をすることは大きな意味があるのではないかと思います。

培養肉は、果たしてオーガニックと言えるのか



私自身もそうなのですが、オーガニックを実践している人々の意識には、以下のようなものが共通してあるのではないでしょうか?

・食料のためだけに動物を飼育し、屠殺することは残虐だと感じる 
・地球の自然を、本来の生きとし生けるものが輝いている状態に戻したい
・将来も、持続的に人間が地球上で幸せに暮らしていけるようにしたい

・でも、研究室(ラボ)で人工的に作られる食べ物を口にすることには抵抗がある


培養肉がオーガニックと言えるのかどうか、正直私にはわかりません。

動物の細胞を基幹に作られるということでプラントベースの代替肉とは全く異なりますし、フリーランチキンなどのように動物のストレスをなくし、薬剤や成長ホルモンの入っていない飼料で育てるなど、直接に動物を保護するような類のものでもありません。

さらに、今はまだ実際に投入され流通形態として実践されたことがないことから、その結果、地球環境の改善にどれほど貢献したか、総合的にどれほどのメリットが出たかなどという研究データがないのが実状です。

ですが、上記の太字の項目を見ると、上の3つは私たちが培養肉を食べることによって改善することができる可能性のあることだと思えますし、

残りのひとつのネガティブな項目のみクリアできれば、培養肉はオーガニックを実践していく上で私たちの将来をよりポジティブな方向へ変換できうるもののように思えます。

私は薬剤師ですので、ある程度研究室(ラボ)の持つイメージについて馴染みがある、あるいは抵抗が少ないといったところがあると思います。
ですので私の個人的な意見は少し急進的に響いてしまうかもしれません。



ですが、私はこう問いたいです。

いま、人間が食べるためだけに飼育され、殺されている動物の数を減らすために、地球の自然環境をより良いものにするために、そして地球上での持続的な生活を可能にするために、人間がちょっと勇気を出すことは可能でしょうか?

或いは〝苦手意識〟をちょっと拭ってみることは?

とはいえ、実際に口にするものですから、やはり人それぞれ意見は分かれるでしょう。

ですが、いずれにせよこれからの私たちの〝食〟は、かなりの比重で私たちのような大勢の消費者の手に委ねられているのです。

近い将来、スーパーマーケットの棚で培養肉を見つけたら、どんなアクションを取るか、今から考えておくのも早過ぎることはないと思います。


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