日本の有機農業拡大のカギは、消費者が”知る”ことから|欧州&リトアニアの実例から、わたしたちが今すぐ行動するためのヒントを探る
本物のオーガニックが見つかるオーガニックショップ
日本の有機農業拡大のカギは、消費者が”知る”ことから|欧州&リトアニアの実例から、わたしたちが今すぐ行動するためのヒントを探る
すでにIN YOUで話題になっている、農水省が発表の「日本の有機農業の拡大化」のニュース。
農水省の発表によれば「2050年までに有機農業の割合を25%に増やす」とのことでした。
この話を知った筆者は、素直に喜び歓迎する一方で「本当に達成できるのかな?」と不安がよぎったのも事実です。
他方、筆者が暮らす小さな国・リトアニアでは、すでにオーガニック食品が広く浸透しつつあることを、日々の生活で実感しています。
きっと、リトアニアや欧州全体で行われる取り組みの中に、わたしたちが何か学べることがあるのかも?
そう思い立ち、リトアニア・欧州を中心に、普段の生活や世間の動向を観察しました。
今すぐ日本の有機農業を支えるために、誰もが行動できるヒントを探ります。
有機農業転換への第一歩。誰だって最初は「知らない」-だから「知る」からはじめよう!
筆者自身がそうだったように、最初はオーガニックのある暮らしが「当たり前」ではなかった人も多いでしょう。
何かのきっかけで「有機」や「オーガニック」を知り、少しずつ知識と興味の幅が広がっていくものです。
これからお話しすることを「はじめて知る」という人も、心配しなくて大丈夫。
だって、はじめはみんな「知らなかった」のですから。
まずは「知る」ことからはじめ、わたしたちが消費者の視点から日本の有機農業を変えるために何ができるのか?を考えてみませんか。
データから見る、EUとリトアニア・日本の有機農業
European Comissionによれば、EUに加盟する27か国の”農地全体における有機農業地面積割合”の平均は7.9%です(2019年)。以下のグラフには、EUではないイギリスやノルウェーも含まれますが、最も割合が多いのはオーストリアで25.3%、最下位は北マケドニアの0.2%。
これに対して、北海道の2/3ほどの面積を持つリトアニア(LT)は、EU平均をわずかに上回る8.1%。
オーストリアには遠く及びませんが、国土の半分近くが農地であり、年々の有機農地拡大が右肩上がりという現状を踏まえれば、ずいぶん健闘している様子。
とはいえパーセンテージでいえば、意外にもオーガニック大国と呼ばれるドイツやフランスよりも高いんです(ともに7.7%)。
そして日本の有機農業割合(2017年、JAS取得のみ)は0.2%…!なかなか衝撃の数値です。
有機農業への転換に必要なのは「庶民の声」!
欧州の小さな国に暮らす筆者は、常々「当事者として”知り・考え・声を上げる”大切さ」を肌で感じています。
食も環境も政治も、すべて土俵に並べて考え、国の一員として声を上げること。
日本で「オーガニック」というと、どこかキラキラしたイメージがあるかもしれませんが、実際はわたしたちの暮らしに深くかかわる要素であり、本来なら進んで選択すべきです。
しかしどうしても「食は食の問題」と切り離して考えてしまうことが多い気がしますし、声を上げることに躊躇する人も少なくないでしょう。
欧州では「庶民」が声を上げることで、リーダーたちを動かしています。
それは、ひとりひとりが当事者意識を持ち、変えようとする意志があるからです。
もっと「若者・市民の声」を聞いて!食と環境問題・政治は繋がっている
スウェーデンの高校生・グレタ・トゥーンベリさんがたった一人で立ち上がり、あっという間に世界じゅうで気候変動が叫ばれるようになったのは有名な話です。食から環境問題に興味を持ちはじめた参加者も多く、若い世代が一丸となった運動は、EUをはじめ各地で「有機農業の推進」の大きな後押しとなりました。
また2020年末には、イギリスの都市グラスゴーで、食と気候変動の危機を宣言するGlasgow Food and Climate Declarationが発足。
これは今年11月に延期となった、グラスゴーでのCOP26(国連気候変動枠組み条約締約国会議)開催に先立ち、中小企業や市民団体が立ち上げたキャンペーンです。
食のシステムを根本から見直すことで環境問題を考えるこの活動は、スピード感を持って世界各地に広がりつつあります。
食べものは、地球の土や水・空気の力を借りて出来ている。
だから、人間が生きるためのエネルギーをつくり出す地球に、これ以上ダメージを与えないために、人々は動き始めています。
グローバルな視点で見ると環境への意識・対策が大きく遅れている日本は、もっと地球の現状に向き合い、身近なところから転換する必要があります。
その大きな1歩として「食べ物をオーガニックに変える」というアクションは、実践する人が増えれば増えるほど、大きなポジティブインパクトが生まれるもの。
年齢や住む国・地域に関係なく、地球の住民であるわたしたち全員が、食と環境問題をもっと考えなくてはなりません。
わたしたちの生活の仕組みを整える企業や政治・リーダーたちを動かすには、まず庶民の声が必要です。
みんなの声が動かした!EUのスピーディーな有機農業戦略
近年の深刻な気候変動に加え、パンデミック発生で「このままではまずい」と危機感を強めた欧州連合。2020年5月、Fram to Fork Strategy(”農家から食卓”または生物多様性戦略)と題した戦略を発表しました。
この戦略で「2030年までに有機農業を25パーセントまで増やす」との方向性を示しています。
さらに、2021年1月より施行された、欧州の有機農業に関する新たな規則では「システムの簡素化」「基準の厳格化」「小規模農家の認証取得のハードルを下げる」といった項目を追加。
今まで小規模農家にとってハードルが高かった有機認証を、規模に関わらず、基準を守れる農家なら誰でも取得しやすく見直しました。
このスピーディーな取り組みは、もちろん市民や企業が声をあげたのが大きな一因です。
特に「小規模農家の認証取得ハードルを下げる」といった内容は、当事者が声を上げ、現状を訴えた証拠でもあります。
この「当事者として声を上げる」という行動は、日本の消費者も見習うべきでしょう。
署名キャンペーン・政府へのパブリックコメントなど、身近なところから声を届ける方法はたくさんありますよ。
農薬散布の原因は「消費者のニーズ」から!有機農業への転換は消費者の意識改革が必要
日本の野菜の形が「きれい」なのは、世界的に見ても間違いありません。
これは、日本の多くの消費者に「形のよい野菜や果物=おいしそう」というイメージが刷り込まれているからにほかならないのです。
いくら口先で「形が悪くても気にしない」とはいっても、実際の店頭でさまざまな形の野菜が並べば、形の整った野菜をまっさきに手にとるのが、日本の消費者の心理ではないでしょうか。
多くの農家さんが、農薬を使わざるを得ない状況に追い込まれているのは、実はまぎれもなくわたしたち消費者のせいでもあるのです。
他方、リトアニアの生鮮食品売り場に行くと、オーガニックだろうが何だろうが、形の悪い野菜はもちろん、キズが付いているものなんて、もはや当たり前。
中には、これ腐っています?というものまで並んでいることもあり、消費者は注意して購入しなければなりません。
でも、それでいいと思うんです。なぜなら、形と味は比例しないということを、実戦で理解できるから。
積極的に形の悪いものを選ぼう!とは言いませんが、身体の安全や環境を考えれば、きっと「オーガニックであれば、形は関係ない」と思えるはずですよ。
繰り返しになるようですが、まずは消費者であるわたしたち自身が現状を知ることで意識を変え、声を届けることが大切です。
消費者が形を気にしなくなれば、農家さんが農薬を使う大きな理由が減るからです。
92年から有機農業面積が4倍に!ちいさな国・リトアニアからも、学べることがきっとある
2018年夏、筆者はリトアニアのとあるオーガニックファームで、有機栽培を経験しました。
ここで強く思ったのは「消費者の方が買ってくれないと、生産者は野菜を作る意味がない」ということ。
EU内で先端を行っているわけではないリトアニアですが、それでも独立後の1992年から2018年にかけて、有機農業面積が4倍以上に増加しています(※)。
市場や食料品店・大手スーパーもオーガニック商品を扱っているため、普段の暮らしの中で気軽に手に取りやすいと感じます。
こうした現状の背景には、時代と共にすこしずつ変化した消費者の意識、そのニーズにこたえる生産者や企業の努力がありました。
ほんの小さな国の取り組みから、日本人のわたしたちが学べることが、きっとありますよ。
リトアニアの有機農業は独立直後から始まった
リトアニア農業大学が行なった研究(※)によれば、リトアニアではソ連独立直後の1990年から本格的な有機農業への転換が始まったといいます。1993年に9つの農家が初めて有機認証を受け、以来順調に増加の一途をだとっています。
背景には、おそらく長い経済不安定期からの脱却の意味もあったでしょう。
しかし2006年の別調査では、国内の有機食品売り上げ増加の理由に「環境問題への懸念による消費者需要の高まり」が第一に挙がっています。
生産者・企業の戦略を変えたのは、やはり紛れもなく消費者の声だったのです。
ハイテク技術で有機農業!大企業の導入例
現在多くの生産者・企業が有機農業を行なっていますが、画期的な例のひとつに、リトアニアの大規模有機農業を進める企業Augaが挙げられます。特筆すべき点は、作物の栽培から加工・梱包まで、ほとんどすべての工程を最新技術で行っている点です。
2016年から有機生産を本格的に開始し、すでに5年が経とうとしていますが、少なくとも国内で勢いが衰えないところを見ると、大規模でも最新技術を利用した有機作物づくりは可能といえそうです。
ただし、土壌と季節に合った野菜だけを生産するため、品目は限られます。
きのこをはじめ、特に冬はビーツ・じゃがいも・玉ねぎ・人参くらい。
ほかにも穀物(オーツ・ライ麦)や乳製品、一部でスープのような加工品生産を行なっていますが、規模が大きくても土地にあった品目だけにフォーカスする点が、成功の秘訣のようです。
機械を取り入れた適切な管理・手入れを行なうことで、安定した有機栽培を実現している点は、企業努力として評価すべきでしょう。
消費者の選択を助ける有機認証マークと、食品店の工夫
リトアニア独自のエコマーク
(左:リトアニア独自の有機認証マーク)
EUが定める「エコリーフ」は有名ですが、それとは別に、リトアニア国内にも独自の有機認証が存在します。
1997年に発足したリトアニアの認定機関ekoagrosによって管理され、消費者に「有機」と称して販売するには、当認証を申請する必要があります。
審査は厳しく、アメリカをはじめ、EU圏外の国への輸出にも通用する高基準。
認証は1年更新のため、消費者は厳しい基準をクリアした生産者による、安全な商品を厳選できるのです。
リトアニアの消費者の「リトアニア国内で認証取得した商品」への信頼は高いようです。
有機認証以外に大事な情報「国産」「エシカル」を伝える工夫も
(近所のスーパー店内。国旗マークが分かりやすい)
ここでスーパー・食料品販売店の取り組みを見てみましょう。
基本的にどの食品店も、値札には必ず「原産国」が表記されています。
分かりやすいところだと国旗で表示しているため「国産かどうか」をチェックするのに便利。
有機の場合は「Ekologiška」のように表示をするスーパーもあり、ひと目で判別できます。
消費者が「国産」「オーガニック」な商品を選びやすいように、販売側の工夫が感じられますね。
ところで、有機認証とは関係ありませんが、一部の商品には以下のような緑色のマークが見られます。
(Keyholeマークのロゴ)
これは、デンマーク発祥のKeyholeというエシカル認証マークです。
リトアニアのほか、スウェーデン・ノルウェー・北マケドニアで生産・流通している商品が対象です。
農家あるいは生産者さんと公平な契約をし、エシカルに生産されている証。
すべてがオーガニック商品とは限りませんが、リトアニアのスーパーに行けば、かなりの確率で見つけることができますよ。
消費者の関心が、出来上がった商品の質にとどまらず、労働環境や生産過程の透明性にまで向いていることが伺える一例です。
生産者と消費者の対話は大切!有機食品店やファーマーズマーケットは絶好の機会
町中に点在する有機食品店に行けば、厳選された商品について、店員さんが詳しく教えてくれます。買い物時の気軽な立ち話も、生産者・販売者・消費者それぞれの認識を理解できる絶好の機会です。
また夏になると、ローカルのファーマーズマーケットが各地で開催されます。
大きな町なら年中開いている屋内市場があり、国内から生産者が集まって販売しています。
特にファーマーズマーケットは有機栽培ファームを見つけやすく、生産者と直接話せるため、消費者の声を届けることができますよ。
ほかに、筆者が以前滞在したファームのように、消費者の元まで直接配達する生産者さんもいますし、
最近はシェアファームをはじめる農家さんなど、オーガニック栽培の認知・需要を広げ、生産者と消費者が交流できる機会が増えています。
消費者として、農業従事者・販売者との対話は大切な「知る・声を届ける機会」です。
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有機農業への転換は、消費者の「知る・声を上げる」がカギ!
欧州の取り組みを中心に紹介しましたが、中には日本ですでに取り入れている例もあるでしょうし、比べて「どちらが優れている」ということではありません。
その上で、わたしたちが欧州から見習うべき点を、あえてひとつ挙げるとすれば「人々が問題を身近に捉え、考えて知識を深め、声を上げる」こと。
有機農業拡大を急ぎたい状況で、一見とても気の遠くなるような過程に思われますが、システム自体を根本から変えるために、実は最も確実な近道なのです。
オンラインが普及しているご時世、仲間や団体を見つけて気軽に学び、行動できるのがいいところ。
わたしたち一人一人の行動の積み重ねが、日本の有機農業を増やすための大きなカギになるはずです。
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【参考】
Ekologiško maisto ženklinimas | Valstybinė maisto ir veterinarijos tarnyba
An organic food factory, LRT, which has no analogues in Europe, has been opened
日本の有機農業がいま一つ広がらない構造要因 | 国内経済 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準
Statistics | Eurostat
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