農水省が有機農業の拡大をついに推進!近代農業を経て、現在は有機農業に取り組む私の目から見た今後の課題とは?
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農水省が有機農業の拡大をついに推進!近代農業を経て、現在は有機農業に取り組む私の目から見た今後の課題とは?
最近スマホでニュースを読んでいると、ついに政府が有機農業を推進するという記事が目に入り、
「ほほう!ようやく重い腰をあげたか・・・!」
と、嬉しくなりページを開いてみました。
★有機農業 2050年までに農地の25%に拡大 新戦略案 農林水産省(NHK NEWS WEB)
国内の、有機農業の栽培面積を2050年までに全面積の25%(約100万ha)にするというのが目標数値のようです。
2017年の時点で2万ha程度なので、約30年で50倍にするという、なかなかの大転換です。
実に喜ばしいことなのですが、記事を最後まで読むと、どうも有機農産物の海外輸出が狙いという匂いを醸し出しているのが気になるところです。
また、EUなど海外の動向に合わせて・・・という(ある意味日本らしい)受動的なところにもひっかかります。
今回は、近代農業を体験し、そして現在は有機農業を実践している私の目から見た、有機農業拡大の課題についてお話したいと思います。
経験者は語る!近代農業から有機農業に転換することは至難の業
「有機農業の面積を増やす」ということは、「現在行われている近代農業を転換する」ということになるのですが、実際のところ、かなり困難であると思います。
特に、人を雇って大規模な圃場を管理している企業型は、手間がかかる上に不確定要素の増える有機農業へ転換するのは、ハードルが高めとなります。
ここからは、転換に際して想定される課題について、クローズアップしていきましょう。
有機農業に転換する最大のネックは人件費!
農薬、化学肥料、除草剤などを使う近代農業から、有機農業へシフトする際に、最もネックとなるのは”人件費”です。
堆肥や有機肥料と比べ、栄養成分の凝縮された化学肥料は「カサ」が少ないので、散布作業を効率的に進めることができます。
顆粒やペレットなので、機械を使った均一な散布も得意としています。
また、グリホサートなどの除草剤を使うことにより、時間のかかる畑の中の草取りや、圃場周辺の除草作業も省略しています。
大産地や企業は、こういった「文明の利器」をフルに使うことにより、広大な農地を管理して農作物を大量生産しているのです。
ところが、有機農業に切り替えた時にこれらの利器が封印されてしまうと、途端に経営が詰んでしまいます。
害虫を取り除くのも、草刈りも、肥料散布も人海戦術となるので、人件費が経営費用を圧迫してくるのです。
とにかく、企業としては人件費が一番のコストとなるので近代化で抑えてきたのですが、それが不可能となってしまいます。
政府は、対策として、有機農業に転換した経営者に対し助成金を出すなどの方針を打ち出すかもしれませんが、財政が悪化する中で収益性の低い農業に予算を割くのは自滅行為でしょう。
近代農業なら冬季の栽培は可能だが、有機農業は冬の農閑期が課題
野菜を生産する法人は、極力圃場の回転率を上げて、冬でも野菜を生産して売り上げを向上させます。
化学肥料は、無機成分の状態なので、土に撒けばそのまま野菜の栄養として吸収されます。
だから、冬でもある程度成長してくれるのですね。
しかし、有機肥料は散布したら、一度微生物によって分解されてから、野菜の栄養となる無機成分がジワジワ出てきます。
つまり、有機物を分解する微生物が活動しなくなる冬は、有機肥料が使えないのですね。
小規模農家であれば、冬の間は副業をしたり、休むこともできますが、常に仕事を作り続けないければならない企業としては、この点が頭痛の種となります。
量と単価のジレンマ
有機農産物を販売するとなると、高級品という扱いになることが想定されます。
企業としては、農産物の単価が上がることは喜ばしいことなのですが、一方そういった「嗜好品」は販売量が少なくなるので、単価は高くても量が捌けないという事態になりがちです。
では、単価が既存の慣行栽培で育てた野菜と同等で良いから、量を捌いて売り上げを伸ばそうとすると・・・有機農業に転換して増えた、人件費などのコストを回収できなくなります。
では、中国などの大市場に安心・安全な「メイドインジャパン」として輸出して売り込もうという流れになるかもしれませんが、そうなると自給という農の本質から外れてしまいます。
一部の生産者が有機農産物の輸出で儲けつつ、大半の日本国民は安い輸入品の農産物を食べて過ごす・・・ということになっては本末転倒です。
それで有機農業の面積が増えたとしても、意味がないでしょう。
有機農業はマニュアル化しにくい
自然を相手にする農業の性質上、近代農業といえども地域差があります。
しかし、作目ごとの化学肥料の散布量や、農薬の使用方法など、栽培方法はかなりの部分がマニュアル化が可能です。
他の産地を視察して、そのまま栽培方法の大部分を転用できます。
しかし、有機農業ではそうはいかないでしょう。
地域で手に入りやすい有機質肥料の種類は異なるでしょうし、気候や土質が違えば有機質肥料の分解速度も異なるでしょう。
農薬が使えないので、地域ごとにあらわれやすい害虫を把握して品目や品種を選択する必要があります。
有機農業は、経験の実績から「帰納的」に農法を構築していく必要があるので、近代農業のように急速に拡大させるのが難しいのです。
実際に有機農業の農地を増やしていくには?!家庭菜園と副業が鍵!
では、堅実に有機農業の面積を増やしていくにはどうしたら良いのでしょうか?
日本の気候や、立地条件、社会条件を考慮すると、私は家庭菜園と副業農業が鍵になるのではないかと考えています。
家庭菜園・副業農業のメリット1:始めやすく続けやすい
日本人の多くは、スーパーで買う野菜に農薬がかかっていることを知っていてもあまり気にしませんが、自分で野菜を育てるとなると、農薬の使用を避けるという人がほとんどでしょう。
“目に見える”ということが重要なのですね。
家庭菜園や小規模な副業農業であれば、すぐ有機農業に取り組むことができます。
最初はどうしても品目が土地に合わず失敗したり、育て方を間違って収穫まで漕ぎつけることができないこともあるでしょう。
しかし、人を雇っているわけでもなく、失敗したとして餓死するわけではありません。
すきま時間を利用して経験を積み、データを取りながら腕を磨いていくことが可能です。
有機農業は小規模で行う限りほとんどお金がかからず合理的です。
堆肥を作ったり、雑草をマルチに利用したり、あるいは自家採種を行えば、「無から有を生み出す」と言っても過言ではない状態に持っていくことが可能です。
無理のない栽培を、末長く続けることができます。
新型コロナウイルスの影響も相待って、日本でもようやく副業が解禁されてくる流れが強まっている今、副業として有機農業をはじめるチャンスとも言えます。
副業までいかなくても、家庭菜園で十分家計を助けることになりますし、なにより安心・安全な野菜を日常的に食べることができるようになるので、健康維持にも貢献します。農作業で運動不足解消にもなりますしね!
家庭菜園・副業農業のメリット2:ちりも積もれば…
政府は、どうしてもいきなり大きなことをしようとしがちで、計画倒れに終わったり、極端な「前にならえ」でコケてしまうことが多いです。
しかし「千里の道も一歩から」というように、小さな畑から有機農業に転換していく方が無難と思われます。
近代農業では扱いにくい小さな三角農地や、市街地に点在する空き地こそ有機農業向きです。
都市のベランダやビルの屋上も立派な農地となります。
まずは、できるところから少しずつ、オセロの石をひっくり返すように、有機農業色に変えていくことが大切だと思います。
アメリカやフランスといった農作物の輸出国は、基本的に自国の食糧を確保した上で、余剰を輸出しているのです。
嗜好品のような農作物を作る農業を「成長産業」に位置づけて推奨し、普段使いの農作物をおろそかにするリーダーは、まぁ普通じゃあないですね。
これは、命よりもお金を優先していることをあらわします。
将棋で言うところの「ヘボ将棋、王より飛車をかわいがり」といったところでしょう。
家庭菜園・副業農業のメリット3:食料危機にも強くなる
有機農業の「面積」を増やすことはもちろん大切なのですが、小粒の有機農業の畑を全国に増やして、農に携わる「人」を増やすことが重要だと思います。農育(農業教育)という意味合いもありますが、単純に食糧危機への備えとしても、極力多くの人が農作物を育てる技術を持っていた方が良いと思うのです。
海外に目を向けると、家庭菜園が飢餓を救った例もあります。
1991年にソビエトが崩壊した際、庶民を飢餓から救ったのは、ロシア伝統の小屋付き家庭菜園”ダーチャ”でした。
もともと、冬が長いロシアでは、各家庭でジャガイモなどを栽培して不足がちな食糧を補っていたのですが、ソ連時代は国営の大規模農業「コルホーズ」や「ソフホーズ」が強化されるにあたって、ダーチャは制限されていったようです。
それでも、市民の手で細々と続けられてきたダーチャは、後に飢えから救ってくれるシステムとして活躍しました。
ひとつひとつの畑は小さなものでも、皆がやれば「ちりも積もれば山となる」で、広大な農地となります。
島国で、常に食糧の輸送ルートがアキレス腱となる日本こそ、このダーチャのような家庭菜園を各家庭が持っておくと良いのではないかと思います。
本気で有機農業を推進したいなら、日本人の食生活の転換こそ必要!
有機農業は、農薬を使うことができないので、旬を無視した野菜の栽培が困難となります。また、キャベツやハクサイといった、高温多湿な日本の気候を苦手とする、導入されて歴史の浅い野菜も有機農業向きではありません。
有機農業を拡大するのであれば、食生活の改善も同時に進行しなければならないと考えられます。
食生活の転換1:旬を守る
スーパーの野菜コーナーに行くと、冬でもトマトやキュウリが並んでいますし、夏でもダイコンやホウレンソウが売っています。
旬を無視して野菜を育てようとすると、害虫や病気に確実にやられるので、農薬が必須となります。
冬に夏の野菜を育てる場合、ビニールハウスと暖房が必要となり、一日中重油を焚き続けることになります。
しかし、本当に旬を外した野菜が必要でしょうか?
冬に身体を冷やすトマトやキュウリを食べる意味はありませんし、値段も高くメリットが薄いですよね。
消費者のワガママが、旬を無視した歪んだ農業を産んでいる面があります。
誰も買わなければ、スーパーも季節外れの野菜を置かないですからね。
今回の有機農業拡大プログラムは「脱炭素」とも連動しています。
CO2削減を目指すのであれば、冬の加温栽培を減らすことも視野に入れねばならないので、消費者が草の根から「季節外れの野菜はなくてもいいよ」という流れに持っていく必要があります。
食生活の転換2:保存食を活用する
有機農業を推進し、旬を厳守するとなると、野菜のバリエーションはどうしても現在よりも限られてくることが想定されます。
スーパーに野菜が並ぶ時期も変わってくるでしょう。
春や夏野菜が棚に並び始めるのが遅くなり、冬は早く野菜が少なくなるでしょう。
では、農薬もビニールハウスも冷蔵庫も無い時代、我々の祖先はどうやって野菜の少ない冬や端境期を暮らしてきたのでしょうか。
漬物、干し野菜といった保存食を利用していたのですね。
保存食であれば、農薬やビニールハウスを使うことなく夏にダイコンを食べることや、冬にナスを食べることができます。
旬を守ると、どうしても一時期に出荷が集中することになるので、保存食にしておくことが必要になるかと思われます。
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食生活の転換3:和食をベースに
日本に来て歴史の浅い野菜、特に冷涼な国からやってきた野菜は、日本の高温多湿な気候を苦手としていることが多く、農薬前提の栽培となりがちです。
キャベツ、チンゲンサイ、ブロッコリー、トウモロコシ、トマトといった野菜はまだ日本に土着しておらず、病原体や害虫の餌食になりやすいのです。
(ただ、オクラやモロヘイヤもまだ日本に来て歴史が浅い野菜なのですが、出身地が高温多湿であるため、日本でも農薬無しでよく育ちます)
有機農業を推進するとなると、昔から日本にある野菜を育てる方が向いています。
そうなると、自然と和食向きの野菜が選ばれるわけですね。
日本の気候に適した野菜は、サトイモ、ダイコンといった根菜類が基本となります。
可食部が地下にあるので、害虫や台風に強いためです。
ごはん、味噌汁、漬物といった一汁一菜のシンプルな和食を日常に取り入れれば、自然と有機農業で育てやすい日本古来の野菜を食材として使うことになります。
普段の食事を和食にすることが、有機農業の推進につながるのです。
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有機農業は、ボトムアップ方式で地道に広げていくのが結局は近道!
日本の農政の歴史を振り返ると、突然かつ一斉に新しいことをはじめて、一斉にコケるという流れを繰り返しています。
明治期、ヨーロッパの大規模農業を取り入れたものの日本の実情に合わず頓挫し、戦後も杉を一斉に植えたものの、育ったころには輸出木材に負けて使われず、花粉発生源になり、米やミカンなども同じような運命をたどっています。
とにかく、第一次産業は、同じことを全国で一斉にすると成功する確率が非常に低いので、トップダウン式は向いていません。
特に、地域ごとの気候や生態系の影響を強く受ける有機農業は、安易に広げると破綻する恐れがあります。
無理矢理、大規模産地や企業に推奨して有機農業を導入させたものの、実情に合わず破綻して耕作放棄地だらけになっては困りますからね。
時間はかかりますが、足元の小さな農家や、家庭菜園、副業農業からボトムアップ方式で地道に有機農業を広げていくのが、遠回りのようで近道だと私は考えています。
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