漢方の考え方は病気の「仮想解釈モデル」?|目に見えない「気」を漢方から紐解く。
「気」とはいったい何でしょうか
漢方の考え方では、「気」が体内を巡っている
とされます。
「でも実際は気なんてないんだろうな、、、」
ちらほらと皆さんの心の声が聞こえてきます。
科学が発展した今、「気」の正体を本気で信じるのはなかなか難しいのではないでしょうか。
非科学的な存在である「気」。
しかし、その考え方は科学を面白くするものでもあったのです。
医学生の私も納得してしまった考え方を伝授します。
日頃何気なく使っている言葉 「気」
「ちょっと気が強い子らしい」
「気を失っちゃったのよ」
「気が楽になった!」
「気」という言葉は意識せずともよく使っています。
しかし、よく考えてみると「気」とはいったい何なのか。
これは難しい質問です。
ことわざや慣用句にも多く用いられ、辞書にも多くの意味が掲載されています。
辞書『大辞林』には大きく分けて13の意味が掲載されています。
き【気】
①生まれつき持っている心の傾向。性質。性格。
②物事に積極的に立ち向かう心の動き。意欲。
③物事引きつけられる心の動き。関心。
(中略)
⑩その場に広がっている感じ。雰囲気。
⑪これから何かをしようとする気持ち。つもり。
⑫漢方で、血(けつ)とともに体内の経絡(けいらく)を循行する生命力の根源とされるもの。無形であるが、有形である血と一体となって生理機能全般をつかさどるとされる。
⑬宋学で、「理」が万有を支配する原理であるのに対して、万有を形成する元素を「気」という。
『大辞林』より引用、一部改変
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一番古い意味は?
このように多くの意味がある中で、もっとも古くに使われていたのは、⑬の用法です。
古代中国での「気」について考えてみましょう。
時は古代中国。中国がまだ宋と呼ばれていた時代です。
哲学者たちは疑問に思いました。
「人間になぜ生死があるのか」
「生物は季節ごとになぜ変化するのか」
様々なことを考え、行き着いた答えは「気」でした。
「気」は水蒸気や人間の息のような空気中に浮く細かい粒状の形態をとります。
その粒がギュッと集まると物体が命を宿し、
物体から離れてバラバラになれば、死が訪れると考えました。
中国哲学では「気」は目に見えない命の素のように捉えられていました。
そしてその考え方は古代中国の医学にも応用されます。
漢方における「気」とは
そもそも、漢方とは
日本には5-6世紀に中国古典医学が伝わります。その古典医学をもとにして日本人の体質に合うように
約1000年の間変化しながら用いられてきました。
江戸時代に入ると、オランダから西洋医学がもたらされます。
新しい医学蘭方と区別するために、それまでの日本の伝統医学を漢方と名付けました。
日本人に合うように発展してきた漢方は、独自の伝統医学です。
生体を維持する三要素
漢方では患者を治療する際に、主に「気(き)」「血(けつ)」「水(すい)」の三要素を使います。
気
生命活動を営む根源的エネルギー血
生体を物質的に支える赤色の液体水
生体を物質的に支える無色の液体気は体内に張り巡らされたネットワークである経絡(けいらく)を通って体中をめぐり、
生命の根源となっていると考えられています。
気は目に見えないエネルギーであり、そのエネルギー自体は目に見ることができません。
しかし、その働きで体が元気に動いています。
そのため、気は見えずともそこにあると考えられました。
さあ、それでは「気」は何かで測れますか?
エネルギーと言うからには、なにか測定方法がなければ存在を証明できません。
しかし、もちろんそんな測定方法はありません。
存在を証明できないからといって、全く無意味な過去の産物なのでしょうか。
一概にそのように切り捨てることはできません。
漢方における「気」とは医学的には精神神経系の働きに近いとされているのです。
仮想解釈モデルである
病は気からと昔から言いますが、それについての科学的な研究はかなり進んでいます。
精神神経系の働きが体調に影響を及ぼす方法は数多くあり、どれも難解で複雑です。
仮に、「気」という見えないエネルギーが体の中を流れていたとしましょう。
あら不思議。
難しい難しい精神神経系のメカニズムを簡単に捉えることができました!
科学が進んだ今、わかりにくい体の仕組みを簡単に表す漢方の考え方は
現在の医療でもとても役立つ考え方の一つです。
「気」は体の精神神経系の複雑なはたらきを簡単に表すことができます。
つまり、「気」は仮想解釈モデルといえるでしょう。
気の異常とその対策
気の流れがおかしい!
気が正常に働いていない時には、体調が悪くなるとされています。体内にはいった気は体の上から下に流れ、体の外に流れていきます。
体の異常を気の流れの異常に結びつけて考えます。
気逆(きぎゃく)
顔にほてりやのぼせがあり、下半身が冷える状態。時に頭痛や動悸を伴います。これは、気の本来の流れに逆らい、体の上の方に気が溜まったと考えます。
気鬱(きうつ)
気分が落ち込んだり、不安になったり、喉のつかえがある状態。これを気の流れが滞った状態であると考えます。
気虚(ききょ)
疲れやすい、体がだるいなどの状態。これは気が不足していると考えます。
これらの異常は科学的にはどの部位の異常かを言い当てることは難しく、
西洋薬では対処できないことが多くあります。
ここで漢方薬は大きな力を発揮します。
漢方薬は体全体に作用し、体が自ら治る力を利用する薬です。
体の異常やその人の体質を見極めた上で、その人に一番あった漢方薬を用います。
それぞれの症状への漢方薬
気の異常に対してよく用いられる薬は次のような薬です。
気逆には、桂枝湯(けいしとう)がよく用いられます。
桂枝湯は風邪の軽い初期症状を抑える働きがあります。
その他には、黄連解毒湯(おうれんげどくとう)が用いられます。高血圧の頭痛などに効果的です。
気鬱には、香りの良い薬が用いられます。
代表としては半夏厚朴湯(はんかこうぼくとう)で、
喉のつかえが気にならなくなり、抑うつ気分を改善する効果があるとされています。
気虚には補中益気湯(ほちゅうえっきとう)が用いられることがあります。
「疲れたな…」と感じた時に飲むと疲れがすっと取れると言われています。
急病や手術などで一時的に体力が落ちている時にも効果的です。
漢方薬はどう選ぶ?
漢方薬は数百種類の処方があり、その中で自分にあった漢方薬を正しく選ぶのは難しい時もあります。
また、漢方が昔からあるものだからといって、
すべてが体に優しく副作用がないわけではありません。
漢方に詳しい医師や薬局に相談し、適切なものを選んでもらい、
何か異常があればすぐに医療機関に相談するのがよいでしょう。
漢方は様々な考え方がある
この内容は漢方における考え方の一つです。伝統医学である漢方は長い時間をかけて、様々な解釈が生まれています。
現在では学者ごとに意見が異なります。
漢方に興味をもった方は他の考えにもぜひ触れてみてください。
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【参考文献】
The Journal of Experimental Medicine
IFReC 免疫応答ダイナミクス研究室
「病は気から」の根拠を実験的に証明 — リソウ – ResOU – Osaka University
『大辞林』 松村明
『疾患・症候別 漢方薬最新ガイド』西村甲
『症例から学ぶ 和漢診療学』寺澤 捷年
『看護師のための東洋医学入門』下平唯子 佐藤弘 吉川信 清藤和子
『147処方を味方にする漢方整理帳』 井齋偉夫
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