簡単！家庭でできる「脈」を使った健康チェック法・脈診について漢方薬剤師がわかりやすくご紹介します

こんにちは、狐狸庵です。

皆さんは『脈』というと、テレビなんかでお医者さんが『ご臨終です』などと脈をとる姿を想像するのではないでしょうか？

日本では、このようにお医者さんが生死の確認のために脈をみるイメージがありますが、東洋医学の本場中国では、

今の体調がどのような状態なのか？
また自分がどのような病邪に侵されようとしているのか？

などを知るために日常の診療の中で使われています。

東洋医学では、病気になりそうな状態や、病気ではないがなんとなく体調が悪い状態を未病といいますが、こういった時にこの脈診が大活躍します。

そこで今回は、中国において漢方薬を扱う医師が行う一般的に行う診断方法「脈診」をご紹介したいと思います。

この脈診を深く学ぼうと思うと非常に奥が深く複雑で、数多くの臨床経験が必要になりますが、基礎的な考え方を知っておくだけでも日常の生活で非常に役立ちます。

ですので、

健康な人がどのような状態の脈なのか？
また病気になりそうな方の脈はどんな状態なのか？

を皆さんに分かりやすくご紹介していきたいと思います。

脈を使った診断方法「脈診」とは？

まず簡単に脈診について説明させて頂きますと、脈診とは非常に長い歴史がある古代中国から続く脈を用いた診断方法のことを言います。

「歴史書」に記録されている春秋時代と戦国時代の有名な医師である扁鵲は、患者の見た目、匂い、質問、触れるなどの方法で患者を診断しましたが、その中でも特に有名なのがこの脈診です。

脈診は、昔の人々が長期にわたる病気との闘いの中で徐々に形成されてきた診断法であり、その長い歴史の中で豊富な経験により多数の書物が残されています。

現代でも中国では漢方薬を扱う医師は必ずといってもよいほど脈診による診断を行いますし、多くの有効なエビデンス(科学的根拠)が確立されています。

脈の取り方

まず脈の取り方なのですが、脈診では、人差し指、中指、薬指の３つの指端をもって、相手の手首の親指側にある動脈でみます。

正常な人の脈とはどのような状態？

１、脈が浮いたり沈んだりしていない状態

脈が「浮く」とか「沈む」とかいうと意味が分かりにくいかと思いますが、脈が浮くとは軽く手を添えた状態でも脈が強く拍動している状態をいいます。

例えば子供(基本的に元気一杯)が風邪で熱を出しているとき軽く脈に触れると脈がビンビン伝わってきます。

このように病邪(病気の原因)が身体の表面にあり、軽く指を添えるだ出ても脈動が伝わる状態を「脈が浮いている」といいます。

またそれとは逆に、お年寄りや体力のない人が病気にかかっている時に脈を取ると、強く脈の上を指で抑えないと脈を感じることができません。このような状態を「脈が沈んでいる」といいます。

一般的に脈が沈んでいる方が、病邪がからだの奥深くにある状態であり、症状が長引く傾向があります。

臨床では、このような患者さんには、高齢の方や抗がん剤などの副作用で体力が低下している方などに多く見られる傾向があります。

脈拍が遅くも速くもなく規則的である

これは、現代医学的には「頻脈」や「徐脈」といった言い方をしますが、脈が速いことを数 (さく)といい、これは身体の内部に熱がある状態をいいます。

また同様に脈が遅いことを遅 (ち)といい、からだの内部に寒(冷え)がある状態をいいます。

通常の成人であれば１分間に70回前後ですが、

若いほど脈拍は速くなり、

赤ちゃんの場合1分間に120〜140回、5歳または6歳の子供は1分間に90〜110回になることもあります。

基本的に若いほうが脈は速く、脈拍はより強力な傾向があります。

高齢者や体力の低下している人の脈は弱く、脈拍は遅く貧弱なことが多いです。

つまり、

新陳代謝が活発であれば脈が力強く、低下していれば脈が弱々しくなるわけです。

このことは、新陳代謝が亢進したり、低下したりする甲状腺機能の疾患(バセドウ病など)を抱えている方などに、見事に当てはまります。

そして一般的に、成人女性の脈拍は成人男性の脈拍よりも脈は沈で弱くて、わずかに速い傾向があります。

他にも重労働な仕事をしている人や、過度の運動、お酒を飲む人も脈拍は速く強い傾向があります。

因みにお腹が空腹のとき、脈拍は弱いことが多いですので、一度試してみては如何でしょうか？

脈がどの程度緊張しているか

そして脈には「脈状」といって、脈の状態を現す表現があります。

これは脈がどの程度緊張しているかをみることにより、現在の体調を推測するものです。

例えば、

脈が緊 (きん)といって弓の弦のように張っている脈は、実(病が存在している)、寒(冷え)や痛みなどがあることを示唆します。

また緩 (かん)といって、ゆっくりした脈は虚弱な体質を示唆します。

このように脈の状態というのは、

・生命エネルギーの強さや内臓機能の良し悪し

・病気の原因や現在の体調

など、多くの情報を表してくれます。

脈診の実践的な方法とは？

ここまで、簡単な脈の状態について説明しましたが、これから実践的な方法について説明していきたいと思います。

よくある質問に、

『どうすれば、脈がうまく診られるようになりますか。』

というものが多いですが、これは自分の脈に限らず、できるだけ多くの脈を診ることが上達の近道だと思います。

家族や友人、知人の脈をどんどんみせてもらい、

自分の脈とどのように違うか？
どのような体調の時にこのような脈の状態なのか？

など、数を重ねるうちに少しずつ理解できてくると思います。

その際の注意点としては、寸・関・尺といった脈の位置をしっかり把握しておくことと、体調不良の方の脈は様々な特徴がありますので、その都度記録を付けていくと良いかと思います。

特に小さなお子さんがいる家庭では、子供の脈を見続けていれば様々な発見があると思います。

中国では、母親は家庭医としての位置づけでもあり、家族の健康のために、簡単な軽医療の知識を身に付ける方が多くいます。

そこには、薬膳を使った料理やマッサージといった知識だけでなく、今回の脈診に代表されるように簡単な健康チェックの知識も含まれます。

(他にも舌や使った舌診や顔色などの状態を見る望診などの診断方法もあります)

脈診をはじめ、様々な診断法を組み合わせて健康状態が見える！

今回は脈診についてお伝えしてきましたが、ご注意いただきたいのは、脈の状態だけで身体のすべての状態が分かるわけではないということです。

ですので、安易に脈だけをみて、この人はあそこが悪いとか決めつけず、あくまで一つの参考であることを忘れないようにして頂きたいと思います。

例えば、胃腸を悪くして食欲が無ければ、脈は弱々しいものとなりますが、

他にも、

・いつからどれくらい食べることができていないのか？

・顔色はどうなのか？

・舌の状態はどうだろうか？

など、様々な情報があれば、よりその症状に対応した漢方薬なり養生法なりが見えてくると思います。

最近も、食べ過ぎ・飲み過ぎの二日酔いの方がお見えになり、顔はむくみ食欲が無いということで、脈をとり漢方薬を処方しましたが、脈は強く拍動し基本的に体力が充実している状態であることは明白でした。

このような方と、普段から食が細く・脈の拍動も微細な方とは、たとえ食欲不振という症状は同じでも、明らかに症状や体質が異なります。

このように、脈は体の今の身体の状態を物語っていますので、他の診断方法と脈を使った診断方法を組み合わせることで、よりはっきりとした改善への対処法が見えてくるのです。

因みに他の診断方法とは、『四診』といって、望診・聞診・問診・切診の４つで構成されていて、今回ご紹介した脈診は身体に直接触れるやり方で切診にあたります。

望診は視覚による患者さんからの情報収集のことをいい、動作や歩き方、顔色や表情、皮膚や爪、頭髪、唇などを観察します。舌を診る方法もこれに当たります。

聞診は聴覚と嗅覚からの情報収集をいい、相手の発語が明瞭か、受け応えがスムーズかなど言語・音声から情報を得たり、咳や呼吸音、腸の蠕動音などを音による情報を把握します。

問診は相手から症状を聞いたり、今までの経過を聞いたりして現在の症状や体質の把握につとめることをいいます。

最近では、検査機器の発達により、これらの診断方法を使う医師も少なくなり、寂しい気持ちがあります。

しかしこれらの東洋医学の診断方法は古人が、多くの犠牲を払いながら残してくれた大切な財産です。

一人でも多くの方が、これらの有用性に気付いて頂ければ存外の喜びです。

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