スペインでは、日本より上質な味噌と醤油が手に入るって本当!? スペイン在住歴16年筆者が教えるスペインの最新オーガニック事情。
本物のオーガニックが見つかるオーガニックショップ
スペインの日本食物語
私がこの太陽の国、スペインで暮らし始めたのは16年前のことです。日本食材を手に入れるのが至難の技だった当初に比べ、
今では、MISO・TOFUと言って通じるまでに浸透した日本食文化。
ものすごいスピードと勢いで市場に浸透しています。
近年では日本食、というよりも日本食材への注目度がじわじわと上昇中。
この遠い、地中海沿いのこの国で、いったいどうして「ジャパニーズ・フード・ラブ」族が急増したのか。
なぜ日本食材とオーガニック市場が密接な関係にあるのか。
日本食材の歴史を通してこの国のオーガニック食品市場をお伝えします。
まずは日本食そのものがどうスペインで受け入れられていったのか、その流れを見てみましょう。
始まりは鉄板焼き
バルセロナを例にとると、
日本食が参入したのは、バルセロナオリンピックが開催された92年頃。
オリンピック招致によって、街は大変貌を遂げました。
世界的にも知名度が上がり、各国から様々な企業が参入し始めたのです。
バルセロナに初の日本食レストランができましたが、
その看板メニューは今のように寿司、ではなくなんと鉄板焼き。
そのパフォーマンスも含めた新しい食べ方、味付け。
すべてが新鮮な鉄板焼きレストランは、目覚めたばかりの国際都市で大成功でした。
その後、世界の寿司ブームにも押されて今の寿司、天ぷら、照り焼き、焼きそばが日本を代表する
スターメニューに定着しました。
グルメ志向か健康志向か 日本食の分岐点
こうして「おしゃれでグルメでヘルシーな食べ物」として定着した日本食。
アメリカや他、欧米諸国に比べると一足遅れて始まったブームとはいえ、
10年ほど前にはそのステータスを確立させ、寿司屋さんには長蛇の列ができました。
当時、私は日本食材店で働いていました。
日本のスーパーに並んでいるものをそのまま売っているような輸入食材店です。
ある日、お客さんにたまり醤油があるか、と聞かれました。
醤油こそ大人気の調味料でよく売れていましたが、
たまり醤油は、まだまだマニアックな食材だったので驚きました。
話を聞けば、彼はグルテンアレルギーで、
小麦が使われていない醤油を探して、たまり醤油を知ったと言うのです。
日本食と日本食材 それぞれがとったふたつの道
グルメ志向の日本食が、ものすごい勢いで人気を博しているその裏で、健康問題のために、日本食材へ行きつく人たちが存在していたのです。
スペインは主食がパンですから、
お米を主食とする日本食はグルテンアレルギーの方々にとって、画期的な解決策だったのではと思います。
その後も、店頭には味噌、豆腐、昆布など日本が誇る食材を求める人が、どんどん増えていきました。
グルテンアレルギーだけでなく、
マクロビオティックセミナーに行って教えてもらったほうじ茶が欲しい、だとか、
子供のおやつに、チーズの代わりとして豆腐を使おうと思って、と言っていたお母さん、
真冬の寒い仕事帰りに、味噌汁を持ち帰るOLさん、などなど
日本料理としてではなく、日本食材として生活の中に取り入れている様子がはっきり伺えました。
こうして「おしゃれでグルメでヘルシーな食べ物」の「ヘルシー」の部分だけ枝分かれして行ったのです。
スペインのオーガニック食品市場 そして日本食材のクオリティは?
スペイン・オーガニック食品の定義
オーガニック食品市場を語る前に、
まずは、スペインにおけるオーガニック食品の定義について述べておきます。
有機食品の検査認証は各国で異なりますが、
スペインでは、大きく4つのカテゴリーに分かれます。
エコロジー食品
・全ての生産が自然のままに行われる
・人工的な介入なし
・種子、土壌、水においても、肥料や化学農薬が使われない
・畜産においては汚染のない地域でエコ肥料で育った家畜
・ホルモン剤投入や抗生物質の使用がなされない
バイオロジー食品
・遺伝子操作が行われたものが一切含まれない
・色や大きさ、形を良くするために野菜に行われるような人工実験の介入がなされない
オーガニック食品
・農薬、肥料、除草剤が一切使用されていないことを証明
・家畜の場合はホルモン剤、抗生物質が使われていない
・但し、全てがバイオロジー食品とは限らない
原材料に遺伝子操作が行われている可能性は否定できない
例)甘味食品に使用される果物やワインのぶどう
継続可能農業食品
・持続性の高い農業生産方式・環境保全型農業(日本でいうエコファーマー)
・環境に配慮した食品であると同時に消費者に考慮された食品でもある
*100%エコに到達する前に地域経済向上が優先される
参考:現地紙 Vanguardia紙 https://www.lavanguardia.com/vivo/ecologia/20160614/402498428265/ecologico-biologico-organico-sostenible-alimentacion.html
日本でいう有機食品に相当するものはエコロジー食品と呼ばれており、
スペインでオーガニックと呼ばれているものは、有機食品を意味しません。
そして、オーガニック食品は、遺伝子組み換え食品の関与の可能性に加え、
農薬、肥料こそ使用されていませんが、
土壌、種子、水などの基盤条件は言及されていません。
家畜の場合も、その飼料や環境について明記がありません。
ややこしいです。最初のうちはこの違いに戸惑いました。
原材料名に表記される場合は
”小麦*、オーツ麦*、水・・・・
*印はエコロジー農業で栽培された原料”
と表記されます。
エコロジー食品にはそれを証明するマークが表記されます。
下写真の黄緑のマークです。
エコロジー食品、バイオ食品、オーガニック食品、継続可能農業食品、
これらをひとくくりにして、「BIO」という言葉が、市場では安全食をイメージするキーワードになっていますが、
原材料欄をよく見るとバイオ食品であっても、エコロジー食品ではなく、
このエコロジー食品のマークがなかったりするので注意が必要です。
エコロジー食品を求める場合は、マークのチェックが必須です。
ロゴにはEU内で生産されたものかどうかも表記されています。
オーガニック食品への認識
現地の新聞・Vanguardia紙によると、スペイン人の64%が上記の4つのカテゴリーを同意語と考えているそうですから、
これらのカテゴリーの違いは意外と知られていないようです。
しかし、それらのカテゴリー全般に関して、
41%が、「より自然なもの」
続いて33%が、「より健康で美味しいもの」
と考えていると言うことなので、
遺伝子組み換え食品や、添加物の使用などは避けるべきものであると言う認識はあるようです。
ニーズの反映 身近になった有機食品
有機食品(スペインでいうエコロジー食品・ややこしいのでここでは以下、有機食品で表記)は、自然食品店、有機食品店など専門店で売られています。
2002年に、有機食品専門スーパーVeritaができたりして華やいでいますが、
ここ2、3年ほどで、普通のスーパーでもついに有機食品、
またはバイオ・・オーガニック食品コーナーが設けられるようになりました。
ヨーロッパの中でも有機先進国のドイツ系スーパー、LIDL、 ALDI、フランス系Carrefourなどが、
独自オーガニックブランドを立ち上げて、
消費の多い有機栽培の穀物、豆類、ドライフルーツ、または生鮮野菜なども販売しています。
ジャムやパスタ、豆腐、コーヒーや紅茶などの加工食品も含め、
専門店にはとても及ばないものの、そのバラエティーは次々と増えています。
価格は、通常商品の1.5倍から2.5倍ほどになりますが、
自社ブランドのためか、専門店に比べると少しお手軽かな、というところです。
バイオ食品、エコロジー食品、オーガニック食品の違いが消費者の間にもう少し広まる必要はありますが、
一般的な市場に、常に有機食品という選択肢が生まれ、
専門店へ出向かなくても、いつもの買い物のついでに手を伸ばせる
という意味では身近で手軽なものになっています。
スペインでも、すでにメディア等ではベジタリアン食やヴィーガン食が話題になっていたので、
その流れとして、有機食品が注目されるのはごく自然なことです。
「実は気になっていた」客層のインサイトをしっかりつかんだ、
とてもありがたいマーケティング戦略と言えるでしょう。
全粒有機パスタを8パック、どしどしカゴに入れている若い男性を見たりすると嬉しくなります。
近頃のスペインは、特にスポーツ分野で活躍する人にこういった食品が注目されているようです。
理由はなんであれ、国民性からして、
ニーズをしっかりアピールする消費者なので、市場の反応は速かったです。
企業側がそのニーズを重要視しているということも大きいですね。
新たな日本食材市場
さて、日本食材の話に戻りますが、「グルメ志向」ではなく、「健康志向」で選ばれるようになった日本食材が、
では、実際にどのように市場に出回っているかというと、
こちらは、完全にグルメ日本食市場と切り離された分野、有機食材市場での取り扱いになります。
もちろん、大手のスーパーなどへ行けば普通の醤油や焼き海苔、わさびなどは売っていますが、
日本産や有機食品に出会うことはまずないでしょう。
「健康志向」派は、「質」を求めますから、自然食品店、有機食品店へ向かいます。
そこでは有機醤油をはじめとして、
有機味噌、有機梅干し、有機昆布、有機ごま塩、有機あずき、大ブームを起こした有機寒天、
最近では、くずや粉末れんこん、乾燥ひじきやレンコン(すべて有機)までそろっています。
すべてエコロジー食品のマークがついたもので、
多くは日本のマクロビオティック食製品です。うれしい!ありがたい!
価格もクオリティーを持ってすれば、決して高いものではありません。
海外で日本食材を手に入れるのは、どのみち高価な買い物ですから、
同じ価格で有機味噌が手に入るのなら、そんなありがたいことはありません。
そして、ほとんどの有機食品店で間違いなく、それらの日本食材は手に入ります。
有機味噌の販売スポットの方が、非有機味噌の販売スポットより断然多いというわけです。
日本と逆なのです。
我が家で愛用中の有機麦味噌。低温殺菌されていないお味噌です。低温殺菌済みのものもありますが、味は大違い!
日本のマクロビオティック食品メーカーのものです。
日本がうらやましい!!ニッポンのみなさん、恵まれた食環境を活かしましょう
現地、生の声を聞いて感じる矛盾
そんな「グルメ志向」「健康志向」双方のニーズに押されて、私は、昨年から文化センターで日本料理教室を始めました。
味噌汁、鍋もの、炊き込みご飯などの家庭料理を、
日本が誇るスーパーフードの食材を通して伝えています。
味噌のパワー、梅干しの抗菌効果、くずの代謝促進力、
こう言った食材の効能に、生徒さんはびっくりするくらい興味を示してくれます。
食材だけではありません。
野菜を主役にできる調理方法、発酵を利用した加工方法の知恵などにみなさん大変驚きます。
「日本はいいわねえ、体にいいものにあふれてるのね。」
と言われて複雑な気持ちになります。
なぜなら、実際のところ日本では添加物やだしが加えられたお手軽味噌、
もはや醤油なのか分からないような製造をされた醤油、
着色料たっぷりの梅干しと、
せっかくの素晴らしい食材を、あえて無駄にしてしまったような食品に溢れているからです。
その価値を理解しきらずに、お宝を持て余しているのは日本人なのです。
もったいない・・・。
市場を変えるのは消費者のニーズ
良質の有機日本食材が簡単に手に入る環境にあって、日本ではなぜ市場にそうでないものが出回り続けるのか?海外でのニーズを知りながら、そんな日本をはたから見ると、
情けないような哀しいような、そして焦りも感じます。
このままでは、外国人の方が日本人よりも日本食材に詳しい、なんていう未来になってしまうかもしれません。
十数年前に比べれば、選択肢は増えていますし、
自覚を持ったたくさんの人たちが今、こうして情報を求めています。
素晴らしいことです。
しかし、帰国の度に有機食品の浸透の低さに驚き、
資本主義の裏にある影を感じずにはいられません。
華やかなマーケティングに騙されてはいませんか?
その売り言葉は本当ですか?一部だけを信じ込んでいませんか?
今でも真面目に、丁寧に、本当に私たちのための食品を作っている業者さん、農家さんを支えたくありませんか?
日本は世界的に見ても歴史上でたくさんのスーパーフードにあふれた国です。
その宝物を、本国でももっと評価して、私たちの本当の健康のための選択をしていきましょう。
消費者のニーズが変われば、市場は変わっていきます。
あなたが今日、冷蔵庫にしまうその食品が、変化のスタートなのです。
オーガニック食品やコスメをお得に買えるオーガニックストアIN YOU Market
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