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日本人のエビ好きがもたらす環境破壊。切られたマングローブ、汚された水、破壊される海…知られざるエビの裏事情とは?


はじめに


ぷりぷりした弾ける身、赤と白の印象的なコントラストに、特徴的な背の曲がった姿。
“エビを使った料理”、と言えばあなたは何を思い浮かべますか?
寿司、天ぷら、フライ、チリソース、炒飯、茶碗蒸し、サラダ、ピザ、パスタ、グラタン、はたまたお菓子…。
“縁起物”の代表選手とかつて“高級食材”の代表品でもあったエビは、
今や現代日本人庶民の食生活に欠かせない食材となりました。

けれど、普段からありふれている身近な食材のエビが、
どこからやって来ているかご存知ですか?
実は、日本料理の食材としても大変存在感のあるエビですが、
その国内自給率はなんと4%ほどしかありません。
一般的に食べられるあの“天ぷらそば”でさえ、余程食材にこだわりのある飲食店でない限り、
食材の原産地を辿れば外国産がかなりの比重(そば、小麦粉、エビなど…
主な食材4品の合わせた自給率の平均値は約12%程度)を占めているとも言われています。
(参考:農林水産省『いちばん身近な食べものの話』「http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/pdf/tabemono_pamph25.pdf」 )



日本料理の食材として・普段使いの食材として、エビはふんだんに利用されながらも、
肝心の中身はほぼ外国産という矛盾…。
しかし、私達がエビに舌鼓を打っているその裏側で、
知らず知らずの間に海外のエビの生産地で起きている問題について、
知っている人は少ないのでは無いでしょうか?
“安いから。美味しいから”――とエビを味わう前に。
その“向こう側”に隠されているエビの故郷に少し想いを馳せて見ませんか?


エビが私達の食卓に上るまでの過程、ご存知ですか?



スーパーで見られる養殖加工エビのパック(筆者撮影)

スーパーの鮮魚コーナーでパック詰めされているエビを見た時、何を考えますか?
恐らく、その海老の生産方法や生産者のことを考える――という人より、
“今晩のメニュー、何にしようかな”と言った思いや“これ、安くてお買い得だな”――
そんな風に思われる方が多いのでは無いかな、と私は考えるのですが如何でしょうか?
せいぜい産地がどこか、天然か養殖か…といった程度のことしかラベルに記載されていないことがほとんどですし、
また購入する消費者にとっては産地が例えインドであってもインドネシアであったとしても、
それよりも海老の見た目や価格の方が重要視されている様な気がしてなりません。

一昔前に比べると、少しずつ消費者や業界も変化していることもあって、食品全体の生産方法への関心やトレーサビリティといったものが普及している様には感じますが、それでも実際のところまだまだ消費者の関心は低い、というのが現状の様に思います。


日本に来るエビはどこから?





農林水産省の品目別貿易実績によると、
海老の主な日本への輸出国はTOP1~10位までのうち7か国がなんとアジアの国々でした。
そして、そのTOP3をベトナム、インド、インドネシアが飾ります。
TOP3の国の生産高と4位以降の国々との間には開きもあり、
如何に日本に来る海老がアジア諸国に依存しているか…ということがみてとれます。

しかし、もっと以前。日本は自国で海老をもちろん獲っていましたし、
あまつさえ養殖技術の開発に貢献さえもしていたのです。
ですが、その影は現在では僅かに残存するかの如くで、
その自給率の低さが示す様に国内産の海老は一部の高級なエビは見られるものの、
大変希少なものになってしまいました。

しかしながら、かつての日本人が今ほどエビを食べていたのか? というとまたその点にも疑問が浮かびます。
そもそも、今日の様に冷蔵・冷凍技術が発達するまで、
水産物というのは海辺・水辺の住民や一部の上層階級の人々を除いて手に入れにくいものでした。
また、1961年にエビの輸入が解禁されるまで、そのほとんどは国産だったのです。

ただ、その生産量を遡ってみますと、明治時代中期の海老の国内の生産統計では1万数千トン程度だったのに対し、
今やその96%を輸入に頼っている現状の中、16万7千トンという十倍以上もの量
(2016年度 農林水産省 品目別実績)を輸入しているという事実があります。
何とその量にして10倍以上、むしろ20倍近くと言っても過言でないその数字は、
歴史の中で人口の増加や食生活の変遷があったとは言え、
如何に現代の私達がエビを食しているか、という現実をつきつけられている気がします。


自国でエビを生産することを放棄した代わりに、外国の豊かな自然が犠牲になっている



時代の変遷と共に、大量のエビを他国から購入する様になった日本。
かつては高級品だったエビは、庶民の食生活の必需品に様変わりしました。
しかし、その安価なエビの生産の裏側で犠牲になっているのは、
生産国の豊かな自然であり、
また安い賃金で働いている労働者たちでした。
なんと、私達の手元に遠い海外から海老が届けられるまで、
末端の生産者から現地の加工工場、輸出、輸入、販売に至るまで
10以上もの段階、そして数多くの人の手が加わっていると言います。

エビの生産方法について、簡単にご紹介しながらその問題点を追っていきます。

天然エビと養殖エビ、それぞれの主な問題点


エビの生産方法について、大きく分けると魚の世界ではこれまた当たり前?
かもしれませんが、天然と養殖に分けられます。
ここで見えて来る問題点とは、天然だったら大丈夫、養殖なら大丈夫、
といった簡単な二項構造ではありません。
どちらの生産方法についてもそれぞれ問題点があり、
手放しで歓迎することは難しい現実が潜んでいます。


海底の環境を根こそぎ攫う、天然エビの主流漁法トロール漁法


(写真はイメージです)



天然エビ、と言ってもそのエビがどんな漁法で獲られているか、
といったことまで中々普段想いを巡らすことは少ないのでは無いか…と私自身は思うのですが、如何でしょうか?
現在の天然エビの主流な漁獲方法は、主に“トロール漁業”と呼ばれる底引き網漁の一種の漁法を用いています。
これは、“トロール網”と呼ばれる大変大きな三角形の袋型の網を海底に沈め、
その網を船で引っ張りながら漁をしていくのですが、その網が海底の環境を根こそぎ傷付けてしまうのです。

「……トロール?そりゃ困ったもんだ。ナマコや白蝶貝やアガルアガルだって、みんな底ざらいしてしまうからね。」
(引用文献記載当時、インドネシアのバラタン部落の村長だったユヌス・モネアイの言葉より抜粋)

「トロール網は、あらゆる種類の魚を獲ってしまうだけではない。
トロール網は、魚の父さん、魚の母さん、魚の兄、姉、弟、妹、魚の子ども、魚の孫、ひ孫、そして魚の卵をみんな獲ってしまう」

(マレーシアの小漁民の言葉)

引用:村井吉敬『エビと日本人』


なんと、さかんにエビのトロール漁が行われているアメリカの沿岸部では、
国内で最大規模を誇る一方でメキシコ湾と大西洋で毎年およそ5万3000匹のウミガメが死んでいるという情報まで…。
(参考:AFPBB NEWS エビ漁でウミガメ5万頭が混獲死、米政府を提訴 「http://www.afpbb.com/articles/-/3045602」)



また、大きな網で大量に捕獲することもあって、狙った種類の魚が手に入るとは限りません。
海老を目的として漁に出た場合、残念ながらエビ以外に網に引っ掛かったその他の魚貝類は選別され、
再び海に捨てられてしまうのだとか……。
しかもその量は、エビの7倍や10倍の重量があるとも。
もはや目的の海産物より、要らない“くず魚”の方が多いなんて、矛盾を感じますね。

更に、このトロール漁は大量の石油を消費すると言われています。
遠い海外からエビを運んで来るだけでも、大量の石油を浪費するのですが、
それ以前にも漁が大規模になればなるほど、遠い海域に行けば行くほど石油が使われてしまいます。
とある研究結果では、あるインドネシアのトロール船がエビ1キロを捕獲するのに、
石油を10キロ
も使うという恐ろしい結果もあるくらいなのです。

(参考:村井吉敬『エビと日本人』の引用部分、宮内『エビの社会科学』)


このトロール漁における乱獲や、海底資源の破壊などはやがて問題になり、
各国がそれぞれ期間や海域などを定めたりして規制に乗り出してはいるものの、
今現在も許される範囲で世界中で行われ続けているのが現状です。
しかも、勿論この漁法を行っているのはエビだけではありません

海底を傷付け、根こそぎその場にいた生物を攫って行く……
即ちそれは、海の環境に多大な影響を与えていることにほかなりません。
また、一度に大量に捕獲し、狙った種類のみならず他の種類までも獲ってしまう…
トロール漁の在り方は“海底の砂漠化”を呼んでいる、という声もあるほどなのです。



今、世界の魚貝類全体の漁獲量は減少傾向です。
もちろん、減少傾向に転じている理由をひとことで言い表すことは難しいのですが、
乱獲により漁獲量が減っている魚があることは、
皆さまもニュースなどで目にしていらっしゃるのではないでしょうか。
もちろん、昔ながらの伝統的な方法で漁を行っている方がゼロ、
というわけではありません。
けれども、昨今の世界の流れとして、大量に獲り、売り、儲ける、食する――という仕組みを続けることは、
少なからず世界の海に悲しい影響を与えてしまっている
という気がして、ほかなりません。


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養殖エビの漁場のために破壊されたマングローブ林。人工的な飼育方法によって汚染されていく水





天然のエビの漁法の問題点が声高に叫ばれ始める中で、代わって台頭してきたのは養殖でした。
一昔前は、天然のエビが主流だったのですが、ここ近年は養殖のエビがかなり主流になりました。
しかし、では養殖だからといって天然に比べて問題点がないわけではありません。

集約養殖と祖放養殖


養殖エビの飼育方法には、大きく分けて集約養殖と粗放養殖というふたつの形があります。
簡単に言うなら、集約養殖は極めて人工的・工業的な生産方法で、
祖放養殖は自然の状態に近いゆったりとした生産方法、ということになるでしょうか。
野菜で言う、慣行栽培と有機栽培の違いみたいですね。
なんと集約養殖では大体1㎡辺り約30匹の海老がいるのに対し、粗放養殖では3匹となんと10倍もの差があります。
ただ、現状として養殖の主流の生産方法はこの集約養殖で、粗放養殖を行っているところは少ない現実があります。

集約養殖が起こす環境破壊


集約養殖というのは、一般的にエビを養殖する池に大量に稚エビ(エビの赤ちゃん)を投入し、
過密な状況下で海老を栽培します。
また、早く大きく太らせる為に人工飼料を投入します。
しかしながら、その人工飼料も原料となる魚が大量に犠牲になっていたり、
大量の添加物が含まれているという実態が……

(写真はイメージです。)

含有する飼料添加物の名称としては、
ビタミンA、ビタミンD3、ビタミンE、ビタミンC、ビタミンK2、
ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ニコチン、
コリン、水酸化アルミニウム、ペプチド銅、硫酸亜鉛、硫酸マンガン、
硫酸コバルト、ヨウ素酸カルシウム、リン酸一水素ナトリウム、
リン酸二水素ナトリウム、アスタキサンチン、ニトキシンなどが書かれている。


引用:村井吉敬『エビと日本人Ⅱ』 (日本のとある養殖会社で使われていた飼料の中に含まれていた添加物より)

もちろん、過密した環境で育てる中で、海老は病気にかかり易くなります。
こうした状況の対策として、多くの抗生物質や化学薬品が使われることに……。
過剰な高栄養の飼料や大量の薬品、また塩分を含んだ養殖池の水の排水は、
周囲へ環境汚染を引き起こしてしまいます。

かつて、ブラックタイガーの主要生産地として名を馳せていた台湾では、
こうした自然の環境を逸脱した生産方法の歪みからか病気が大流行し、
かつてほどエビの養殖を行わなくなってしまったという悲しい現実があります。
また、この様な集約養殖が原因とみられる病気の発生により
養殖池が打撃を受けたというお話は、台湾だけにとどまらず、養殖がさかんな他の国でも見られる現象でもあるのです。

そして何より悲しい事に、エビの養殖池として海水が混じり込む未開発区画としてうってつけだった各地のマングローブ林が大量に切り開かれ、養殖池へと姿を変えているのです。




ある調査によれば、1980年から2000年にかけて世界中で26%のマングローブ林が減少し、
その中でも養殖エビの主要生産国では国によって程度の差はあれど少ないところで
2割程度から多い所では6割程度ものマングローブ林が減少したというデータもあります。
もちろん、マングローブの破壊の原因は開発、薪の原材料、場所によっては戦争など
エビの養殖だけではないことも事実ですが、このデータでもそうですし、
様々な資料でもエビの養殖がマングローブ林の破壊を引き起こしているという話が
各所で見受けられることから、エビの養殖が熱帯雨林の破壊に影響を与えていることも、また事実かと思います。

(参考:M.L.Wilkie&S.Fortuna,“Status and Trends in Mangrove Area Extend World-wide”,FAO Forest Resources Assessment Working Paper.)

しかも、マングローブ林を切り開いた場所でなければ良いのかというと、
そういうわけではなく、例えば淡水の環境下の場所では海老が暮らすために
適した環境にするために海水や塩分を投入したりするので、
周囲に塩害の被害が出ると言った問題点もあります。
また、海外の養殖池の周囲の環境が開発されている場合(急速に発展している海外でも、公害の様な減少が起きているため)、
元々の引き入れている水の水質の汚染の心配もゼロとは言えません。

また、日本においては出荷時において、残留した薬品についての値の取り決めなどがありますが、
残念ながら海外において、どこまでそういった取り決めがなされているのか?
といったことまで消費者の私たちの元へ情報が伝わることはほとんどありません。
実際、輸入された商品全てに検疫の眼は行き届いていない状況でもあり、
度々輸入された商品から基準値外の化学薬品などが
発見されたという事例も多数報告されています。

(例:厚生労働省HP『中国産えびに対する輸入検査の強化について』「https://www.mhlw.go.jp/houdou/2003/10/h1002-5.html」/ 日刊ゲンダイHP『発がんの危険も…車エビに化けているのは“薬漬け”ブラックタイガー』「https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/145759/1」)

エビを遠い海外から輸入するということ




また、天然ものにせよ養殖ものにせよ遠く離れた海外から食品を輸入することは、
国内の近い場所で獲れたものを輸送することに比べて
それだけエネルギーコストが高まります。
もちろんこれは、エビだけに留まらず国内の食料自給率が4割を切り、
自国の食料の半数以上を海外に頼る日本にとっては決して軽視できない問題ですが……。

フードマイレージと言われる、食料の量と輸送距離を表す指標では、
仮に東南アジアのインドネシアのスラバヤ港から輸送された海老だとすると、
なんと1t辺り輸送量(1t)×輸送距離(5900km)=5900にも及びます。
(参考:末松広之『食料自給率の「なぜ?」』

また、バーチャルウォーターと呼ばれる仮想水―その食料の生産などに使われた水を自国で賄うなら、
どの位の水が必要か、という指標もあります。私が現段階で調査した限り、
はっきりとした海老のバーチャルウォーターの数字を見付けることができなかったのですが、
おそらく養殖ものであれば餌(人口飼料などを使用している大多数のところなど)、
そして育てる際に使われる池の水、加工時に使用されるであろう水……
など大量に海老を輸入している日本にとって、決してそのコストは低くないと予想できます。




エビの加工、保存(水産物の輸送には冷凍・冷蔵技術が不可欠)、遠距離の輸送、そして
もし天然ものなら漁の際に使われる石油などのエネルギー、
養殖ものなら育成の際に使われる水・合成の飼料の生産などに使われる水……
と改めて輸入エビの現状を振り返ると、水・電気・石油……
おそらく現実的にかなりのエネルギーが使われていることは、自明の理ではないでしょうか?

そして、全てのエビと断定することはできませんが、
長期の輸送に耐える(黒付き・色あせ防止等)ため、
変色防止剤…合成漂白剤(自亜硫酸Na)、
合成発色剤(亜硝酸Na)といった化学薬品や、
エビのプリプリ感を出すため保水材(ph調整剤、リン酸塩、炭酸カルシウム、クエン酸等…)が
一般に流通されている海老には使われていることが多いです。
添加物の詳細な問題点はさておき、何らかの薬品が使われているという事実
少なからず私たちに不安を与えます
(そして、ほとんどの加工エビにおける添加物は食品表示のカラクリによって表に記載されるものは極僅かです)。

もちろん、こういった問題も自国でその日獲れたものを食す、
といったことがほとんど行われなくなってしまった
現代の食料消費構造が生み出した歪みとも言えるでしょう。




エビの故郷で起きていること


金になるから―外貨獲得の為に行われる悲劇、低賃金で働かされる異国の末端の労働者達



そして、安価なエビの販売値を支えているのは、
海外の国々で圧倒的な低賃金で働かされる労働者たちだということも、
私たちは忘れてはいけません。
かつてエビの輸入が自由化されて以降、日本は世界で一番といって良いほどエビを食している国でした。
ヘルシーフードとも噂され、また各国の発展に伴う食品消費の変化なども相まって今現在は一番、
と言えるほどではなくなってしまったものの、それでも日本は世界の中で見れば
指折りのエビを消費している国の中に含まれます。

つまり、それだけエビを購入する人がいる、ということは
生産国にとってエビを作ることは外貨獲得になる、ということに他なりません。
ただ、日本がエビを購入することで『生産国にお金を流す』=『その国が豊かになる』、
という簡単な図式では表せないことも事実です。
そこには前述した様な環境への負荷はもちろんのこと、
そもそも海老の生産には生産から加工・輸送・販売に至るまで極めて多数の工程、
人の手が加わっており(ある養殖エビでは簡単に段階に分けても14段階とも――)、
エビの生産や輸出において得た外貨の恩恵を受けれる人は、たとえ生産国であっても一握りだからです。

生産国においては、外貨を獲得して裕福な生活をしているのは生産における上位階層の極わずかで、
たとえば加工工場で一日中背ワタを取り続けたり、
養殖池で日雇いで働かせるなど大多数の名もない生産者が、
エビの生産を支えているという悲しい現実があります。




インドネシア領ニューギニア島の陸の冷凍工場で働く女性労働者は、
臨時雇い(賃金も出来高制)で一日3キロの殻向きをして、なんと現地の通貨で1500ルピア、
日本円にして75円ほどの賃金しか貰えないという悲しい調査結果まであるくらいなのです。
もちろん、現地と日本では貨幣や物価の形相に差はあるとは言え、極めて低い対価と痛感せざるを得ません。
(参考:村井吉敬『エビと日本人Ⅱ―暮らしの中のグローバル化』

私たちの消費活動が世界を変える


“聞いたかい?知ってるかい?日本のサムライのことを
“黄渦”って何か 眼をしっかり開いてちゃんと悟っておくべき時だよ
タイの皆 恐ろしいエコノミックアニマルが
タイを丸焼きにしてしまう
タイの大地を 田畑を
マングローブの海辺や山を どんどん買いまくっているんだ
ミスター・イープン・ユンピー 刀を持ったサムライ
タイの剣やタイ・ボクシングでまだ闘えるのだろうか?
タイの皆…”


岡本和之訳:1980年代後半、
タイで流行したタイのロックバンド、ガトーンの曲「イープン・ユンピー」
(イープンは日本、ユンピーはそれをひっくり返した言葉、日本人への皮肉がこめられている)。

引用及び参考:村井吉敬『エビと日本人Ⅱ』



(スーパーの海老売り場の一角(著者撮影)、こうして多くの海老が安価で日本で販売されている)

何とももの悲しい歌ですね。もう、かれこれ30年以上も前の曲ではあるのですが、
こんな歌が海老の主要生産国のひとつでもあるタイで流行っていたという事実。
この曲を初めて知った時、私自身何だか途方もない現実を突きつけられた気がして、とても胸が痛くなりました。

現在、タイではこの様な悲しい現実から、マングローブの伐採許可を無効としたり、
人工的な飼料や薬品を使わないオーガニックな手法での海老の栽培を奨励したり……と変化が起きています。

もちろん、全ての海老の生産国でこの様な流れが見られている訳ではないものの、
一つの希望の光の様に感じました。

色々、エビについての問題点をお話してきましたが、じゃあその問題点を解決するにはどうすれば良いのか?
今すぐに、明日何かを急激に変える事は難しいかもしれません。
けれど、“買い物は投票”という言葉がある様に、
何より普段から海老を食べている私達消費者が少しずつでも変わっていくことで、
変えられることは決して少なくはないと思いませんか?

(参考:AGRI in Asia『タイ オーガニックのエビ養殖』「http://agrinasia.com/archives/1433」)


少しでも私たちにできること、その解決策に繋がる方法の幾つかをご紹介します。

粗放養殖で育てられたフェアトレードなエビ、“エコシュリンプ”


(写真はイメージです)

まだまだ取り扱っている販売店(各種の生協や通販などといったところでの扱いが主)は少ないものの、
“エコシュリンプ”と言う商品があります。
これは、前述したエビの養殖方法の中の“粗放養殖”という方法で、自然の環境に近いところで育てられたエビです。
この方法では、過密していないゆったりとした環境で
人工飼料や抗生物質は使わず
池の中に自然発生するプランクトンや虫を食べてエビは育ちます。
収穫方法も環境に配慮した方法を用い、出荷の際にも薬品を使わず
一度の冷凍でエビ本体に氷の膜を作って出荷されるとのこと。
また、流通の過程においても適正な価格で取引されるよう、配慮が行われているエビなのです。

“フェアトレード”という言葉をご存知でしょうか?
バナナ、コーヒー、カカオ……ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、
愛されている海外産の人気食品の裏側では、
生産国の低賃金労働や児童労働、悪環境下での労働などが問題になっています。

そうした現状の問題から、生産国の労働者にも適正な対価が支払われるよう配慮された
“フェア(公平)なトレード(貿易)”
このエコシュリンプもまた、そういった公正な取引が行われるよう心掛けてあるエビでもあります。

この様なエビを取り扱っているところからエビを購入することは、
養殖エビがもたらす環境破壊に完全にとは言わないまでも環境の改善
に貢献できる手段
ではないでしょうか。

また、エビに限らずフェアトレード商品といったものに関心を向け、
その様な商品を購入していくことは見えない海外の生産者の環境向上に大いに貢献できる一つの方法ではないかと考えます。

(参考:オルタートレードジャパンHP『粗放養殖エビ エコシュリンプ Eco Shrimp』 「http://altertrade.jp/ecoshrimp」)


海のエコラベル(MSC)と養殖のエコラベル(ASC)について




その他にも、自然や環境に配慮したできるだけ持続可能な方法
獲られた(作られた)海産物に対する“認証制度”もあります。
天然の海産物に対する認証には、海のエコラベルとも呼ばれるMSC(Marine Stewardship Counsil:海洋管理協議会)、
養殖の海産物には養殖の海のエコラベルASC(Aquaculture Stewardship Council:水産養殖管理協議会)というもの。
まだまだ一般的には認知度が低いのが現状ですが、
実はエビの生産地でも数はまだまだ少ないものの取得しているところもあります。
そして今はまだ、こういった認証ラベルが付いた商品は数少ないものの、
一般のスーパーでも取り扱っている店舗も出てきています。
エビに限らず、消費者の私達が自ら漁業がもたらす問題点に関心を持ち、
そういった海産物を購入したり、その様な海産物が欲しいという声を届けることによって、
需要の変化を販売者側に知らせることは、市場が変わる一つのきっかけに充分なりえるのではないでしょうか。

(参考:イオンHP『豊かな海の恵みを子どもの未来に。持続可能な水産業の証―MSC, ASC。』「https://www.topvalu.net/tv-osakana?bannerid=tv71_VkddwVuC&exmid=TUP」)


そもそも食べる量を減らす




とは言っても、海も海産物も限りある資源
結局のところ需要が増え、食べ過ぎ、獲り過ぎ、作り過ぎ――という連鎖を続ければ、
種の衰退が起きてしまうということは、ここ近年言われている鰻やクロマグロ、
サンマの漁獲量などの問題とも直結するということが、読者の皆様にも想像できるのではないかと思います。

それは、幾らそれが環境に配慮した方法と言っても、
配慮していない方法よりはもちろん良いのですが―やはり食べる―という消費が増大してしまえば、
一体全体どうなってしまうのか?
そもそも、環境に配慮した生産方法は、強引な数任せの生産方法と比べても、
時間も手間もかかることは想像に難くありません。
その様な商品の需要を求めることが、問題の解決に一役買う一方で、
やはりその手段すらこの地球の許容量を超えてしまえば、到底補いきるのは難しいものになってしまうのではないかと……。

私自身はベジタリアンでもあり、ほぼ長年海産物をまともに食していません
(必要上のお付き合いなどで、本当にたまに頂いたり、魚の入った出汁などは頂くことも時たまありますが……)。
一度味を知ってしまえば、やめられないという部分ももちろんあるかもしれませんが、
極論として“肉や魚を食べなくても生きてはいける”と私自身の個人的体感ではありますが、感じています。
(ベジタリアン用に、エビや海産物を模した食材すらもあったりしますし、
野菜だけでもいろいろ想像以上に料理のレパートリーも存在しています。)

食べることをゼロにすることは中々難しいかもしれませんが、
食べる量を減らす”ことは、
今日からできる
取り組みの第一歩では無いでしょうか?。



おわりに―環境があってこその私達。“今日の一食分の快楽”より“豊かな自然”を


大変長くなってしまいましたが、いかがだったでしょうか?
私たちの手元にエビが届けられるまで、今まで知らなかったベールが少しでも剥がされていたら良いのですが…。
私が思うことは、今日本を含めた本当に一部の経済的に豊かな国々が飽食だということです。
日本でもおびただしい数の食品廃棄があり、山の様に海産物も食している現状です。
でも、食は三大欲求の一つとは言え、その“一食分”の快楽の積み重ねが、
やがて“未来の地球”を作って行く―本当に少しだけでも、そんな背景に目を向けて頂けたら。
毎日美味しいからと食べ続けて、環境が破壊され、やがてその魚がいなくなり、
絶滅危惧種に―間違っても、そんな未来はあってはならないことだと思うのです。
豊かな海をこれからも守り続けるために。消費者の私たちの選択に、地球の海の未来はかかっているのではないでしょうか?




◇参考文献について◇
この記事を書き上げるに当たって、村井吉敬さんの著作である『エビと日本人』及び『エビと日本人Ⅱ―暮らしのなかのグローバル化』にかなりお力添えを頂きましたので、改めて文末にて謝辞を申し上げたいと思います。村井さん、ありがとうございました。


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