日本のナッツブームの裏側で起こっている衝撃の事実。生産国の人々の人生を狂わせ、新型コロナで追い討ちをかけるのは安さばかり求める私たち消費者です
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日本のナッツブームの裏側で起こっている衝撃の事実。生産国の人々の人生を狂わせ、新型コロナで追い討ちをかけるのは安さばかり求める私たち消費者です
読者の皆さんは、普段食べるものに気を使っている方が多いと思います。
ところが、野菜やお米、調味料など、いつも食べるものについてはこだわっているけれど、そうでないものはそこまで考えずに購入しているかもしれません。
そういうものの1つがナッツ類。
ドラッグストアや100円ショップなど、今やどこに行っても見かけるようになりました。
ヴィーガン、菜食などの食生活を実践している方にとっては常備食材としてすっかり定着しましたし、お菓子作りやおつまみで購入される方も増えました。
「ナッツまで有機にこだわる必要はないんじゃない?」
そう思っている方へ、ほとんど日本では知られていない、非常にショッキングな話をお伝えしなければなりません。
今回は、ナッツの中でも世界で消費量が急増するカシューナッツにスポットを当てます。
世界中で大人気のカシューナッツ。需要が急上昇しているそのわけは?
カシューナッツの栽培・加工は20世紀の始めにインドで始まりました。
1920年代には欧米の富裕層の食べ物として広まり、それ以後売り上げが急増、現在ではアーモンド、クルミに次いで世界で3番目に消費の多いナッツとなっています。(※1)
皆さんもご存知のように、カシューナッツは大変栄養価が高くさまざまな使い道があるため、世界中で需要が急増しています。
特にアメリカとドイツでのカシューナッツ人気は高く、輸入量がとても多くなっています。
人々の健康志向という理由以外でも、ヴィーガンや乳製品を摂らない食生活を実践している人が増加しているため、カシューナッツがヴィーガンチーズやナッツミルク、ナッツバター、エナジーバーなどに利用されていることが大きいようです。
世界のヴィーガン人口も増えており、例えばイギリスでは2014年から2019年の間に4倍になったと言われ、イギリスのスーパーチェーンSainsburysの報告によると、なんと2025年までにイギリスのヴィーガンと菜食主義者の人口は、全人口の4分の1を占めると予測されています。(※2)
日本でも近年の健康ブームでカシューナッツの消費は増えており、2018年には輸入額が過去最高となりました。
現在世界一のカシューナッツ生産国はベトナムで、2位がインドとなっていますが、日本はカシューナッツ輸入数量の7割以上をインド産が占めています。(※3)
カシューナッツの加工は過酷な労働、しかも低賃金
世界有数のカシューナッツ生産国インドでは、ケララ州、カルナータカ州、マハシュトラ州をはじめとする南部で栽培が行われています。
カシューナッツは、果実1つにつき1粒しか採れないため、高価なナッツです。
収穫したナッツをさらに高く売るためには、粒に傷がつかないようにしなければなりません。
生のナッツとして販売されるまでには、栽培、収穫、偽果(カシューアップルと呼ばれ、赤く実のように見える部分)からの分離、焙煎、冷却、皮むき、天日干し、選別といった多くの工程が必要になり、非常に多くの労働力が費やされます。
カシューナッツの加工で最も難しい工程は、あの勾玉型のナッツを殻から取り出すことです。
これは非常に労働集約的な作業で、熟練した労働力が必要になります。
その90%は女性ですが、先に挙げたように工程があまりにも多く、手間がかかる割には賃金はごくわずかです。
また、カシューナッツの殻にひびが入って開いた時に「カシューナッツシェル液」という漆に似たオイルがにじみ出てきます。
このオイルが誤って皮膚に触れると火傷や痛みを引き起こしますが、これが労働者に健康上のリスクをもたらしています。(※4)
かつてはインド国内や海外との取引で栄えたカシューナッツ産業でしたが、近年では生産者の立場も弱くなっています。
生産者は国内外の取引を行う仲買人に生計を握られていることが多く、さらに海外マーケットの動向がカシューナッツの輸出価格を大きく左右するようになったため、生産者はますます不安定な生活を強いられるようになっているのです。(※5)
ここまでを読むと「なんだ、フェアトレードでよく聞くような話じゃない」と感じた方も多いと思いますが、ここからが今回最もお伝えしたい内容なのです。
世界有数のカシューナッツ生産国、インドで起こった農薬「エンドスルファン」の悲劇
かつては世界一のカシューナッツ生産量を誇っていたインド。
しかし、多くの住民が農薬による健康被害を被っていた事実は日本ではほとんど知られていません。
その上、現在のコロナ禍がさらに追い打ちをかけるように被害者を苦しめていることは、もっと知られていません。
その農薬の名称は「エンドスルファン」。
映画『毒のサイクル』で取り上げられていたので、ご存知の方もいらっしゃるかもしれません。
カシューナッツ栽培で長年用いられた毒物指定の農薬「エンドスルファン」とは?
エンドスルファン(ベンゾエピン)は、1950年頃から世界で使われるようになった有機塩素系の殺虫剤です。日本でも1960年に農薬登録され、『チオダン』『マリックス』といった名称で、コナジラミ・アブラムシなどの害虫の防除に使われていました。
このエンドスルファンは「植物体内に浸透したり移行したりすることがなく作物体への残留も少ない」と言われていましたが、ヒトや家畜への急性毒性がとても強く、魚毒性も高いので水質汚濁性農薬として指定されています。(2010年9月には、農薬の登録が失効しています)
カシューナッツ産地でのエンドスルファン使用と次々明らかになる異変
インドでは、カシューナッツの産地であるケララ州とカルナータカ州で、1980年頃から2000年までの約20年間にわたって、途中で健康被害が訴えられるようになっても止むことなくエンドスルファンが使用されてきました。(※6)
1990年代から異変が報告され始め、地域の農民たちはパパイヤの木の近くで死んだ蝶が山のようになっている様子や、その他の昆虫が群れの状態で死んでいるのを目撃したといいます。
カエルは死んだ虫を食べて死に、カエルを食べたニワトリも死にました。足がねじれた子牛や、頭が2つある子牛が産まれることもありました。
異変は、当然人間にも顕著に表れるようになりました。
医師たちは、先天性障害や水頭症(脳室に過剰な脳脊髄液が貯まり、頭部が大きく膨らむ)、ガン、身体の奇形、神経系疾患、てんかん、脳性麻痺、重度の身体的・精神的障害などが増えていることに気がつき始めたといいます。
ケララ州の高等裁判所は2004年にエンドスルファンの散布を禁止しましたが、すでに手遅れとも言える状況になっていました。
エンドスルファンは土壌に溶け出しており、井戸や池、運河などの水も汚染されていました。エンドスルファンの散布中に井戸の蓋を閉める必要があることを誰も知らされておらず、雨が降ると農薬は谷や平地に流れていき、人々はその農薬が流れ着いた場所で自分たちが食べる米や野菜を作っていたといいます。
子どもたちは赤く実のように見える部分「カシューアップル」を食べ続けましたし、農家はエンドスルファン噴霧後に牛の放牧をしていました。(※6)
エンドスルファンの使用開始から20年の間に約500人が死亡したと伝えられています。(※7)
農薬・エンドスルファンに生活を破壊されたカシューナッツ産地の人々
2017年1月、インド最高裁判所はケララ州政府に対して、州内でエンドスルファンの被害を受けた5000人以上の人々に対して補償金を支払い、生涯にわたって医療的ケアをするための施設設置を検討するよう命じました。(※8)
しかし、これは補償金が支払われたからといって簡単に解決するような問題ではないのです。
【ケララ州出身、18歳の息子がいる女性】(※9)
「息子が産まれた時、何かが違うと気がついた。体の様子がどこかおかしく、感覚も鈍い。3歳の時に発作が起きて一晩中続き、医師からはエンドスルファンが原因の小児麻痺だと告げられた。」
そう話す母親のそばで18歳になる息子は地面に横たわり、うめき声をあげている。
手足がひきつって、苦しんでいるように見える。
「補償金をもらっても息子の子供時代が帰ってくることはない。私の人生も返して。」
【ケララ州出身の30歳女性】
身体障害と学習障害を持っており、歩行が困難、音は聞き取りにくく、話すことができない。
彼女の母親はつきっきりで彼女に食事を与え、入浴させている。
【24歳と17歳の息子がいる日雇い労働者の男性】
24歳の兄は脳性麻痺を患っており、24時間ずっと介助が必要。17歳の弟は、兄に比べると多少は身体的問題が少ないものの、自分1人で生活することはできない。
「私たちが必要としているのは補償金ではなく、ベーシックインカム(最低限所得の保障)です。そうすれば家族全員分の生活費を稼がなくてはいけないと心配する必要がなくなり、息子たちの面倒をみることに専念できます。妻は大きくなった息子たちを介助することが難しいので、常に私がそばにいる必要があるのです。」
皆さんも、「endosulfan」「victim」と画像検索をしてみてください。
犠牲になった子どもたちのなんと多いことでしょうか。
明らかに肢体に異常が見られる子ども、大きくなった息子を膝の上で抱く母親、寝たきりのままあどけない目で宙を見つめる子ども、水頭症で頭部が大きく膨れ上がった赤ちゃん。
私はこの時「水俣病」を思い出しました。
胎児性患者を目にした時の悲惨さは、言葉では言い表せないものです。
それと同じようなぞっとするほどの衝撃を受け、胸が張り裂ける思いでした。
水俣病では、チッソ本社にて患者が社長の前に身を乗り出し、
「愛もしたことなか、恋もしたことなか、水俣病がさせた」
と強い調子で語ったことが知られていますが、遠いインドに住む彼らもまた同じように、無念でやりきれない思いを抱えているに違いありません。
農薬は禁止になったけれど…新型コロナの影響で窮地に追い込まれたカシューナッツ産地の被害者
エンドスルファンがインド全土で禁止され、被害者が補償を受けられるようになっても、さらに彼らには悲惨な試練が待ち受けていました。
それこそ、現在の新型コロナウイルスです。
今年の3月下旬から、インドでは世界的にも厳しいロックダウン(都市封鎖)が実施されましたが、被害者の多くは、自分たちが住む地域ではなく、別の州の病院に治療を受けに行ったり、州外の大都市から医薬品を受け取ったりしていました。中には国外の医療や医薬品に頼る人々もいたそうです。
このロックダウン以降、子どもを含む数千人の被害者が不安定な状況に立たされ、中には命の危険にさらされた人もいました。
【37歳のケララ州在住の女性】
彼女は腎臓に問題を抱えており、2015年にはガンと診断されました。
手術後、ガンは他の部位にも転移したため、ムンバイから届けられる医薬品によって命をつないでいました。
ところが、突然のロックダウンによって、その医薬品が受け取れなくなったのです。
地元では手に入らないものである上、非常に貧しい彼女が買える額ではなく、かといって止めてしまえば死が待っている。
大きな不安に見舞われた彼女は眠れない日々が続いたといいます。(※10)
(この事がニュースで取り上げられたことで、後にムンバイNGOなどの計らいで医薬品が受け取れるようになったそうです)
【13歳の脳性麻痺の息子がいる母親】
ロックダウン前は、定期的に脳性麻痺の息子をマンガルールの神経内科医に連れて行っていました。
しかし、道路が閉鎖されて通院が不可能になり、いつも治療で家を訪れる医者も来られないのではどうやって息子を治療したらよいのかわからない事態に陥りました。
これらの事例以外でも、通院はできても道路の閉鎖によって物流が途絶えたために必要な医薬品を出してもらえない、年金が数か月も滞るなど、ロックダウンは大勢の被害者の生活をさらに悲惨なものにしてしまったのです。
政府は、被害者の窮状が報道されたり、彼らによるオンラインの抗議デモがソーシャルメディアで拡散されたりするたびに遅れて対応をし、綻びが明らかになるたびに繕ってきたような印象がありますが、今もなお問題が山積しています。(※11)
今でも年金支給の遅延や支払いが不規則になっているという問題が続いており、何百人という被害者が困難に直面しています。
また、政府が約束した「10㎏分の食料無料配給」も2011年から果たされておらず、政府が運営するはずの寝たきり生活の被害者のために常設ケアセンターも開設されたもののまだ機能しておらず、「被害者はこのパンデミックをどうやって生き延びるのか?」という厳しい声もあがっているのです。(※12)
カシューナッツ生産の裏側を知って気づく「知らないことは、もはや『悪』」
このインドでの状況を知って、皆さんはどのように思われたでしょうか。
「新型コロナがあったから運が悪かった」
「インド政府の対応が遅い」
「そんな危険な農薬を使い続けたのが悪い」
「とりあえずは被害者が徐々に救済されているみたいでよかった」
それは本質とは違います。
農薬を売って儲けたい企業が悪いのでしょうか。
あるいは、一部の政治家が悪いのでしょうか。
そうではなく、
商品の背景など何も考えず、価格だけを見て購入する消費者がたくさん存在することが根本問題なのです。
安くすると買う人がたくさんいるので、そのニーズに合うように生産方法を考える人間が存在します。
しかし、低価格に抑えたその裏側には、大きな犠牲を払って苦しんでいる人々や環境も必ず存在します。
「知らないことは恐ろしい事だ」どころか、
「知らないことは、もはや『悪』」
このことに、そろそろ私たちは気づく必要があります。
たとえ直接手を下すことがなくとも、これまで私たち日本人が彼らの人生を狂わせることに手を貸してきたのは確かです。
私たちの無知な買い物が多くの人の健康を損ない、命を奪い、環境を破壊してしまったのです。
店におつまみ用の安いナッツが売っていれば、カゴに入れる。
健康にいいからと、まとめ買いでさらに安くなったナッツをネットで購入する。
その安さの代償は、一体何が・誰が、どのように払ってきたのか、今回はより具体的におわかりいただけたと思います。
何か異変が見られるようになっても、その害を政府や企業が認めるのは相当長い年月がたってからのことです。
その害となる物質が使われなくなっても、すでに環境は破壊されて、虫も魚も動物もいなくなり、犠牲者とその家族は、重い障害と死ぬまでつきあっていかなくてはならないのです。
そのような悲惨な背景を持ったカシューナッツをこれまで日本が輸入していたことは、ほとんどの日本人が知りません。情報をただ待っていたところで、この国では重要なことについては国や企業がわざわざ知らせてくれることはありません。自ら知ろうとしない限りは、こうして延々と知らないうちに誰かを傷つけることになります。
本当にオーガニックな暮らしを望むならば、残留農薬・安全性という我が身のことだけ気にしていればよいわけではありません。
今後もしも買い物でナッツを手に取ることがあれば、少し考えてみてください。
「この商品を買うことで、傷つく存在はないだろうか?」
エンドスルファンの被害者やその家族は、誰かに怒りをぶつけたところで、健康な体や当たり前の幸せな暮らしはもう手に入りません。
だとすれば、せめてインドから遠く離れた国でナッツを購入する私たち一人ひとりが賢い選択ができるようになることが、彼らの犠牲を無にしないことにつながると思うのです。
インドのカシューナッツ業界は、今後いっそうの日本への輸出強化を目指しています。
日本が主要輸出先であるインドは、ベトナムや中国などにシェアを奪われないため必死なようです。(※13)
犠牲者を多数出したエンドスルファンが禁止された今、私たちはよりいっそう今後のインドの動きを注視したいところです。
あなたが一瞬手に取って、「高いから」と買うことをやめてしまったそのカシューナッツ。
それは本当に「高い」のでしょうか?
「高いだけ」に見えるカシューナッツは、実は遠くの農園やそこで働く人、ひいては地球の未来までも見据えて生産されているのです。
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【参照】
※1:International Nut And Dried Fruit Council (2018). ‘Nuts and Dried Fruits Statistical Yearbook 2017/18’. Accessed 10th December 2019.
※2:Sainsbury’s (2019) ‘The Future of Food’ Report. Accessed 12th December 2019.
※3:ナッツ類の輸入(東京税関:令和元年)
※4:Cashew Nuts | How It’s Made
※5:INDI:There is attractive India here
※6:Childhoods lost: disabilities and seizures blight India’s endosulfan victims(The Guardian)
※7:Kerala bans endosulfan after 500 deaths over 20 years (INDIAN JOURNAL OF MEDICAL ETHICS)
※8:Karnataka’s endosulfan victims to ‘fast unto death’ for better compensation (Down To Earth)
※9:Childhoods lost: disabilities and seizures blight India’s endosulfan victims (The Guardian)
※10:Endosulfan victims in Kasaragod go without medicines (The Hindu)
※11:Coronavirus Lockdown:Kasargod’s endosulfun victims to stage online demonstration, fast to highlight their plight (Deccan Herald)
※12:Endosulfan victims in Dakshina Kannada district face stipend delays (THE NEW INDIAN EXPRESS)
※13:カシューナッツ業界、日本への輸出を強化(NNA ASIA)
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