現代人にこそ必要なお出汁文化。 リーキーガット症候群にも有用と考えられるお出汁の効力と日本酒の持つ力について専門的にお話を伺いました。
本物のオーガニックが見つかるオーガニックショップ
様々な病気に罹ってしまう要因として「腸内環境の悪化」が取り沙汰されるようになってきた昨今ですが、
一般の方々にどの程度の情報が浸透しているのかは、未だ分からない所ではあります。
直近では「腸が血液を作る事ができる」という事実も判明しましたよね。
今ではグルテンフリー、カゼインフリーといった単語を多くの方がご存じですが、国内では食に対して十分に気を遣っていらっしゃる方は知っていても、
その言葉自体の存在をそもそもご存じでない方も決して少なくありません。
そのような状況の中で、私は日々多くの患者様に対しても「天然のお出汁」を摂取して頂くことを推奨しております。
伝統的な和食に欠かせないお出汁は「天然のうまみ成分(各種アミノ酸)」が豊富に含まれたものであり、私たちの細胞全てにとって必要な基礎材です。
現代では、たんぱく質(アミノ酸)が十分に摂れていない(あるいは吸収できていない)方も多い中で、傷ついた体を癒すにあたり、
最も体に馴染みやすく吸収力の高いものが「お出汁」ではないかと、私は個人的に考えております。
そこで、今回はお出汁にこだわった食を提供されている飲食店の店主、素敵な日本酒を扱っておられる酒屋の方にお話を伺うことができましたので、
インタビューさせて頂いたお二人の簡単な紹介を始め、お出汁や日本酒について伺うことのできた内容を皆さまにシェアしてまいりたいと思います。
「身体が美味しいと感じる料理」への取り組みを行う、旬彩つばめ家店主の平木さん
弱冠20代でお店を立ち上げ、若者をメインターゲットに健全な食を提供している
大学も近い立地にて、創作和食のお店を個人で営んでおられる平木さん。
お店の客層は実に幅広く、近隣の大学生から、日本酒に詳しい年配の御夫婦まで、多くの方が集うお店として、地域に根差した経営を続けておられます。
昨今、“健康になれるから美味しい“と、思考を通じて料理を味わってしまうような機会も増えていますが、平木さんは「健康になれるから美味しいと感じるのではなく、あくまでも料理を通じて純粋に美味しさを感じてもらいたい」と話されています。
また、食の質にこだわりながらも、安価で料理を提供されている同店では「これからの未来がある若者たちに、健康になってもらいたい。健康になれる食事をできるだけ頻繁に食べてもらえるように、経営努力を続けている」とのこと。
お店では仕入れる素材の質にこだわり、調味料は全て無添加のものを使用される等、本来なら飲食店にとって大きなウリである「健康」というテーマは敢えて掲げず、あくまでも「お出汁と山椒、そして日本酒」をテーマに、多くの方々の為に、日々営業を続けておられます。
健康をウリにしている食の一部では”旨味や満足感”が不足しているという側面もある
平木氏:オーガニック食材、無添加の調味料を使用して素晴らしい料理を作られているお店は多いものの、素材の良さをメインに押していく所があるため「旨味が弱い」という部分があります。
本来は旨味、例えばベースとなるお出汁の味がしっかりとしていれば、塩分濃度や味付けは薄くしつつも、十分な満足感を感じることができます。
他のお店がどうされているかは置いておいて、当店では健康になって頂くと同時に、十分な満足感を得て頂きたいので「丁寧に、しっかりと出したお出汁」をベースに、料理をお出ししています。
お出汁をしっかり使用することによって、不要な調味料を省くことができるため、最低限の調理で”美味しく感じて頂く事ができる”のが、和食の良さであり、当店のウリだと感じています。
こだわりのお酒を仕入れ、販売を行っておられる松ヶ崎商店の小林さん
日本人と共に歴史を歩んできた日本酒の素晴らしさを、多くの方に広めたい
元々は他業種で勤めておられた松ヶ崎商店の小林さん、
今ではお酒の営業をされているということで、こだわって仕入れた素敵な日本酒、そして日本酒の良さを広めるべく酒屋の仕事を通じて、日々奮闘されておられます。
小林さんの人生を今の道へと変えたのは「本当に美味しいと感じる日本酒に出会ったこと」だそうですが、このお話を更に詳しく伺ってみると、その背景には「日本酒を取り巻く様々な問題」が見えてきました。
日本酒の持つ効能に関しては、ラット実験の結果を始め様々な所で指摘されていますが、それほど体に良い成分が豊富に含まれているにも関わらず、日本酒の消費量は低迷を続けています。今回、小林さんからはその辺りの事情についても詳しく伺うことができましたので、後ほど紹介してまいりたいと思います。
お出汁が私たちにもたらすメリットとは?
「天然のうま味」によって薄味でも十分美味しく頂けるようになる
旬菜つばめ家の平木さんは
「天然のうま味であるお出汁をしっかりと使用することで、調理をする際に最低限の味付けでも美味しく感じることができる」
と仰られています。実際、私たちは外食あるいは自宅で様々な料理を味わう際、色々な味付けをしたものを味わっていると思います。もちろん、こだわった味付けをふんだんにするのも良いのでしょうが、それでは全体的に”濃い味”になってしまう部分も否めません。
他方、和食の原点は「引き算の料理」であり、ごくシンプルな味付けで最高のパフォーマンスを引き出すのが和食の良さであり、魅力であります。
しかし、昨今はお出汁の重要性が度外視され、洋食ナイズされた調理法が出回っているという側面があります。
そのような現状がある中でこういった”贅沢にお出汁を使用した純和食”を割烹のような価格設定ではなく、
あくまでもこれからの未来を担う若人に通って頂ける様な設定で行われているという事実には頭の下がる思いです。
また、同店のお出汁には平木さんの強いこだわりから”鮪節”が使われています。
良いお出汁を摂取することによって、私たちは「強い満足感を得る」ことが出来る
※写真のあんかけには片栗粉ではなく”本葛粉”が、山椒には紀奥山椒(ぶどう山椒)が使用されています
平木さんはインタビューの中で「質の良いお出汁を摂取する事で、心から満足感を得る事ができる」と発言をされています。これは正にその通りで、多くの人々は満足感を得る為に”小麦の旨味や食材の持つ糖質、あるいは脂質摂取時に感じる幸福感”を利用することで”満足感のようなもの”を得ています。
”何故、そういった食品で多幸感を得る事ができるのか”というメカニズムは既に科学的にも解明されてはいるのですが、
上記のような食品で感じる満足感はあくまでも一過性のものであり、脳を刺激することで満足感のようなものを得ているに過ぎません。
※お料理には季節の旬のものを取り入れておられます
その点、お出汁は”複雑に混ざり合った旨味成分が腸に十分な栄養素を与える”ことによって満足感を得る事ができるので、一過性の”脳が美味しいと感じる反応”ではなく、腸にも脳にも良い影響を与えることができるのです。この点は、他の食品ではなかなか実現できない、お出汁ならではの特徴と言えます。
和食のベースとも言えるお出汁の存在こそが、日本酒との相性を高めている
※同店では店主が食事に合わせて日本酒をセレクトしてくれます
和食は先ほど申し上げた通り”引き算の料理であり、食材の良さを引き出す調理法”であるため、複雑な旨味を出す為のお出汁は欠かせないものと言えます。また、日本では古来より日本酒が飲まれてきましたが、日本酒自体も”豊富な旨味成分であるアミノ酸”が多量に含まれた飲料であり、日本人の心身の健康に寄与してきた歴史があります。
和食には日本酒が合うと言いますが、その相性の良さを支えているものの一つが”お出汁”であることは間違いありません。旨味成分は、その他の旨味成分と混じり合うことで”旨味をより数倍以上に感じることが可能になる”という性質があります。旨味成分を豊富に含むお出汁と日本酒が調和することによって、”和食と日本酒の双方をより美味しく感じることができる”のは必然と言えるでしょう。
日本酒の持つ力、日本酒を取り巻く環境等について日本酒のプロに伺いました
日本酒を取り扱う酒店のプロ、小林さんに幾つかの質問をしてみました
”アルコールが体に悪い”と言われるようになって久しいですが、果たして本当にアルコールは体に悪いのでしょうか。私自身、様々な事実を調べた上で過去に日本酒の持つ効能や、お酒の持つ素晴らしさについて記事を書かせて頂きましたが、”質の良いお酒は、心身の健康に寄与することができる”という事実が既に様々な研究において明らかとなっています。
そこで、今回は日本酒を取扱うプロである小林さんに日本酒を取り巻く環境についても、お話を伺いました。
zuyu:日本酒の甘口、辛口の違いがイマイチ分からないので教えて頂けますか。
小林氏:本来、辛味という味はなく、刺激でしかありません。そういった観点からは”辛口の日本酒”といっても、やはりお米の旨味が生きており、その糖度の違いによって甘口、辛口と分けているという所があります。
zuyu:日本酒を取り巻く現状について教えて頂けますか。
小林氏:蔵元が非常に厳しい状況に直面しています。
日本酒の製造に必要な労力からすれば、蔵元は圧倒的に安価な価格で販売をされていて、とても心配に思っています。かといって、日本では安価で美味しいものを求める傾向が現在は強いので、蔵元も販売価格を上げることができず、そのしわ寄せを日本酒の製造元である蔵元が被っているという現状があります。
日本酒の価格は日本ではとてもお安いのですが、やはり本当に良い日本酒を飲んで頂こうと思えば、
それなりに出して頂いた方が、質の良いものを飲めることは間違いありませんし、そのような考え方が少しでも広まればと思います。
※小林さんがセレクトした美味しい日本酒の数々、いずれも料理に合います
zuyu:日本酒の消費量が低迷していると聞きますが、どのようにすれば現状を打開できるのでしょうか
小林氏:これまでは、日本酒と言えばハレの日に親族一同で飲むものであり、家族ごとの消費量も大きいものでした。
そのため、品質云々ではなく”大量に消費されていた”という側面があります。もちろん、その分は質が下がる部分もあったのでしょうが、日本酒が安定して消費されていたため、蔵元もある程度は安定していたのだと思います。しかし、最近は消費量そのものが低迷しており、日本酒の立ち位置が変わりつつあります。
実際、蔵元も日本酒を消費する層も”より良い日本酒”を求める傾向が強くなっている為、これまでとは違う形で日本酒が広まって行く必要はあるでしょう。
これまでのように”薄利多売”ではなく、”より良い品質の日本酒をそれなりの対価、価格で購入することが当たり前である”という土壌を形成していく必要はあるでしょうし、そういった所に我々販売側も注力していく必要性を感じます。
私自身としては、日本酒の持つ本来の効果効能、これを効果的に訴えることが可能であれば、より需要を喚起できるのではないかと感じています。
zuyu:実際、ラット実験のレベルであれば、日本酒による放射線防護作用などのデータもある程度公開されている部分があります。
ただ、人における臨床というレベルになると、まだなかなか実際に公開できない部分もありますので、今後の研究に期待したい所です。
私自身はPRAという検査技術を使用する中で、日本酒の効果効能に関しては十分に把握しておりますし、そのポテンシャルの高さを正確に評価し、
それらの結果を今後何らかの形でうまく発信して行く事ができればと思っております。
小林氏:昭和の時代を中心に、質の悪い日本酒が出回り、無駄に刺激の強い日本酒を”これが日本酒だ”と飲んでおられる方も決して少なくありません。
その時代の日本酒へのあまり芳しくない印象が、現在に引きずられている部分もあるのではないかと感じます。
そういった部分も変える事ができれば、消費の形も更に変わるのではないでしょうか。
zuyu:オーガニックの日本酒の需要はありますか?
小林氏:確かに、そういったオーガニックの日本酒が欲しいと言う要望を聞く事はあります。しかし、単純に原料をオーガニックにしたら美味しいのかと言われれば、必ずしもそういった結果がついてくるとは限りません。有機栽培のものを導入すれば日本酒が売れるというわけではないですし、単純にそういったものを導入しても、現状それで需要が広がるわけではないので、コストを考えれば難しい部分があります。
酒屋としては”無農薬、オーガニック”と評価がつくことで売りやすくはなりますが、とは言っても今の土壌でそれを広げていくのは少々難しいと言わざるを得ない、という感じがあります。
インタビューを終えて
日本人にとって欠かすことのできないお出汁、そして日本酒を扱うプロの方々にお話を聞かせて頂き、大変参考になりました。
近年、日本では様々な疾病の増加傾向がある中で”食こそが大切なのではないか”という声が広まっているものの、食によって本当に改善している方は現状ではごく一部と言うのが現状です。
何故そういった状況になっているのかと言えば、その一つの要因として”日本古来の食事の良さ”が失われつつあるからではないかと個人的には思います。
体に良いとされる食品は幾度となく紹介されてきましたが、古来より日本で活用されてきた和食の持つ力について”大々的に”その良さがアピールされる機会はあまりありません。
特に、日本は島国であることから海から頂くことのできる資源も豊富であり、海藻、魚を上手に活用することで、豊かな食生活を営んできたという部分もあります。
そのような中で育まれてきた和食という文化において、決して外すことのできないものが”お出汁”なのではないでしょうか。
また、和食を引き立てる効果のある”日本酒”も、欠かす事のできないパートナーではないかと思います。
近年、アルコールを良しとしない風潮の広まり、アルコールを飲めない方の増加なども含め、日本酒の消費量は低迷の一途を辿っています。
しかし、その一方でこれまで以上に良い日本酒を作り出そうと頑張っておられる方々もおられます。
お出汁、日本酒の持つポテンシャルは一部において”研究対象になっている”ことは明らかであり、私たちの健康な生活を支えてきたことに間違いはありません。
また、お出汁に使用される素材の多くは海洋資源であることから、海洋汚染に関する問題を気にされる方も多いと思います。
しかし、昆布にはストロンチウム等のキレート作用を促す”アルギン酸”が豊富に含まれていること、丁寧に作られた節(枯節)は十分に発酵が進んでおり、”腸に有用な菌類”が豊富に含まれている事から、お出汁への使用という点では”結果的にデメリットよりメリットの方が多いのではないか”と、考える事ができます。
実際、私の周りでも”昆布のうま味を抽出した昆布水”で不調を解消している方も多くいらっしゃいます。
昆布やお出汁で腸内環境が整えば、体にとって有害なものを排出する機能が高まります。そもそも、私たちのお腹の中には長年培われてきた「お出汁に含まれる成分によって活性化する腸内細菌群」が豊富に存在しますので、それらの菌が活性化することによって、結果的に心身の乱れた状態が整ってくるのではないでしょうか。
同様に、日本酒を取り巻く状況においては”アルコールは体に芳しくない”という意見が根強くあるものの、厚生労働省が2万人を対象に行った疫学研究では、「日本酒を2日に1合飲酒していた場合、非飲酒者と比較してがんによる死亡リスクが半減した」という結果が出ています。
更に言えば、日本酒に含まれる成分が”放射線によって生じるフリーラジカルを低減する”ことによって、放射線から防護する作用があるという事実が論文として公表されています。
この論文の内容を元に考えれば、ヒトの場合は1日に2合程度の”純米酒”を飲むことで、放射線への抵抗力が高まるのではないかとみられています。
参考論文:Protective Effect of Japanese Sake against Ionizing X-irradiation in Mice
この記事をきっかけに、和食、お出汁、日本酒といった日本古来の良き文化が、より発展的に広まることを願います。
また、様々な要因で傷ついた腸を癒す為にも、ぜひ多くの方に”良質な”お出汁をとって頂ければと思います。
この度は最後までお読み頂きありがとうございました。また、取材に快く応じて下さいました旬菜つばめ屋の店主平木さん、
松ヶ崎商店の小林さん、写真撮影に協力頂きました高橋さん、お忙しい中お時間頂き大変ありがとうございました。
取材地:旬菜つばめ家
文:zuyu
写真:高橋保世
取材協力:旬菜つばめ家(平木さん)、松ヶ崎商店(小林さん)
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