薬剤師が教える、風邪で病院に行くべきかどうかの判断法
私はこれまで、「薬に頼りすぎない生活」を提唱してきました。
とはいえ、病気の際に薬を飲むかどうか、病院に行くべきかどうかの自己判断はかなり難しいものです。
身体の異変に自力で対処をすることに自信がある人にお伝えしたいことは、
病院を受診することは何も負けではない、ということです。
場合によっては、同じ熱でも自分で対処できるものと医師の力を借りた方が良いもの両方が存在するのです。
今回は、皆さんにとって最も短な病気のひとつである「風邪」を例に、
自宅療養で良い風邪か、病院を受診しないと危険な風邪かを判断する方法についてご紹介しようと思います。
「風邪」について私たちが知っておきたいこと
風邪の定義/風邪に効く薬はない
一般の方のほとんどが「熱が出て、身体がだるい状態=風邪」と認識しているのではないでしょうか。医療従事者でさえも、そのような認識を持っている人は少なくありません。
風邪の正確な定義は「自然に良くなる、上気道のウイルス感染症」。
ポイントは「風邪はウイルス感染による」ということです。
そして、ここで知っておいて欲しいのは、「風邪に抗生剤は効かない」ということです。
そもそも、風邪に効く薬というものは存在しません。
その理由は、風邪の定義からわかる通り、「風邪は自然に良くなるもの」だからです。
つまり、3〜5日、長くて1週間も休めば自己治癒力で自然に治るのです。
風邪の原因と典型的な症状
繰り返しになりますが、「風邪」の正式名称は上気道炎(風邪症候群)で、
首の呼吸器のウイルス感染症を総称して「風邪」と呼びます。
80〜90%が呼吸器ウイルスによるもので、多くの場合、1週間以内で自然治癒します。
健常成人では、ライノウイルス(約30〜40%:春と秋に多い)、
コロナウイルス(約10%:冬に多い)、小児ではRSウイルス、アデノウイルス(夏に多い)など
7種類のウイルスが風邪症候群を引き起こしています。
風邪の症状は、咳、痰、喉の痛み、鼻水、鼻づまり、くしゃみ、熱、だるさ、
目やに、声のかれ、関節や筋肉の痛み、頭痛など様々です。
医療の分野では、この中でも「咳」「鼻水」「のどの痛み」の3つの症状が
約24時間のうちに同時に、または順番に起きる場合に風邪だと判断して良い、とされています。
※鼻水は垂れてくるものだけではなく、鼻をすすったりして飲み込んでしまって痰のように
のどに引っかかっている症状がある場合は、痰ではなく鼻水の可能性が高い。
※のどの痛み=つばや食べ物を飲み込んだときに痛みがあるもの
このときに痛みがないものや咳をした後にのどが痛いものは含みません。
皆さんが思っているように「熱が出て、身体がだるい状態=風邪」ではないのです。
風邪で熱が出た時に注意したいこと
解熱鎮痛薬と呼ばれる薬は、熱を下げる薬です。これは、皆さんの体の免疫がせっかく良い環境で働いているのを妨げてしまいますので、
よっぽど辛くない限りは服用しないようにしましょう。
また、汗を出すために布団で温めたりすることは良いことではありません。
汗は熱を下げる反応です。汗がたくさん出ているときは、治りかけている状態だと思ってください。
そのため、布団などで温めすぎると逆に体温が下がりにくくなってしまいます。
水分補給をしっかりと行い、重かったり圧手過ぎない布団をかけて休むようにしましょう。
風邪だと勘違いしがちな重い病気に要注意
また、風邪だと思って病院を受診してみたら、そこに意外な疾患が隠れていたということもあります。例えば、
・軽い咳と少し呼吸が苦しい感じがする→「心不全」だった
・のどの辺りが痛い→「心筋梗塞」だった
・だるさと微熱が長引く→「急性肝炎」だった
・熱が出た→「腎盂腎炎」だった
というケースが実際にあるのです。
このような事実を知ってもまだ皆さんは「熱が出て、身体がだるい状態=風邪」と自分で勝手に判断し、
薬剤師に相談もせずにドラッグストアで風邪薬を買ったり、病院に行かずに自宅療養で済ませようと思うでしょうか?
「ウィルスではなく細菌に感染?!」こんな症状が出たらすぐ病院へ
風邪を引き起こすウイルスと、細菌とは別物です。
ウイルスは、自分では増殖できません。
細胞に感染し、細胞の機能を利用して増殖します
一方の細菌は、私たちの生活の中のいたるところに存在し、
栄養と水がある環境であれば、どこでも増殖できます。
風邪はウイルス感染で起き、主な症状は「咳」「鼻水」「のどの痛み」の3つでした。
対する細菌感染の特徴は1つの場所で起こり、1つか2つの症状しか発生しないこと。
ここで、先ほど「風邪だと勘違いしがちな重い病気」の症状としてあげたものを振り返ってみましょう。
・軽い咳と少し呼吸が苦しい感じがする
・のどの周辺部が痛い
・だるさと微熱が長引く
・熱が出た
典型的な風邪の症状の定義にはどれも当てはまりません。
この場合は、風邪ウイルス以外の感染と細菌感染の可能性を考え、病院を受診しましょう。
「鼻水が止まらない」症状について知っておきたいこと
続いては、風邪の典型的な3つの症状の内、特に「鼻水」が強く出ている場合に
考えなくてはいけないことをお伝えします。
風邪症状の中でも、「くしゃみ」、「鼻水」、「鼻づまり」といった鼻の症状が
主なものである場合、重篤な疾患の可能性は低いと考えて良いでしょう。
鼻の感染症は、ウイルス性副鼻腔炎と呼ばれる鼻の奥の方の炎である場合がほとんどです。
感染症以外では、アレルギー性鼻炎、季節性鼻炎のどれかでしょう。
細菌感染の可能性はとても低い
鼻の症状が主な症状である場合に、一番注意しないといけないのが「細菌性副鼻腔炎」です。この場合は、病院を受診をして抗生剤で治療しないといけません。
しかし実際に細菌性である確率は0.5〜2%と言われ、かなり低くなっています。
鼻水と痰の色で細菌感染かの判断は難しい
「黄色から緑色のドロっとした粘性の鼻水と痰(膿性鼻水・膿性痰)が出た」が経験はありませんか。このような鼻水と痰は確かに細菌感染の指標にはなるのものの、
それだけでは細菌感染だとは明確に判断できません。
このような反応は、細菌だけでなくウイルス感染で異物が体に入っても起きるからです。
また、風邪が良くなってきている過程でも同様の症状が起きるためです。
自宅でも出来る、細菌感染の判断方法
「細菌性の鼻症状」かどうかを見極めるポイントのひとつは、鼻の症状に2つの波があるかどうかです。〈1つ目の症状の波〉
鼻水、咳、微熱が確認でき、3日くらいで改善に向かう
〈2つ目の症状の波〉
数日後に、再び鼻水が悪化して、高い発熱が起きる
このように2つの症状の波が見られる場合、
1つ目の症状の波はウイルス性、2つ目の症状の波が細菌性である可能が非常に高まります。
1つ目の症状の波で改善傾向にあった時に体が最も弱っていると、普段なら何も悪さもしない細菌に感染してしまいます。その結果、2つ目の症状の波が引き起こされ、いわゆる「風邪をこじらせた」状態になってしまうのです。
これらに加えて、細菌性の鼻症状かどうかを見極めるポイントには次のようなものがあります。
・頬の片方だけが痛い、腫れる、熱がある
・顔が圧迫されてる感じがする
・黄色から緑色のドロっとした粘性の鼻水、痰が出る
・鼻の横辺りを押すと痛い
・下を向くと頬が痛い
・上顎、上の歯が痛い
これらの幾つかが当てはまる場合は細菌性副鼻腔炎の可能性が高いため、すぐに病院を受診するようにしましょう。
特に、鼻周りや目の周辺に痛みや圧迫感がある時や上の歯が痛む時、細菌性の鼻症状である可能性が高いため、要注意です。
「のどが痛い」症状について知っておきたいこと
次に、風邪の典型的な3つの症状の内、特にのどが痛む場合に考えなくてはいけないことをお伝えいたします。
鼻の症状とは違って、「のどの痛みを風邪の症状と判断したために重篤な疾患や細菌感染症が見逃されてしまう」ケースはかなり多く、特に注意が必要です。
注意すべきのどの症状には、痛みやイガイガした感じなども含まれます。こちらも、ウイルス性なのか細菌性なのかに加えて、生死を左右するような重篤な疾患のサインなのかを見極めないといけません。「ただの『のどの痛み』が命取りになることがある」ことを知っておきましょう。
ツバや食べ物を飲み込んだ時の痛みの確認が重要
のどが痛む症状が、ツバや食べ物を飲み込んだ時に痛いかどうかを確認することが最も大切です。〈①ツバや食べ物を飲み込むと痛い場合〉
いわゆる「のどの痛み」である可能性が高まります。
→ツバや食べ物が浸みることなどで痛むため、のどの入り口や内部が痛い場合には、感染症の可能性が高い
〈②ツバや食べ物を飲み込んでも痛くない場合〉
実際は首のあたりが痛いのに、のどが痛いと勘違いしている可能性があります。
→続いて首のあたりを触っても痛みを感じないようであれば、それは「放散痛(※)」である可能性が高い
※「放散痛」とは、いずれかの内臓部分に病状がある場合に、そのサインを出すため、病状がある内臓とは全く無関係の箇所に痛みや炎症反応が起きること
②の場合、患者本人は「首、肩、顎、歯が痛い」と訴えているのに、実際にそれらの部位を触っても痛いと言わないときは心臓・血管の疾患の可能性、特に「心筋梗塞」の可能性が高まります。
心筋梗塞では、触っても痛くない「胸痛(胸の痛み)」の症状が見られることが多いものの例外が多く、上記であげた部位(首、肩、顎、歯)に痛みを感じる場合があります。
また、心筋梗塞でなくても、「放散痛」が突然強く現れるなら、それは臓器からのSOSのサインであるかもしれません。
鎮痛薬を飲んで対処するのではなく、すぐ病院を受診するようにしましょう。
「Centorの診断基準」で細菌感染か判断できる
「のどの痛み」のほとんどはウイルス性咽頭炎で、風邪の主症状の一つです。細菌性咽頭炎と呼ばれる細菌感染症である確率は10%未満ですが、その可能性は把握しておく必要があります。
細菌性咽頭炎の中でも「A群溶連菌性咽頭炎」は、病院の受診が必要となるのどの痛みの代表です。
「A群溶連菌性咽頭炎」かを見極めるツールには、「Centorの診断基準」というものがあります。
【Centorの診断基準】
・38℃以上の発熱
・首筋を押すと痛い(圧痛を伴う前頸部リンパ節腫脹)
・のどの奥の発赤と白い苔(白苔を伴う扁桃の発赤)
・咳がない
・15歳未満、45歳を超える
上の基準のうち2つ以上が当てはまれば、A群溶連菌性咽頭炎の可能性はかなり高まります。
特にのどの奥に白い苔がある場合は、他に症状が出ていなくても細菌感染の可能性が高いため、病院の受診をおすすめします。
実際は、この「Centorの診断基準」だけでは、10〜20%の患者さんで見逃しがあると言われています。
そのため、次のようなポイントも合わせて確認して、判断の精度を上げることが重要です。
ポイント1「症状が多いかどうか」
繰り返しになりますが、細菌性の感染では幅広い症状が出ることはありません。
逆に、ウイルス性の感染では鼻水・咳・のどの痛みといろんな症状が出やすいという法則を覚えておきましょう。
ポイント2「のどの痛みが強さはどうか」
食事で食べ物を飲み込んでいても痛みが麻痺することなく改善しないのが細菌性の感染、
いつの間にか痛みがなくなっているのがウイルス性の感染です。
重篤な病気の際の、のどの痛みとは?
のどが痛いと患者が訴えても、実際にはのどの痛みに関係する症状が見られない場合があります。症状の強さに関係なく、
・突然、ご飯が食べれないほど、のどが痛む
・突然、口が大きく開けられなくなった
・突然、呼吸が苦しくなった
こんな症状が見られる時はすぐに救急車を呼ぶか、病院での受診を急いでください。
最悪の場合、心臓や血管の疾患である大動脈解離、心筋梗塞、狭心症、くも膜下出血の可能性があります。
その際は既に挙げたように、ツバを飲み込んだり食事をしているうちに痛みがあるのか、痛みが消えていくのかで、
細菌性かウイルス性かを判断し、細菌性と思われる場合はCentorの診断基準もチェックしてから病院を受診しましょう。
最後に
今回は、風邪と考えられる症状がでた場合に自宅療養を選ぶべきか、または受診をすべきかの境界線についてお伝えしてきましたが、必要以上に検査をしたり、不要な治療を受けたり、薬の飲んだりすることを推奨する気は全くありません。同時に、素人判断でよからぬ事態を招かないためにも、今回ご紹介した内容をぜひ、頭に入れておいていただきたいと思います。
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