I・K・U 青山(閉店)
青山、表参道駅から徒歩7分の立地に、自然栽培の野菜をメニューに使うことによって、農家や生産者を買い支えるという大きなテーマに挑戦する新しいレストランが今秋オープンしました。
こちらのお店では、調味料には白味噌や葛、発酵食品など日本の食材をふんだんに使い、これまでの洋食の常識を覆すヘルスコンシャスでクリエイティブな料理を提供しています。
3ヶ月前、開店した美しい佇まいのレストランの名前は「I・K・U青山」。
今回は「I・K・U青山」さんに、実際に足を運び、特別にフードプロデューサーの藤田さんにお願いし「マクロビオティック対応=動物性食材・白砂糖不使用」でディナーをご用意していただきました。
取材に応じてくれた藤田さん
食事を楽しみながら、お店のこだわりや立ち上げの背景についても余すところなく訊いてまいりましたので、インタビューと共に素敵なお料理をご紹介していきたいと思います。
※下記は藤田 承紀さんとのインタビューです。
I・K・U青山のコンセプトを教えてもらえますか?
実は一言では言えないんです。イタリアンでもフレンチでも和食でもない。強いて言うならI・K・Uスタイルというところでしょうか。
要となっているのは「素晴らしい食材をつくる生産者を買い支えよう」というコンセプトと「満足感はあるけど重たくない料理」がテーマです。
店内
I・K・U青山の立ち上げの背景、また出会いにはどんな経緯があったのですか?
オーナーの村田は、家族揃って健康志向なんです。例えば室内の壁紙を自然のものに張り替えたり、食べ物も添加物や身体によくないものを抜いたりするなど、とにかく徹底したライフスタイルを築いていました。
彼は元々ガリバーの副社長で、その後コンサルティング会社の立ち上げを行うという経歴を経ているのですが、以前から飲食業に関心を持っていました。
そんな彼との出会いは知人を介しての紹介。
ある機会に恵まれ、このI・K・U青山をプロデュースするに至りました。
食前酒代わりに三種類のコールドプレスが登場。
毎日二時間かけて専用のジューサーで絞るそう。
ある機会とはどんな機会だったんですか?
僕は元々ダンサーで、今も現役でダンスを教えているのですが、以前ケガをしまして。それである日突然踊れなくなってしまったんです。
「手術しないと治らない」ってどの病院にも言われて。
手術予定の前々日、ある先生から「食生活を変えてちゃんと寝ていれば、治るよ。」と。
「無理だったら手術という手を選べばいいんじゃない。」という言葉をもらったんです。
その先生の言葉がきっかけで食に対して意識するようになりました。
結果的に、手術せずに三か月で治ってしまいました。
サラダが出てきました。栄養分たっぷりのお野菜。
手術せずに・・。食の力も借りて、体の自然治癒力が高まったんですね。怪我から今に至った背景は?
ダンスという引き出しがなくなってしまい、父がイタリア関連の会社をやっていたという背景もあり、イタリアという地にリハビリもかねて自然の成り行きで行くことになりました。はじめはぶらりと各地を見て周るという目的だったのですが、現地の人達が「食べることを心から楽しんでいる姿」を見て、本当に衝撃を受けて。
食がとても美味しくて、そこで食に目覚めたんです。
スープ。丁寧で繊細な味わい。和の食材を利用しているそうです。
ケガがきっかけでイタリアへ旅立ち、料理へ目覚める。
スゴイ運命的な展開ですね。
感動した僕は、後日イタリアへ料理のために留学をし、色々と1から勉強しました。そして改めて食材の大切さに気が付いたんです。
料理って基本的に、分からないものは使わないんですよ。
例えば、塩なら塩、ワインなら葡萄から採れたとか、見たら大体わかるじゃないですか。
でも加工食品等に使われている原材料に書かれている化学調味料とかって、見ても全く何なのか分からない。
日本に帰ってそうした加工食品や添加物の入った食品を目の当たりにした時「なんだこれ?」と思いまして。
それもあって、まずは良い食材だと思い、行きついたのが農業でした。
はじめは自然農からスタートしたのですが、これがなかなか上手くいかず、二年目に有機農法を学ぶようになりました。
そこで野菜の作り方をしっかりと学び、一通り出荷もできるようになったんですが、そのうち「肥料を使わなくても作れるんじゃないか」と思うようになりまして、結果的に肥料を使わなくなりました。
そこでたどり着いたのが「自然栽培」でした。
リゾット。レモン、白味噌、昆布出汁、カボチャ、16穀米、アーモンド、を使用しているそう。
ケガをきっかけに、料理の勉強、そして最後は野菜を作っちゃうというある意味オーガニックの王道?職人パターンですね(笑)
VEGANに対しての知識もあるのはなぜですか?
実は妻がVEGANだったこともあり、その影響で僕もその手の色んな知識が身についたんです。食卓を囲むなら、やっぱり一緒のものを食べたいなっていう気持ちがありまして。
日本だと外食するにもVEGANの人と一緒に楽しめるお店という観点で見ると、結構難しいじゃないですか。
VEGAN対応でお願いしますというと、「チーズを抜いただけ」など、つい工夫のない料理になってしまいがちなところも多い。
旬の野菜をふんだんに使ったグリル。
肉や乳製品を抜くと、野菜だけの味気ない料理になりがちですよね。
はい。そこで僕が料理をする時は、VEGANであっても、なるべくコクを出すために、味噌、醤油、昆布出汁、シイタケの出汁、ポルチーニ出汁、ドライトマトマトを使うなど色々工夫をするようになりました。I・K・U青山は、決してマクロビオティックやヴィーガンのお店ではないので、メニューに肉や魚等も使用していますが、使う食材全般にこだわっており、野菜や調味料については、極力ナチュラルハーモニーさんのものを使っています。
本場のテクニックを活かし、ヘルシーな料理であっても味気ないものではなく、満足感のあるものを提供したいと考えています。
お口直しのグラニテ。
どんな方向けのお店にしていきたいですか?
完全なヴィーガンや100%マクロビオティックの方向けというよりは、自分の口に入るものがどんなモノなのか知りたいと思う様な「食と健康」に興味がある人向けに想いを伝えていきたいなと。日本ってまだオーガニック農業の割合が非常に低くて、そもそもオーガニック一つとっても全く興味のない0の人か、完璧に実践する10の人かみたいな状況で、極端な傾向にあると思うんです。それを変えたいですね。
以前、オーガニック農法が全農業の20%以上を占めるスウェーデンに行った際に、気づいたことがあります。
日本だとスーパーではオーガニックコーナーが隔離されていて、片隅にほんの少しだけ設置されていると思うんですが、スウェーデンだと、スーパーでオーガニックと普通の商品が混ざっているんです。
日本人が100人に1人オーガニックに興味があるとすれば、スウェーデンの人は100人の人が少しずつそうしたものに興味があるように感じました。オーガニックという選択が気軽にできる国だなと。
既に10の人たちよりも、現時点ではゼロでもこれから1になる人たちを増やしたい。
1の人が増えれば自然と2,3とステップアップしていくはずですからね。
トリュフをふんだんに使ったキノコのフリット。キノコずくしです。
レストランにおいての藤田さんの役割は何ですか?
僕はフードプロデュースを手掛けています。また、オーナーの想いと現場にいるシェフをつなぐ役割が出来ればと考えています。
そしてその想いを、お客様にもお伝えしていきたいと思っています。
料理もされるんですよね?
はい。まだ準備が整っていないので予定ですがヴィーガン対応のお客様が来た時の調理の対応もする予定ですし手が足りない時は、調理もします。
あとは料理説明のための台本作りや原価計算等もしています。
調理と言う面では有名フレンチ出身の信頼出来るシェフがいます。
デザート
9月1日からオープンされたということですが、3か月たってみて、何か変化は?
一番変わったなと思うのは現場ですね。元々ヴィーガン料理に対して経験のないシェフだったのですが、こちらの要望で生クリームや白砂糖、添加物を使わないで作ってほしい、とか色々細かい要求をしていたんです。
でも、やっぱりフレンチ出身だとそういったものを使わずに作る料理には不慣れなところはありまして。
むしろ洋食系は動物性食材ありきですもんね。
ところが、やりとりを続けるうちに、ある時シェフが自ら「豆乳とかんきつ類のソース」を出してくるなど、現場の中でも大きな変化を感じるタイミングが三か月の間、何度かありました。それが驚いた点ですね。こだわりのcoffeeと共に、スーパーフードを使ったクッキーと、砂糖不使用のフランスのチョコレート。
藤田さんご自身はこれまでマクロビオティックやVEGANのための特殊な食材を使う料理を学ばれていたんですか?
僕は元々イタリア料理を学んでいたので、以前は和食材をイタリアンに使うのに抵抗がありました。なんというか、その料理を作り出した先人達に申し訳ないなって。
ですが以前ローマに訪れた時、あるヴィーガンの店に行ったら、それが凄い美味しくて。
豆腐のティラミスとか普通に出てくるんですよ。
それも豆腐も、大豆を煮てというところから作っていたりと、かなり本格的で。
その時考えたんです。その人たちってわざわざ日本のものを使おうとしているんじゃなくて、たどり着いたのがたまたま和だっただけなんじゃないかって。
これがきっかけで和の食材のすばらしさに気づきました。
干しシイタケだったり、昆布だったり、ここ=日本にしかない食材があるんだと。
そこからはイタリアンであっても積極的に日本の食材も取り入れるようになりましたね。
お店のこだわりについて教えて下さい。
ワインのペアリングと共に、ノンアルコールでオーガニックジュースのペアリングも提供しています。また、通常メニューにおいても生クリームやバターを控えたメニューを展開しています。王道のメニューを王道ではない材料で作る、ということに挑戦しているんです。当店ではバターを使っているように見えるものでも使っていなかったりする。
例えば一見普通のカルボナーラであっても、乳製品をなるべく使わず、白味噌と豆乳のみで仕上げる等、工夫をしています。
その他、お酒を煮詰めて葛でとろみを出すなど「和」の食材も積極的に使用しています。
あと、白味噌にも甘さを出すために水飴を添加した味噌もあるのですが、調味料ひとつでもちゃんと発酵しているものを使うなど、食材にもこだわっています。
今後は現場のプロのテクニックとマクロビオティック等に代表される食材知識の融合もしていきたいと思っています。
同ビルの屋上には流行りのグランピングエリア「GLAMPING I・K・U 青山」が。
暖房設備も整っており、暖まりながらアウトドア気分でディナーを楽しめる。
I・K・U青山が大事にしていることは何ですか?
第一には「美味しい」ということ。優れた料理は決して誰か一人のためのものではなく、皆が食べて美味しいと思えるものだと思っています。
美味しいヴィーガン料理ならヴィーガンの人じゃなくても全員食べて美味しいと感じるはずです。
第二に、きちんと料理を出すこと。
レストランでは「品切れなのでごめんなさい。」とかは通用しない。
頑なに自然栽培でやるだけでなく、きちんとまわせる仕組みを作っています。
それから第三に生産者を買い支えること。
レストランフロアとは違ったオトナな雰囲気が堪能できる。
目標は?
オーナーは今後、これまでのガリバーでの経験を活かし、色々なシリーズで多店舗展開する予定です。オーナー村田育夫さん
甲斐シェフ
INYOUへのメッセージ
I・K・U青山では、「食べて健康になる料理」をご提案しています。リピートされる方の中には「あんなに沢山食べたのに次の日全然もたれなかった」、「お肌もつやつやです」等。
当店は肉魚、チーズも出していますが量はあえてだしません。
ヴィーガンやマクロビオティックじゃなくてもヘルシー志向で、沢山は食べたくないけど、少しだけ食べようかなって人にもおすすめできますよ。
是非食べにいらしてください。
マクロビオティックやヴィーガンなどの対応はクリスマス前等繁忙期は応相談となりますが、お問い合わせの際にお気軽にご相談くださいね。
最後に
I・K・U青山は、まるで森や湖のほとりを思わせるようなナチュラルなつくりでありながら、日常生活を一瞬忘れるような落ち着いたラグジュアリー感もある、2つの要素を兼ね備えた空間でした。
お伺いした通り、食器や壁の柱ひとつひとつがそこにあるのに、決して意識をしない、でもよく見るととても上質でこだわっている。
そんな自然な存在感がありました。
お料理の味や盛り付けも写真を見ていただければわかるように、繊細で丁寧につくられています。
野菜のひとつひとつの味や本物の調味料の味が活きている、シンプルだけど美しい。
そこにはオーナーの村田さんや藤田さんのこだわり、そしてそれを体現するシェフの存在を感じます。
ボリュームは女性ならちょうど良いくらいの量ではないかと思います。
※今回は野菜のみのコースですが、動物性食材ありのコースであればボリューム感は多少異なるかと思います。
取材に応じてくれた藤田さんは、現在ダンス・コーチをしながら、レストランのプロデュース、調理、サービス、さらには畑で野菜を作り、料理教室を開くなどオールマイティに活躍をされる、熱くアグレッシブな人。
食のトレンドマガジン「ELLE a table エルアターブル」が企画するコンテストで優勝したという経歴からも、非常に多彩な藤田さん。
そんな彼が語ってくれたエピソードの中でも印象的だったのはダンス・スクールでのエピソード。
教え子である子供たちが、ある日昼食にチョコレ―ト菓子だけを持ってきて、コンビニ弁当ですらないという信じられない情景を見て愕然としたと言う藤田さんは「レストランだけでは家庭の食生活までは変えられない」と思い、畑で採れた自然の野菜をそのまま調理する独自のスクールなども手掛けているのだそう。
また、今回最も驚いたのはその、引き出しの多さ。
この手のマニアックな質問に対してマトモに応えられる方は業界においても非常に少ない中、1の質問をしたら10くらい返ってくるという、まるで宝箱をひっくり返したようなインタビューができました。
本当に良いものは何か?オーガニックである理由はどこにあるのか?健康とは何か?
そうしたことを一つ一つ伝え、知恵のある消費者(読者)を増やし、日本や世界をより良くしていきたいと考えている私、そして当ウェブマガジンIN YOUとやり方や伝え方は違えど、目指している先は、ほとんど同じなのではないかと心から感じました。
彼の夢のひとつに、ヴィーガンやマクロビオティックなどにも知見のある料理人、そしてそれを伝えることのできるサービスをもっと増やしていきたいという想いがあるそうです。
それが実現されたこの世界では、きっと美味しいものや美しい物を通じて自然と良い物が広がるという理想的な構造が出来上がることでしょう。
インタビュアー/編集担当:IN YOU 公式エディター 松浦 愛
取材協力:I・K・U青山 藤田 承紀さん
I・K・U青山ホームページ
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