えっ農薬でタネを消毒!?ほとんどの人が知らない新たな落とし穴。農薬のことは気にしても「種子消毒」までは議論にならない日本。ヨーロッパでは種子も有機認証の対象に。
最近は、春らしく暖かい日が増えてきましたね。
これから夏に向けて農作業は徐々に忙しくなっていきます。
今日は天気が良かったので、ほうれん草の種蒔きを行いました。
今回は、そんな種に関わる重要な話題を皆さんにお伝えしたいと思います。
さて、 IN YOUの読者の皆さんは、農薬や化学肥料を避けて、安全性の高い野菜を購入しているのではないでしょうか。
そんな消費者の為に定められた規格が、有機JAS制度(日本農林規格)です。皆さんもご存知ですよね。
「有機」「減農薬」等の表示が濫用されないよう定められた認定制度です。
日本の有機JAS制度
現在、日本で生産された農産物は、有機JAS認証を取得した農家だけが「オーガニック」「有機」などの表示を行うことが許可されています。この認証を得るには、一定の基準を満たしていることが求められ、第3者機関が検査、認証を行っています。
種子消毒、本当に安全?農家としての不安。
慣行栽培を行う農業法人から、有機農家に転職した後も安全性への不安は続いた
ところで私が最初に勤務した農業法人では、慣行栽培で野菜を栽培していました。
当時から農薬の安全性に疑問を感じ、除草剤を散布する時は、健康被害への不安を感じました。
有機JAS認証を取得した農業法人への転職を果たした時は、正直「ホッ」としました。
ですが、転職して3ヶ月ほど経過した頃、新たな疑問を抱きました。
それは「種」のことです。
種には、主に病原菌の繁殖予防を目的とした「種子消毒」を施したものがあります。
ある時私は、種子消毒を施し着色された種を蒔きながら、安全性が気になりました。
種子消毒の規定が曖昧な有機JAS制度。
日本の種は安全管理が徹底されていない。消毒されたタネが撒かれているケースも。
日本の有機JAS規格では、種についてはどのような定められているのでしょうか。
原則的には規格に基づいた種を蒔くことが定められていますが、
それらの種が入手困難な場合は、消毒した種を蒔くことが認められています。
平成29年6月時点の農水省「有機農産物及び有機加工食品のJAS規格のQ&A」では「は種又は植付け後にほ場で持続的効果を示す化学的に合成された肥料及び農薬が使用されていないもの」を使用するように規定されています。
ですが、この「持続的効果を示す農薬」の判断基準は、明確には示されていません。また次のような但し書きが加えられています。
「種子消毒は、は種又は植付け後にほ場で持続的効果を示す農薬には該当しません。」
有機JAS認証は、種に関して、極めて曖昧な基準で運営されています。
輸入種子から検出された農薬が人体に与える影響
人間の脳にも危険な影響が!?
種子消毒は、粉状の農薬を吹き付けたり、液体に漬けるなどして行われます。
EUが2013年にミツバチへの影響を懸念し2年間使用禁止にしたネオニコチノイド系殺虫剤「イミダクロプリド」も登録されています。
「イミダクロプリド」は、種子消毒に使用されている農薬で、
パラグアイやブルキナファソ、タンザニアから輸入されたゴマの種子から検出されています。
EUの欧州食品安全機関は、2013年12月に「イミダクロプリド」に関して「人間の神経や脳に影響を与える可能性がある」として、摂取許容量を引き下げる必要性を訴えています。
種子消毒による土壌汚染
大豆から検出されたネオニコチノイド
日本では一般的に「種子消毒など微量の農薬であれば、土壌汚染には影響与えない」とされています。
ですが環境省にが平成22年から2年間実施した種子処理剤の残留濃度調査では、大豆種子1kgあたり1,800mgのネオニコチノイド系殺虫剤が、出芽時で36.0g残留していました。
一般的に使用されているチラウムなども2桁の残留濃度を示していました。
参考:西川芳昭編集「種から種へつなぐ」
辻万千子著第5章「本当のことはわからない種子消毒とブラックボックスの輸入種子」
微生物の大切な役割
植物は、根の周りに微生物の集まりである菌根を作ることで、病原菌から守られます。また菌根には、日照りが続いても、水持ちを良くしたり、水害で流されるのを防止する働きがあります。
化学肥料や農薬を投入することにより、微生物の働きは不活性化し、土は痩せ衰えてしまいます。
EUのネオニコチノイド系農薬禁止と有機認証
種子消毒によるミツバチへの影響を認めたEU
欧州食品安全機関は2013年からのネオニコチノイド系農薬であるイミダクロプリドとクロチアニジン、
チアメトキサムの3種類について使用を制限しました。2年間の暫定措置としていましたが、ミツバチに対する影響が深刻であるという再評価の元に、現在も使用制限は継続しています。
また種子に対しても、有機認証制度を設けて、有機種子生産者のデータベース化や増産に取り組んでいます。
農薬なしでは成立しない方向に進む日本の種産業
鉄でコーティングされた稲籾!?
一方、日本で農産物の安全性を帯びやす事態は種子消毒にとどまりません。
近年は新しい技術が次々と導入され、
鉄コーティングを施した種籾まで誕生しています。
通常、稲は籾を育苗箱に蒔き、生育した苗で田植えを行います。
鉄コーティングでは、これらの作業は行われません。
種籾を一定期間水につけ、発芽する前に鉄粉でコーティングし、水田に直蒔きします。長期保存や、鳥害の減少、省力化などのメリットが謳われる反面、除草剤の散布が必要となります。
日本の種に関する技術は、農薬なしで成立しなくなりつつあるのです。
ますます農薬による人体や環境への影響が懸念される事態が拡大していくことが予測されます。
危機的な状況を迎えている日本の種子を取り巻く状況に対して、私たちができることはなんでしょうか。
今タネが危ない。
私たち一般人ができることは何?
家庭菜園で安全な種の野菜を育てる
小規模で営利を目的としない家庭菜園ならば、種子消毒していない種で野菜を育てやすいです。
また家庭菜園で種を利用する時は、必ず袋の表記を確認して購入しましょう。
袋には種子消毒に用いられた農薬が表記されています。
種子消毒が行われていない種子を選ぶようにしましょう。ヨーロッパ有機認証を取得した種であれば、より安心です。
海外の大都市では既に始まっている「食料自給」の動き。どんな狭いスペースでもできる菜園作りのすすめ。崩壊の一途をたどる現代の「食システム」から脱出しよう。
以下の団体で、種子消毒を行っていない種が頒布されています。
◆公益財団法人自然農法国際研究開発センター
シードバンクを利用する。
シードバンクとは購入して余った固定種や在来種の種、自家採種した種を、道の駅やカフェなどに預け、必要な人が自由に持ち帰ることが出来るシステムです。このような種を分け合う取組みが、近年、日本で各地で行われています。
ブラジル・シードセイバーズネットワークの取組み
ブラジルでは、政府支援によるシードバンクの設置や、農民の手によって種子交換会などの取り組みが積極的に行われています。またオーストラリアでは1986年に「シードセイバーズネットワーク」という団体が設立され、
2008年までにオーストラリア各地に伝わってきた多くの種が登録されています。
またシードセイバーズネットワークが発行した種採りのガイドブックは、日本語に翻訳され「自家採種ハンドブック」として販売されています。日本版では国内の野菜の種の採取方法が掲載されています。
こうした自家採種の種をシェアすることで、種子消毒されていな安全な種を入手することができます。
◆シードバンクネットワーク
信州・安曇野市にあるゲストハウス「シャンティクティ」を経営する臼井健二さんが立ち上げたFACEBOOKコミュニュティです。「シャンクティティ」の敷地内にある貯蔵庫「安曇野たねバンク」には、常時約100種類の種が保管されています。臼井さんは、2012年から2ヶ月に1度、種の交換会「安曇野たねカフェ」を開催しています。参加費はドネーションなので、気軽に参加できます。
化学物質に依存した農業の未来は
私たちは、多くの野菜や果物を摂取することで身体を維持しています。
野菜が育つために一番重要な役割を果たすのが「種」です。
私たちの身体は、種なしに生きていくことができません。
その種の消毒に使用されているのは、農薬です。
農薬や化学肥料は、戦争の為に軍事目的で開発された技術を応用して生まれたものが、数多く存在します。
戦争で用いられた科学技術の多くは、土地を汚染し、人体に深刻な影響を及ぼしてきました。
本来、自然の生態系に存在しない物質に頼る農業の未来が、どのようなものになるのか。
それを防ぐために自分にできることは何か。
私は今日も、一粒の「種」を蒔きながら、思いを巡らせています。
オーガニック食品やコスメをお得に買えるオーガニックストアIN YOU Market
IN YOU Marketあなたは、今日どんな食材を選びますか?
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