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コーヒー豆の絶滅危機に立ち向かうゲノム編集技術。社会・環境問題をおざなりにした対策は解決策になりません。コーヒーを愛するライターがお伝えする最新情報【前編】

コーヒー豆の絶滅危機に立ち向かうゲノム編集技術。社会・環境問題をおざなりにした対策は解決策と言えるのか?コーヒーを愛するライターがお伝えする最新情報・前編


コーヒーを飲むメリット・デメリットは諸説あり、これまでIN YOUジャーナルでもコーヒーの効果について皆様にお伝えしてまいりました。

消費量は年々右肩上がり、今後もコーヒーの需要は加速すると言われています。

けれども、今コーヒー豆は絶滅危惧種に認定されているのです。

野生種のコーヒー豆5分の3は、絶滅の危険性があると警告されています。 

既にご存知の通り、美味しいコーヒー豆が世界から消えるという「コーヒー2050年問題」です。


・世界で愛飲されているコーヒーは、近い将来消えてしまうのか。

・なぜ多くのコーヒー豆は絶滅危惧種に指定されているのか。

・絶滅につながる要因を放置しておくと、私たちの生活にどう影響が出てくるのか。

上記の問題を取り上げ、コーヒーを絶滅させないために私たちにできる対策を考えていきましょう。

この記事では、コーヒー豆がなぜ危機的状況にあるのか、前編と後編の2部構成にて詳しく解説してまいります。

(次回の後編では、栽培だけではない、私たちの身の回りにある安くて気軽に飲めてしまうコーヒーの危険性をお話します)

絶滅が危惧されるコーヒー豆

右肩上がりのコーヒー消費量



現在は「コーヒー消費時代」と言われています。

全日本コーヒー協会によると、2018/19年度の世界のコーヒー消費量は、前年比2.1%増加、2019年国内消費量も高水準維持を示しました。(※)

さらに2020年は、外出自粛やリモートワークにより在宅時間が増え、国内におけるコーヒー消費量は右肩上がりです。

このように消費量が増え続けているコーヒーですが、ある問題に直面しています。

近い将来コーヒーが飲めなくなる日が来るというコーヒー2050年問題です。
★コーヒーが飲めない日がやってくる!? コーヒーの裏側から美味しい淹れ方まで。コーヒーから考える私たちの世界と暮らし

そんなの嘘でしょ?と思われるかもしれません。

しかしながら、世界で栽培される野生種のコーヒー豆の6割が絶滅の危機にあると、科学者により警告されています。

研究機関ワールド・コーヒー・リサーチ(WCR)の報告によると、コーヒー生産の6割を占める「アラビカ種」を栽培するために適した土地が、2050年に半減すると指摘されています。

世界のコーヒー豆が絶滅危惧種



イギリスの研究チームは、絶滅の危険性があるコーヒー豆は124種あると発表。

うち75種類が現在絶滅の危機にさらされ、13種は絶滅寸前と判断しました。

世界のコーヒー総生産のうち7割以上を占めるアラビカ種コーヒーは、絶滅危機に指定されています。

世界のコーヒーは、アラビカ種とロブスタ種のたった2種類に依存しているという報告もありますから、そのようなメインの豆が消えてしまったらコーヒーを飲めなくなるというのは、決して大げさな話ではありません。

絶滅が危惧されているアラビカ種は香りや味に評価が高く、コーヒー愛飲家の中でも人気の豆です。

その一方、気温や湿度に非常にデリケートなので、気候変動によって病気になり、栽培ができなくなるリスクも背負っています。

絶滅の背景その1「さび菌」。原因は地球温暖化による気候変動



では、なぜ野生種のコーヒー豆が絶滅の危機にさらされるのでしょうか。

その原因はコーヒーの木に繁殖する「さび菌」です。 

こうしたさび菌が発生する元凶は、気候変動です。

コーヒー豆は主にブラジル、中南米、東南アジアやアフリカ諸国といった赤道近辺の熱帯地域で栽培されます。

ここ数年栽培地域は気候変動の影響で雨量が多く、光合成を妨げられたコーヒーの木はさび菌が大量に繁殖し枯死に至っています。

コーヒーの木はとても繊細な植物です。

降水量が多ければさび菌にみまわれ、逆に雨がなければ干ばつで枯れてしまいます。

どちらか一方の状態が続けばコーヒーの木は存続が難しくなります。(※)


ではなぜこのような不安定で極端な気候変動が起こるのでしょうか。

それは海面上昇によるエルニーニョ ラニーニャ現象の影響です。



地球温暖化によって海面温度が高くなるのがエルニーニョ現象。

逆に、海面温度が低い状態が続くのがラニーニャ現象です。

どちらの現象に陥ってもその状態が1年間続くと言われ、さらに積乱雲を発生させます。(※)

コーヒー栽培地に大量の雨を降らせ、さび菌の繁殖を促します。

絶滅を防ぐために研究されたコーヒー豆のゲノム編集の安全基準は大丈夫?



コーヒー生産が6割減ることからコーヒー業界は様々な対策を試みています。

それが2017年に解禁されたゲノム編集です。(※)

ゲノムとは、生物の持つ遺伝子情報を指す言葉です。

ゲノム編集とは、DNA配列の特定部分のみを狙って変える技術です。

配列を変える方法は、酵素で狙って切るという方法が主流ですが、最近では切らずに配列のみを書き換えるという方法もあります。

コーヒー豆の場合、豆の持っている環境耐性、栄養成分、味に関わる遺伝子をピンポイントで変化させることで、環境に合わせたコーヒー豆を作ることが可能になります。

こう聞くと、コーヒーが世界から消えることはないから安心では?と思われるかもしれません。

確かにゲノム編集は従来の品質改良に比べると大きなメリットがあります。

従来の品質改良は化学物質や放射線に種をさらし、DNAを変異させていました。

従来の品質改良はとても長い時間を要するのに対し、ゲノム編集であれば最短で1年から商用栽培になるものもあり、時間と労力の削減という面では非常に大きなメリットがあると言えます。

ただし、ゲノム編集にはまだまだ国の制度が不十分であることも注意しなければなりません。

ゲノム編集食品を販売する場合、現段階では国への届け出に関しても義務化されていないとのことです。

DNA配列を切ったあとの突然変異は自然界の出来事によるため国による安全性審査がなく、事業者に委ねられることになります。

従来の遺伝子操作とは異なると言えども、人為的に改良されているということは念頭に置く必要があるのです。


これまでゲノム編集についてはIN YOUでも繰り返しお伝えしてきましたが、「まだ実際に異常気象でも栽培できるコーヒー豆が存在するわけじゃないから」と、自分事に感じられない方も多いかもしれません。

しかし、海外ではすでに「カフェインレスのコーヒー豆」を作り出すことに成功しているのです。(※)

これまでのように、コストがかかる上に味や風味・栄養価が落ちてしまうデカフェの技術よりも、「そもそもカフェインがない(あるいは少ない)コーヒー豆」の方がコスト面でも味や栄養面でもメリットがあるように思えますよね。

もしもこのコーヒー豆が販売されれば、飛びつく消費者は多いと考えられます。

気候変動でも同じことが言え、従来のコーヒー豆の収穫が激減して価格が高騰すれば、安定的に収穫出来て価格も安定したゲノム編集コーヒー豆の方が重宝されることは想像に難くありません。

結局は私たち消費者が何を選択するかによって未来が決まってしまうのです。


→ゲノム編集についてもっと詳しく知りたい方はこちらも参考にしてくださいね。
★日本に到来の「ゲノム編集食品」とは何か。遺伝子「組み替え」でなければ表示義務はない?

【参考】
『遺伝子組み換えとゲノム編集』
『ゲノム編集食品の安全性、どう考える?』


環境問題・社会問題を放置すればコーヒーを飲む私たちの生活はどうなる?

気候変動とコーヒー栽培の関係



気候変動がもたらすコーヒー栽培へ影響は前述の通りですが、そういった特異な気候変動は、私たちが排出する温室効果ガス排出量の増加で起きているものなのです。(※)

コーヒー産地コロンビアは1980年ごろから平均気温が1.2度上昇しています。

コーヒー栽培には最適な標高というものがあります。

地球温暖化の影響でコーヒー栽培に適した標高がどんどん押し上げられ、低い標高の農家の場合、良質な豆は育ちません。

コロンビアのコーヒーは世界で最も高品質だと愛されてきました。

しかし気候変動のせいでコーヒーの品質低下に加え、栽培に適した土地が2050年に50%減ると予測されています。

私たちが気候変動を人為的に左右し、それがコーヒー栽培に悪影響が出て、美味しいコーヒーが飲めなくなることにつながります。

コーヒー栽培における社会問題



社会問題となっている世界の児童労働ですが、IN YOUジャーナルでもこれまで世界の児童労働についてお伝えして参りました。

我々の暮らす日本、決して関わりのない話ではありません。

日本の産業とも深く繋がっているのです。

世界では1億6800万人のこどもたちが児童労働を余儀なくされていると言われています。

わかりやすくお伝えすると、2020年時点の日本の人口は1億2671万人なので、日本の人口よりも多いということがわかります。

児童労働は、本当に誰の目にも触れられないことが多く、もっと多くのこどもたちが働いている可能性もあります。

皆さんもよくご存知の大手コーヒーチェーンのコーヒー豆・グアテマラ産は、8歳のこどもたちが収穫作業に従事していたという事実が発覚しました。(※)

1日8時間、週6日働いて、最低賃金が時給42円の日もあったという話です。

調査結果では、一杯のコーヒー345円に対し、農家に届くお金はわずか1.38円です。

先ほどお伝えした気候変動が続くと、コーヒー栽培に適した土地を維持するお金が必要です。

しかし貧困の中で暮らす農家は、気候変動に対処できません。

公正な取引が行われない限り、コーヒー文化が終わりを迎える可能性も出てくるのです。



また児童労働の問題は、十分な教育を受けられないというこども時代を奪うだけでなく、将来どうなりたいかという夢も完全に奪います。

目の前にある現実をただ受け入れるしか選択肢がない。

人としての権利を奪われてしまう、それが児童労働の問題です。

しかし、そうさせているのが、大量に安いコーヒー豆を作るコーヒー業界と、安さを求める消費者なのかもしれません。

適正な価格で取引されるフェアトレードコーヒーを求めることが、私たちにできることです。


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コーヒーサプライチェーンを守るための世界の取り組み

コーヒーサプライチェーンを持続可能なものにするため、環境保護団体を含むNGOが自然環境やコーヒー生産者、流通に関わる人々を守る活動をおこなっています。

生産地域の自然環境の保護、減農薬・無農薬、生産者の収入安定、金銭の透明性、コーヒー農園の人権保護、生活環境の改善、トレーサビリティの確保についてコーヒー産業に携わる団体に推進しています。

◆日本サステイナブルコーヒー協会

コーヒー豆を守るために私たちができること。選ぶ基準は、「サスティナビリティ」

環境保全に貢献しているコーヒーかどうか



「コーヒーを飲むと、絶滅危惧種が守れる」というプロジェクトを開催している団体があります。

日本自然保護協会では、2020年3月にカフェの協力を得ながらコーヒーズープロジェクトを開催しました。(※)

カフェやバリスタと協力し、コーヒー代金の一部が国際自然保護連合日本委員会を通じて、日本自然保護協会をはじめ絶滅危惧種を守る活動をしている団体へ寄付されます。

一杯のコーヒーが絶滅危惧種を守るという貢献につながります。


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オーガニック認証だけでは不十分。フェアトレードであるかどうか



オーガニック認証を受けていても、早く安くを優先させて農家の負担を増やしては持続可能とは言えませんよね。

認証に加え、フェアトレードであるコーヒー豆を選ぶことをおすすめします。(※)

美味しいコーヒー豆を絶滅させないためには消費者の賢い選択が不可欠!



以前お伝えした私のオーガニックコットンの記事では、これからは「ビジョンやミッションを買う時代」とお伝えしました。
★オーガニックコットンと従来のコットンってこんなにも違うの?今すぐあなたのファッションの価値観が変わる6つのポイント

コーヒーも同じく、経済的、倫理的、精神的、社会的、環境的にサスティナブルでなくてはなりません。

お金を使うことは、心の豊かさを手に入れることにつながります。

「企業がどういった考えを持って商品を提供しているか」を知って消費をすることで、はじめてお金を使う価値が生まれます。

サスティナブルコーヒーを選ぶということは、生産者・販売者・消費者というカテゴリーで分けるのではなく、お互いが持続可能なコーヒーを一緒に叶える「仲間」だという意識が大切です。

日本サスティナブルコーヒー協会では、サスティナブルコーヒーを次のように説明しています。

安全・安心でおいしいコーヒーを、私たちだけではなく私たちの子供たちの世代も飲み続けられるように配慮されたコーヒー


消費者にとってコーヒーは、毎日に彩る楽しみのひとつであるかもしれません。

しかし、コーヒーは農作物であり、生きものなのです。

コーヒーが美味しく飲める理由は、農園から消費者に届くまでに様々な人の手を介しているからです。

サプライチェーンのすべての段階が豊かであって、はじめて美味しいコーヒーが誕生します。

最近では、コーヒーが投機の対象となっていることも問題視されています。

生豆価格の不安定さが、品質低下、急な価格変化、農家への影響へとつながります。

美味しいコーヒーを絶滅させない、私たちにできることは、事実を知ることと行動に移すことです。

次回の【後編】では、ファストフード感覚で飲んでいる安いコーヒーが及ぼす危険性についてお伝えします。

ぜひ読んでくださいね!

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