農薬は植物に撒くだけではない!土の中の生物を皆殺しにする驚異の「土壌消毒」の実態を、慣行栽培経験者がお伝えします
農薬は植物に撒くだけではない!土の中の生物を皆殺しにする驚異の「土壌消毒」の実態を慣行栽培経験者がお伝えします
日本でも、殺虫剤・殺菌剤といった農薬に対する意識が高まり、慣行農業においてもようやく無駄な散布を控えようという流れに変わってきたように感じます。
ただ、農薬は生育中の農作物に散布されるものだけではありません。
農作物を収穫した後、次の作付けをする前に、畑の土の中にいる病原体や雑草の種を殺すために薬品を散布する場合があるのです。
これは『土壌消毒』と呼ばれています。
特に、限られた圃場を使い回して連作をする施設園芸において多く使用されます。
作物に散布する農薬と違い、土壌消毒は一般の消費者からは見えにくい部分ですが、これは特殊な手法ではなく、実際に多くの生産地で実施されています。
逆に言うと「土壌消毒がないと近代的農業は成り立たない」とも言えます。
今回は、野菜生産を行う企業で実際に土壌消毒を実施していた私の実録から、その危険性に迫ります。
消費者には特になじみのない「土壌消毒」。ここでも農薬が使用される!
一般の方にはあまり馴染みのないものだと思われますので、土壌消毒について簡潔に解説いたします。
なぜ土壌消毒が必要なのか?
野菜を生産する大きな産地や企業は、限られた圃場で、同じ品目の野菜を繰り返し栽培することになります。
それは、なるべく狭い面積で、効率良く大量の野菜を生産して売り上げを増やしたいからです。
スーパーや青果市場も、同じ野菜を年間を通じて安定的に出荷してくれることを望んでいるので、大きな産地はそれに応える形となります。
そうすると、連作障害という問題が発生します。
同じ種族の野菜ばかり栽培していると、それを狙って病原体やセンチュウ、害虫などが土の中に集まってしまうのですね。
例えばトマトを栽培した後でまたトマトを植えると、土の中で待機していたそれら病害虫に襲われて、うまく育たなかったり、最悪の場合は壊滅する恐れもあります。
そういうわけで、土壌消毒を行なって土の中の敵を全滅させてから次の野菜を育てなくてはならなくなるのです。
農薬の一種、土壌消毒剤にはどのような薬品があるの?
用途に応じて様々な薬品があります。私の勤めていた会社で使用していたものは、
◆カーバムナトリウム塩剤
◆1,3-ジクロロプロペン剤
◆ダゾメット剤
この3つでした(いずれも成分名です)。
性能やコストの関係から、最も使用頻度が高かったのは「カーバムナトリウム塩剤」でした。
これは文字通り「カーバムナトリウム塩」を主成分とする黄色い液体です。
これを、背負い式動力噴霧器で土に散布し、すぐにビニールで畑全体を覆います。
10aあたり60ℓ程度散布します。
すぐにガスが出始め、土の中に充満していきます。
10日間ほどそのガスを充満させ続け、土の中の生物を全滅させます。
ちなみに、強烈な臭気を放つので、散布する際はガスマスクと防護服が必須です。
安全のために念のため着用した方が良いというレベルではなく、
着用していないとリアルに危険なのです。
テロなどで暴徒に放たれる催涙弾が、こんな感じじゃないかと思うんですね。
後にカーバムナトリウム塩剤の『使用感』について詳細をお伝えしますが、こういったガスマスク必須の薬剤を使用しないと、近代農業は存続できないのです。
農薬を使う以外に土壌消毒をする方法はないのか?
薬剤を使用する方法以外にも、ビニールで圃場を包んで太陽熱を活用する方法や、水蒸気を使って病原体を蒸し殺す方法などもあるにはあります。
しかし、太陽熱を使う手法は時間がかかる上に天気に左右されます。
水蒸気はコストがかかったり、薬剤ほど効果が完全でなかったりするのですね。
また、連作障害は古来より知られており、植える野菜の種族を変える『輪作』という農法が続けられてきました。
ですが、営利を最優先する大産地や企業の性質上、どうしても同じ野菜を大量生産しないと儲けが出ないので、輪作は選択肢から外れてしまいます。
徹底管理と計画、安定と効率性を求める企業や大産地からすると、それでは困るのですね。
結局、危険性があるとは実感しつつも、薬品を使った土壌消毒を続けざるを得ないというのが現状です。
農薬を使って土壌消毒をする、あまりにも大きな問題点
大袈裟な表現ではなく、毒ガスを発生させる薬剤をダイレクトに畑に撒くわけですから、人へも自然界へも良いわけがありません!
1000倍などに希釈して、農作物にフワッとかける殺菌剤や殺虫剤と異なり、土壌消毒の農薬は、原液を大量に土へぶちまける方式となるので、より影響が深刻なのではないかと思います。
以下、私の実体験に基づいた、土壌消毒の問題点を挙げていきます。
散布者が一番被害を被る!
ガスマスクが必須と先述しましたが『この薬剤を散布する農家自身』が一番ダメージを受けます。納品時に、メーカーの人にカーバムナトリウム塩剤の安全性を尋ねたところ、
「マスタードみたいなもん」
と言われましたが、
実際に使用してみるとそんなもんじゃありません!
散布して土に触れると、カラシと腐った卵の匂いを混ぜて1000倍に濃縮したような匂いを発します。
ガスマスクをしていても完全に防ぐのが難しく、わずかでもスキマがあると侵入して、目とノドがやられます。
焼けつくような痛みに襲われ、涙が噴き出して目を開けることができなくなります。
しかし、時間が経つほど土からガスが吹き出してくるので、すぐにビニールを被せないといけません。
涙で目が開けられなくなろうが、咳き込もうが、我慢しながらビニールを引っ張って任務を完了しないといけないのです。
夏のビニールハウス内で、防護服とマスクを着けて行うと、ガスだけでなく暑さによるダメージも加わります。
強烈な臭気と50℃を超える熱射は、もはや地獄絵図となるのですが、大産地となるとこの作業をほぼ毎日こなして、次々野菜を植えていかねばなりません。
原液自体は、土に触れない限り匂いはほとんど発しないのですが、誤って触れると、猛烈に焼けつくような痛みを引き起こします。
洗い落としてもしばらくヒリヒリするほど強力で、
『こんなものを畑に撒いて大丈夫なのか?!』
といつも思っていました。
この土壌消毒剤を販売している企業のホームページを見ると、
・製品は普通物相当であって、消防法上の危険物ではない
・刺激臭が少ないので安心して作業できる
・栽培する作物によって適切な使用方法が選べる
・専用注入機で処理作業が簡単にできる
このような記載があります。
これだけを見ると「いかにも安全」という印象を受けますね。
農薬販売会社の上記の記載にあるように、確かに土の中に「灌注」する方式であれば、たしかに多少匂いを抑えることはできます。
しかし、その方法だと土の表層付近にある雑草の種子を殺すことができないので、実際のところ土の上から散布する方式を採る場合が多いと思われます。
また「刺激臭が少なく」という記載もありますが、もしかしたら過去に使われていた(または廃番になった)商品の中にはもっと強烈な消毒剤があったのかもしれません。
メーカー側は、それと比較して、刺激が少ないとアピールしている可能性もあります。
土中の微生物のバランスが崩れる
土壌中の生物を皆殺しにするわけですから、環境に優しいわけがないですね。
私は勤めていた会社の圃場で、ミミズ一匹みたことがありません。
土づくりのためと、堆肥は撒いていましたが「土壌消毒で有用な微生物が全滅するのであまり意味がないんじゃないかなぁ…」とも思っていましたね。
さて、一度生物が全滅して、『真空状態』となってしまった畑に、同じ種族の野菜を大量に植えるとどうなるでしょうか?
畑の周辺で待機していた病害虫が、その野菜を狙って訪れて、一気に増殖するリスクがあります。
通常の土であれば、数えきれないほどの微生物がいるので、特定の微生物だけが急激に増えることは少ないのですが、ライバルがいなければ病害虫は一気に増えます。
事実、会社の野菜は土壌消毒をしているにもかかわらず、べと病や軟腐病が定期的に大発生して、殺菌剤がないと栽培が成立しませんでした。
耐性菌が生まれる
殺虫剤や殺菌剤でも、薬剤に耐性を持つ害虫・微生物が現れて問題になっていますね。時々散布する農薬でさえ出てくるのですから、10日間も土に居続ける土壌消毒の薬剤は、より耐性菌を生み出すリスクがあるのではないかと思います。
しかも、原液を大量に撒くので、近隣の川や海、地下水を汚染してしまう恐れもありますね。
メーカーの人に聞いても、「カーバムナトリウム塩で問題が起こった前例がない」ということでしたが、それは『今のところは』が付くのではないかと思います。
最近話題となった珪藻土マットのアスベストにしてもそうですが、開発当時は「問題ない」とされて世に出てきたものが、後になって危険だと発覚するパターンは多いですよね。
複雑な自然界を、人間の小手先の科学で把握することなど不可能です。
ネットで調べても、土壌消毒の害は、なぜかあまり情報が出てきません。
複雑な土の中のことまで調査が及んでいないだけという可能性もあります。
しかしわかりにくい分、土壌消毒の使用は、殺虫剤や殺菌剤以上に、慎重になった方が良いと私は考えています。
農薬によって土壌消毒されていない、安全な野菜を選んでほしい!
環境への負担や、生産者の安全、そして消費者自身の健康を考えるならば、土壌消毒をされていない農作物を選ぶ必要があります。しかし、スーパーに並んでいる野菜に、いちいち「この野菜は土壌消毒をしていません」などとは表記されていません。
そこで、具体的な対策を以下にまとめてみました。
有機JAS認証の野菜を買う
出典:一般社団法人オーガニック認証センター /有機JASマーク
最も、信頼できる選び方です。有機農業であれば、土壌消毒の薬剤を使用できませんし、そもそも土の状態が安定している有機農業では、薬剤を使用しないといけないほど土に病害虫が増えるということは稀です。
ちなみに、有機JAS認定は得ていないものの、実質農薬類を使用していない農家や産地が『栽培期間中農薬不使用』と表記している場合があります。
“栽培期間中”というのが、微妙な表現ですね。
圃場を準備している期間が含まれるのかどうか、グレーな印象があります。
栽培をしていない時期に、圃場へ除草剤を撒くといったことは想定されますので、こればかりは個々の農家ごとの方針による…としか言えないところがありますね。
そういった表記を出している農家や産地に、直接尋ねてみるのが一番確実でしょう。
★農薬を使わずに育てられた奇跡の「いちご」
地域の直売所で買う
土壌消毒が必要となるのは、基本的に大産地であったり、ビニールハウスで年中野菜を栽培する、規模の大きな産地である場合が多いですね。薬剤自体高額ですし、噴霧器が必要となるだけでなく、散布作業に3人程度を必要とするので、個人経営ではなかなか取り入れにくい手法です。
地域の小さな農家の生産した野菜であれば、土壌消毒をしている可能性は低くなります。
近隣であれば、畑の様子を見に行くこともできますしね!鮮度の問題だけでなく、安全性の面からも、極力近くで栽培された野菜を食べる方が安心です。
生産者のSNSをチェックする
生産者の中には、SNSで栽培の様子を投稿している人もいます。
有機農業や、土壌消毒を使用しない環境保全型農業を実践している人は、畑や野菜の様子を隠すことなく公表しているはずです。
メッセージで、土壌消毒の使用の有無を尋ねてみるのも良いでしょう。
情報を公開している生産者の野菜を購入すれば、安心ですね。
★自然栽培ヤーコン(愛媛県産)どんな料理にも使えます。低GI・腸内環境の最高のパートナー
農薬を使わない有機農業の土壌消毒はどうやっているの?
薬剤を使わずに土壌消毒をする方法は太陽熱を利用したり、水蒸気を使った方法があると先述しました。
しかし、太陽熱を使用する方法はビニール資材を使用しますし、水蒸気も高額な機械を使って水蒸気を作ってやらねばなりません。
そこで、私が実践している古来より行われてきた土壌消毒”寒起こし”を紹介いたします。
古来より行われてきた土壌消毒『寒おこし』とは?
昔は、冬になると農家が、何もない畑を粗く耕している姿をみかけることができました。
何もないところを、ザックリと耕して「あれは何をしているのだろう?」と不思議に思われた方もいらっしゃるかもしれません。
あれは、自然の力を利用した『土壌消毒』なのです。
土をひっくり返して、霜や寒風にさらし、病害虫や雑草の種を退治しているのです。
冬将軍を、味方にするわけですね。
化石燃料や薬品を1mlも使うことなく、病害虫を退治することができます。
便宜上『土壌消毒』と表記しましたが、薬品のように全滅させるわけではありません。
ほどよく抑える程度なので、環境への負荷を抑えつつ、野菜の生育を助けることができます。
旧来の農業は、冬になると仕事が減ってくるので、草鞋を編んだり傘を作ったり副業をしつつ、寒起こしを行なって春作の準備をしていたのです。
寒起こしのやり方
備中鍬や唐鍬といった「打ち鍬」を使用します。
刃が厚く、しっかり地面に突き刺さるタイプの鍬です。
これを使って、テコの原理で土をボコっと起こしてひっくり返していきます。
細かく砕く必要はありません。
11月、しっかり霜が降りる頃になったら、収穫の終わった畑をザクザク耕していきます。
「今時鍬なんて・・・手に豆ができそう・・・」と思われるかもしれませんが、大丈夫です。
鍬は、慣れてくると力をほとんど使わず振ることができるようになります。
柄は手から抜け落ちない程度に軽く握り、遠心力で刃を頭上に上げます。
あとは、刃の重さに任せてスッと土に「落とす」だけでいいのですね。
十分突き刺さります。あとは、身体全体を使ってテコの原理で土を起こすだけです。
ついでに土も団粒化する
粗く起こしてひっくり返された土の塊は、冬の間、凍結と解凍を繰り返すことになります。土の塊は膨満と収縮を繰り返すことで、適度に崩れていきます。
そうすると、春になる頃にはハラハラと砕けて、自動的にほどよく団粒化した土になるのです。
機械の力に頼らずとも、自然の力で勝手に耕された状態になるのですね。
家庭菜園でも、鍬さえあれば誰でもできるので、ぜひ試してみてください!
土壌消毒剤を使わないといけないのは、現代の食生活が原因!
以上、消費者からはなかなか見えにくい、土の話でした。
土壌消毒剤を使わないとやっていけない原因をたどると、年中、季節を無視して同じ野菜を必要とする現代の食生活にあります。
生産者は、そのニーズに応えてモノカルチャーに走り、利益を得ようとしているだけなので、本来わざわざそんな危険な薬剤を使う作業なぞ、誰もやりたくないはずです。
有機農産物のニーズが高まれば、生産者もそちらにシフトしていきます。
販売が見込めないことには生産者も有機農業を始めることが難しいので、まずは有機農産物の普及・一般化が大切ですね。
もちろん農家サイドも、安易な量産による売り上げ向上に流されない意識を持つことも重要です。
私もイチ農家として、農薬と化学肥料を使わない農業を広めていきたいところです。
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